「自然にやる気が出るのを待とう」と考えることはありませんか。しかし、感情は行動の後についてくるものなので、何もしないでやる気になることはあまりないと、新刊『 感情戦略 』の著者、ブリアンナ・ウィースト氏は言います。感情の癖が分かれば、生き方に役立てられます。『感情戦略』の一部を抜粋し、紹介します。

人間は信じられないくらい利己的

 ダイエットや勉強など、どう考えてもした方がいいのにできないこと――『感情戦略』では、これを自己破壊的行為と呼んでいますが、これができないときは、ふたつの矛盾する欲求が衝突して、身動きがとれなくなっています。ひとつは意識的、もうひとつは無意識的な欲求です。

 乗り越えることができないくらい大きな問題が人生に起きているとき、とりわけ、解決法はシンプルで簡単なのに、なぜかそれを続けられない。そのときに抱えているのは大きな問題ではなく、実はただの執着です。

 人間は、やりたいことなら基本的に何でもします。これは、人間の生活のあらゆる部分に当てはまります。どんな結果を招こうとも、人間の本質は信じられないくらい利己的です。どうしてもやりたいことがあれば、人は誰を傷つけようが、どんな影響があろうが、あるいは将来的にどんなリスクが生じようがお構いなしです。

 そう考えると、あなたの人生に今あるものは、あなた自身が本当は欲しいと思っているからあるのです。例えば、なぜかいつも「間違った」恋愛相手を選んでしまう人がいます。拒絶される、虐待される、浮気されるがお決まりのパターンになってしまう人です。

 それはもしかしたら、幼い頃に経験した人間関係から、喪失や見捨てられることと愛とを結び付けており、気づかずに今の人間関係で再現しているのかもしれません。あるいは、うまくいっていなかった幼い頃の家族の関係を再現したいのかもしれません。子どもの頃のような関係の中に今度は大人として身を置き、依存症やウソつき、何らかの問題を抱えている人を、今回こそ助けたいと思っているのです。

感情は思っているよりも強く流されやすい(写真:Shutterstock)
感情は思っているよりも強く流されやすい(写真:Shutterstock)
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安心感という「感情」を意識的に切り離して、理論で行動すべき

 自己破壊的行為を克服するためには、行動と感情を切り離すすべを学ぶことです。人生を前へ進めようとしているのに自ら阻止してしまう理由は、変化を起こす力がないからではありません。変化を起こす気になれないからです。

 その理由は、「人の感情が基本的に、安心を求めるようにできている」ことです。自分が慣れ親しんだ場所にいる状態を、私たちの体は「安全」と解釈します。ですので、大きな安心を感じる実績や変化に、私たちは満足します。すごい実績を約束された未来があっても、何らかのリスクを負ったり慣れないことに直面したりしてしまう可能性があれば、たとえ結果的にはそれが人生にとって良いものであっても、最初は良い気分にはなれないでしょう。

 とはいえ、自分のためになる行動をしたくなるよう、自らを訓練することができます。自分が快適だと感じることを再構築することができれば、人は、自分にとっていい行為を、もっとやりたいと切望するようになります。

 慣れない行為の最初の数回はたいてい、不快感が伴います。再構築の秘訣は、最初に感じるこの躊躇(ちゅうちょ)を書き換えることです。そうすれば、感情ではなく理論と理性によって人生を進められるようになります。

 感情が知っているのは、ただあなたが過去に何をしてきたかです。そして感情は過去に得た安心感にただ満足しているだけです。何よりも重要なのは、「私は行動なんて起こせない」と感じたとしても、必ずできるということです。慣れていないから「やりたい」と思わない、それだけです。

 きちんと自分で考え、なんとなくという感情に流されず、これから何をしたいかというビジョンを頼りに歩みを進めましょう。これまでとは違う、もっと良い人生を経験できます。そう想像すると、穏やかでありながら刺激のある人生になります。そうした人生を手に入れるには、抵抗と不快感を乗り越えなければいけません。それがいかに自分にとって「正しい」行動であっても、初めのうちは良い気分にはなれないでしょう。

 やりたいという気持ちは先には起こりません。まず、行動を起こし、それに慣れていくうちに気持ちが追い付いてきます。感覚は、自然と湧いてくるものではありません。自分でつくらなければいけないのです。自分に発破をかけ、動かなければいけません。自分を抑え付けるのではなく、人生を前に進めるような行動をしたくなるように、人生とエネルギーの方向性を定め直す必要があります。

「自然にやる気になるのを待つ」のはけっこう難しい(写真:Shutterstock)
「自然にやる気になるのを待つ」のはけっこう難しい(写真:Shutterstock)
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訳/松丸さとみ

感情戦略
本書では、感情がどれほど人間を操るのかを説明しています。私たちは、安心感を得たり、過去に受けた傷を見ないようにしたり、はたまた自分が今味わっているつらい感情を見ないためなら、何でもします。本書を読んで、感情についての最新知識を身に付けましょう。

ブリアンナ・ウィースト(著)、松丸さとみ(訳)日経BP、1760円(税込み)