クレイトン・クリステンセンは、「リーダー企業がイノベーションに失敗するのは、顧客志向でありすぎるためだ」と主張します。リーダー企業は、共に育ってきた顧客のニーズに応えることが絶対であるため、遠い顧客向けの「新しい技術」に気がついたときには後の祭りだと。この「破壊的イノベーション」と呼ばれるコンセプトを、『 マンガ 経営戦略全史〔新装合本版〕 』(三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画)から抜粋してお届けします。

クレイトン・クリステンセン
敬虔なモルモン教徒。ボストン コンサルティング グループ(BCG)でも決して週末は働かなかった
40歳 ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で教鞭を執る
45歳 『イノベーションのジレンマ』で破壊的イノベーションの概念を広める
51歳 『イノベーションへの解』で組織的対応策を示す
58歳 悪性リンパ腫に冒される。病状回復後、執筆・教育活動を再開
59歳 『イノベーションのDNA』でリーダーに必要な「発見力」を示す
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「破壊的イノベーション」の本質

●野中郁次郎たちが「SECIモデル」によって漸進的なイノベーションの生み出し方を考えていたのに対して、HBSのクレイトン・クリステンセン(Clayton M. Christensen、1952~2020)は『 イノベーションのジレンマ 』(1997、邦訳は翔泳社)で驚くべき主張をします。「リーダー企業がイノベーションに失敗するのは、顧客志向でありすぎるためだ」と言うのです。

●リーダー企業は必ず、共に育ってきた大切な顧客を持っています。その顧客のニーズに応えることは絶対で、懸命に「既存の技術や仕組み」を磨き、それをどんどん高めていきます。しかし、「新しい技術や仕組み」は、そこから遠く離れたところに生まれ、進化していきます。そしてある日、その重要さに企業も顧客も気がつきますが、後の祭り。ハーレーにとってホンダのスーパーカブがそうでした。こういったイノベーションをクリステンセンは「破壊的イノベーション」と名づけました。

別働隊で、別顧客相手にやってみよう

●クリステンセンは、その解決方法をまず組織に求めました。今のビジネスで今の顧客、取引先相手にやっていたら、絶対、それをすべて打ち破る「破壊的イノベーション」など生まれない。だから、「小さな別働隊」をつくって、既存顧客には売り込まず、それを求める新しい顧客を開拓しよう! と。そしていったん新しい顧客をつかんだら、SECIサイクルでの漸進的イノベーションの出番です。こういった議論を『 イノベーションへの解 』(2003、邦訳は翔泳社)でした後、8年間の研究を経て11年、クリステンセンはガンに冒された病身を押して『 イノベーションのDNA 』(2011、邦訳は翔泳社)を上梓します。

「イノベイティブなリーダー」が必要

●クリステンセンらはここで、組織でなくリーダーシップに答えを求めました。著名なイノベーター100名をインタビュー・調査し、そこで見つかった共通の思考・行動パターンをもとに、世界75カ国以上、500名を超えるイノベーターの調査を行いました。

●その結果は、それまでの学会での常識を打ち破るものでした。イノベーターには、明確な特長があったのです。

・5つの基本的な発見力((1)関連づける力、(2)質問力、(3)観察力、(4)ネットワーク力、(5)実験力)に優れ、人より時間を費やしている

●クリステンセンはこういった「発見力」こそが、リーダーシップとしてもっとも大切な資質だと言います。そして、それは単なる才能ではなく鍛えられるものだと。日本版の序文で彼は、「イノベーション能力は筋肉のようなもので、鍛え、矯正することが可能だ」「破壊的イノベーションは、チームプレーにほかならない」「リーダーが率先して、発見力を自由に発揮できる環境を(社員に)整えれば、よい方向に向かうだろう」と書きました。これは東日本大震災に苦しむ日本に向けた、彼らの応援メッセージでもあったのです。

シナリオ/星井博文 画/飛高翔 編集協力/トレンド・プロ

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三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画/日本経済新聞出版/2090円(税込み)