「子どもにお金について教えるために、親からどんな話をしたらいいでしょうか?」

 投資家という仕事柄、こんな相談をよく受けます。そして、同じテーマでの執筆の依頼もこれまで多くいただきました。

 役に立ちたいと思いながら、期待通りの話ができるか、いまいち自信を持てません。なぜなら、僕はいつもこう考えてきたからです。

大人が子どもに「教える」なんてとんでもない

 「物事の本質やその未来について、大人が子どもに『教える』なんてとんでもない。むしろ、大人が『教わる』ほうだ」

 今年2月に出版した『 投資家がパパとママに伝えたい たいせつなお金のはなし 』も、編集者とのそんなやりとりから始まりました。

 編集者は当初、ファンドマネジャー歴30年以上になる僕が金融教育の“正解”を説く本を想定していたようですが、僕は「子どもたちにインタビューをさせてほしい」とお願いしました。

お金の本質を考える、小学生と藤野さんのやり取りが収録されている
お金の本質を考える、小学生と藤野さんのやり取りが収録されている
画像のクリックで拡大表示

 お金は好き? 嫌い?
 今一番買いたいものはどんなもの?
 お金持ちになりたいですか?
 なりたいとしたら、どうしたらなれると思いますか?

 そんな質問から会話を広げながら、何人かの小学生と一緒にお金や仕事について考える時間を過ごしました。

 僕は長い間、大学で授業を持ち、最近は中学生や高校生とも積極的に話すようにしているので、年の離れた若い人と話す機会は多いほうだと思います。

 そのたびに大切にしてきたのが「対話における立ち位置と目線」です。

 年下の相手に対して「自分より経験が浅く、未熟な人」という捉え方はしない。同じ時代を共に生きる「同時代人」として、フラットにオープンに心を開いて耳を傾けるスタンスでありたいのです。

「フラットでいることはいつも心がけています」
「フラットでいることはいつも心がけています」
画像のクリックで拡大表示

 今回の本で対話した小学生の皆さんと僕との年齢差は40歳ほどありますが、人類が歩んできた歴史の物差しで測れば、ほぼ誤差の範囲ですよね。つまり、同じ時代を旅する航海の仲間なんです。

大学生と話すとき、絶対しないこと

 今日という日に同じ時間を過ごし、1年前にウクライナで戦争が始まったことや、メジャーリーグで大活躍する大谷翔平選手や将棋棋士の藤井聡太六冠というスーパースターの存在を知っている。これから突入する超高齢化社会に何が起きてどんな手を打つべきなのか、未知の課題を乗り越えるべく、手を取り合って共に立ち向かっていく仲間なんですよね。

 そこに上下関係はあるはずもなく、ただ水平な心で向き合うのが自然だろうというのが僕の考えです。

 例えば大学生と話をするときに、年長者は「目線を合わせよう」という意図から、自分が大学生の頃に何が起きて何を考えていたかという話をしがちです。僕は、これは絶対にしないと決めています。なぜなら、大学生の頃の自分と今の自分では、今の自分のほうが今の大学生に近い存在になれると思うからです。

「スマホがなかった時代の話を持ち出すより、『今』の話をしたほうが距離が近くなりますよね」
「スマホがなかった時代の話を持ち出すより、『今』の話をしたほうが距離が近くなりますよね」
画像のクリックで拡大表示

 同時代人として、今どんなことを面白がっていて、どんな困りごとを抱えているのかを分かち合うほうが、旅の仲間になれます。

 もちろん、年を重ねた分の経験値という付加価値はあります。それもフラットなコミュニケーションの中で、自然とにじみ出るくらいがいいかなと思うのです。上下関係という単純な物差しだけで相手を威圧してマウントをとるような大人にだけはなりたくありません。だから、僕は相手の年齢に関係なく「さん」付けで呼びかけますし、口調も変えません。

 こうした目線や向き合い方を、相手は敏感に受け取るものだと思いますし、フラットな関係からはいろんな発想や意見の交換が生まれます。

 世の中のルールや常識について先入観もなければ忖度(そんたく)することもない子どもたちと「お金」や「仕事」について対話をすると、ハッとさせられる場面がたくさんありました。

 今の小学生は、街中の買い物で電子決済の利用が当たり前になった時代に生まれた世代です。硬貨や紙幣はむしろ特別なお金、「きれいで精巧な工芸品」のように映るようで、「一番カッコイイのは500円玉。できれば使いたくない」という子もいました。透かしや刻印の細部をよく観察して、「ここがすごい」「ここも不思議」と興奮気味に話す子どもたちの反応を聞きながら、「僕はお金を扱う仕事をしながら、お金のことを全然見ていなかったなぁ」と気づかされました。

 子どもたちは、世の中を観察して本質を見抜く天才でもあります。小学1年生の男の子が、システム障害が何度も報道されたメガバンクのことを「よく壊れる銀行」と表現したのには、思わず腹を抱えて笑ってしまいました。

リスペクトしている若き同時代人

 また、小学5年生の男の子に将来の職業の希望について聞いたときに返ってきたのは「ホワイトでもブラックでもない会社でプログラマーになりたい」という答え。「ホワイトでもブラックでもない」という表現が秀逸ですし、「それってどういう会社だろう?」と面白い問いかけへとつながりました。

 心からリスペクトし、「一緒に未来をつくっていきたい」と思う若き同時代人もたくさんいます。

 その一人が、小学6年生の時に起業したレウォンさんです。感性豊かなレウォンさんは“普通”の学校教育に息苦しさを感じ、「もっとワクワクしたい!」という気持ちを爆発させて、『元素カルタ』や『漢字mission』という独自の教材を開発。ある方から紹介されてレウォンさんと初めて会ったその日から、僕はすっかりファンになりました。

 いえ、ファンどころか、「藤野さん、僕の会社のチーフ・ニコニコ・オフィサー(CNO)になってください」という誘いを受け、“部下”になってしまったんです。

レウォンさんとの出会いの経緯や会社の取り組みについて語った対談も本に収録。イラストはレウォンさんが描いている
レウォンさんとの出会いの経緯や会社の取り組みについて語った対談も本に収録。イラストはレウォンさんが描いている
画像のクリックで拡大表示

 僕がいつも若き同時代人の目線から学ぼうとするのは、それが未来を見通す上で合理的だからという理由もありますが、それだけではありません。純粋に、僕自身が「上下関係を前提にしたコミュニケーション」が好きではないからです。

 では、なぜそういう価値観に至ったのかと考えてみると、どうやら子ども時代の読書体験が強く影響しているようです。次回はそんな話をしてみたいと思います。

取材・文/宮本恵理子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/洞澤佐智子