日経MJの月曜付け連載「竹内謙礼の顧客をキャッチ」で、最も反響が大きかったコラムは? 取材先に地域ごとの特徴はあるか? なぜ副業をする人やサブスクリプション(サブスク)サービスが拡大しているのか? 『 逆境を活かす店 消える店 』(日本経済新聞出版)の著者で、全国450社以上の中小企業や個人ビジネスを取材してきた、現場派マーケティングコンサルタント、竹内謙礼氏へのインタビュー第2弾。
(第1回から読む)
コラムをきっかけに雑誌、SNS、テレビが後追い
読者の反響が一番大きかった回はどれですか。
竹内謙礼氏(以下、竹内):コラム掲載後、SNSやさまざまなメディアが追いかけ、テレビのクイズ番組に取り上げられた回がありました。
福岡県久留米市に「軍手工房.com」というサイトを運営しているイナバという会社があり、ユニークな軍手や手袋を自社工場で製造・販売しています。この会社を取り上げたコラムを見たライターが、雑誌『モノ・マガジン』のカラー2ページで紹介しました。するとツイッターなどのSNSでどんどん拡散し、それを見たテレビ局の人がクイズ番組で取り上げました。よく言われていることなのですが、日経MJの記事やコラムは雑誌やテレビなどの人がネタ探しに見ているそうです。
軍手工房の軍手はどんなものですか。
竹内:軍手工房の稲葉順社長は新しいことを発明するのが大好きな職人です。例えば手袋の下につける手袋を「手袋の下着」と名づけてヒットさせました。また、銀の糸で編んだ抗菌・抗ウイルス効果のある手袋とか、犬の歯を磨くための手袋とか、職人がコツコツと今どきのヘンな商品を作っていると、メディアとしては取り上げやすかったのかなと思います。
取材先からの反応はいかがですか。
竹内:「コラム掲載後、売り上げが急増した」という連絡が取材先から届くことが時折あります。一番感謝されたのが、Amazonの出店者向けにコンサルティングをしているアグザルファという会社です。
3~4年前でしたか、当時からAmazonの運営方法がブラックボックスで、よく仕様が変更される傾向がありました。同社はキーワードの打ち出し方や広告の使い方などを出店者向けにアドバイスしていました。そのことをコラムに書いたところ、顧客が急増し、アグザルファの比良益章社長からは、「後にも先にもお客さんからの問い合わせが一番増えたのは竹内さんのコラム」と言われました。
ユニークな四国、取材しやすい名古屋
地方企業が多いとのことですが、どこのエリアが面白いですか。
竹内:私が高知出身ということもあるのですが、高知は面白いです。商工会議所が紹介してくれることも多いのですが、外れがありません。
高知のみならず四国4県では、何でこんなビジネスがあるの、みたいな、個性的な商売をやっている人がいます。正しい鉛筆の持ち方を習得できるグッズを開発した会社、ジビエの肉を使ってドッグフードを作っている会社、エノキダケを乾かしてお菓子にしている会社、豆腐を薫製にして売っている会社など、ネタがとんがっています。四国は本州から行くには結構時間がかかる。情報が限られる中で生きていかなきゃならないから、独特の商売が成立しやすいとも言えます。
名古屋や東海の会社は取材しやすいとのことですが。
竹内:このエリアの商売人は最後まで話してくれる印象があります。経営者を見ていてゆとりを感じるのは、圧倒的に名古屋です。
少し話が違うかもしれませんが、コンサルタントが名古屋でセミナーをやってうまくいくようだったら全国で通用するというぐらい、名古屋の経営者の目は厳しいと言われます。逆に言えばお金を持っていて、情報を見極めるだけの余裕があるのかもしれません。
北陸から新潟にかけてはネタが整っているというか、きれいな印象があります。宿泊施設を取材しても何かこう、ふにおちるというか、納得させられます。
東北の事例は少ないのですが、なぜか山形だけは多いです。特に庄内地方にはキーパーソンがいて、地元の山形の会社をいろいろ紹介してくれます。鶴岡市や酒田市も面白いです。2019年の消費税増税時、酒田の「ふとんの池田」という寝具店ではキャッシュレス還元が話題になると予想、「電子マネーで支払いができるお店」とプレスリリースを配信、メディアに真っ先に取材してもらい集客につなげました。それをきっかけに近所でも電子マネーを導入する店舗が増え、街全体でキャッシュレス還元が盛り上がる流れになりました。
マッチングサイトで電話相談
個人ビジネスもたくさん紹介しています。
竹内:「ココナラ」というマッチングサイトを使い、副業で悩みごとの電話相談を行っている「けんちゃんママ」という女性がいます。連載の中で「本名ではなく愛称でもOK」となったのは、この回だけでした。けんちゃんママも日経MJに登場して、電話相談の依頼が増えたと言っていました。月に30万から40万円稼ぐそうで、もはや副業の域を超えています。「電話で悩みごとを聞く方法」自体をパッケージにして商品化したりもしています。
ココナラとはどういうものですか。
竹内:ココナラのキャッチフレーズは、「みんなの得意を売り買い スキルマーケット」です。これまでランサーズやクラウドワークスのような副業サイトがありました。ココナラはそれらとは違って個人をターゲットにした少し緩い感じのマッチングサイトです。
例えば、動画編集を1本5000円とか1万円でやってくれる人をつなぐビジネス代行、美容相談、恋愛相談、占いなど、個人向けのさまざまなサービスをマッチングします。そのうちの1つに「電話で悩みごとを聞く」というのがあります。
出品者は「相談1分につきいくら」と決めて購入者を募ります。ココナラが間に入るので、電話番号が相手に知られることはありません。「今から怖い漫画家の原稿を取りに行かなきゃいけないんだけれど、励ましの言葉を1つください」とか、「時代劇に出るので、台詞(せりふ)の練習相手になってくれないか」とか、「昔の彼氏への恨みごとを聞いてほしい」とか、内容はそれこそさまざまだそうです。最長で8時間以上聞いたことがあるそうです。
「おっさんレンタル」や「レンタルなんもしない人」の電話版みたいです。
竹内:私はけんちゃんママをオンラインで取材しましたが、話を伺っていると何か引き込まれるような魅力を感じました。人の悩みをちゃんと聞いてあげて、上手に相づちを打って、アドバイスもできるというのは、そう誰もが持っているスキルではありません。
究極の個人スキルですね。
竹内:はい。コロナ禍で副業を希望する人は増えています。その理由は労働時間や給料が減ったこと、将来への危機感を持つ人が増えたこと、副業を認める会社が増えたこと、在宅で仕事をしやすくなったことがあります。
「ココナラ」のようなプラットフォームができたので、サイドビジネスを始めやすくなったとも言えますね。
竹内:そうですね。けんちゃんママも当初はうまくいきませんでした。ココナラはマッチングスキルを売るサイトなので、「体育会系の息子2人に素早く弁当を作る方法」のようなスキルを販売していましたが、まったく売れません。そこで、電話相談を始めるようになったそうです。
ネット上のプラットフォームを利用して新たなビジネスを始めるという意味では、サブスクのサービスも急拡大しているそうですね。
竹内:はい。スマホを使ったサイト、例えばfavyサブスクなどを使ってサブスクサービスを始めたお店や会社が結構あります。
コロナ禍でサブスクを利用する人が急増しています。オンラインで定額制サービスを提供しやすくなり、「サブスク=お得」というイメージが広がったことが大きいと思います。新著では、飲食店や電動歯ブラシのサブスクの事例を紹介しています。
東京でラーメン店を展開する福しんは、来店時に350円以上注文した人に限り1日3回まで6個入りの餃子(ギョーザ)を無料で食べることのできる餃子定期券を販売しています。スマホ決済で月額500円。コロナ禍でありながら、客数は前年比で2割増えているそうです。
一方で、9割のサブスクサービスは失敗しているという調査結果もあります。サブスクは始まったばかりのビジネスモデルですから、軌道に乗せるには時間がかかると考えたほうがいいでしょう。

[日経ビジネス電子版 2021年9月28日付の記事を転載]
小さな会社・お店がコロナ禍に生き残る秘訣!! 超ユニークな事例満載
コロナ禍で消えた店や会社には、コロナ不況以前にも、何かしらの問題があった。脆弱な財務、「なんとなくの経営」、市場の変化に対応できないビジネスモデル――。
一方で、生き残っている店や会社は、目の前で起きた困難にすばやく対処しただけではなく、もともとあった危機意識の積み重ねによって改善をし続けてきたのである。 (本文より)
日経MJの長期連載「竹内謙礼の顧客をキャッチ」の取材をもとに、小さな会社や店舗、中堅企業の逆風下における戦い方を示す。
竹内謙礼(著)、日本経済新聞出版、1760円(税込み)
目次
第1章 コロナに勝つ会社、コロナで消える会社
第2章 業界セオリーをひっくり返し、逆境に打ち勝った「非常識戦略」
第3章 逆境の中でもトコトン楽しんでもらう「エンタメ戦略」
第4章 ナナメの発想で生き残る「新アイデア戦略」
第5章 コロナ禍の新消費動向に対応する次世代戦略
第6章 コミュニケーションの質を極める「ネット新戦略」