その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は武井一浩さん他の 『コーポレートガバナンス・コードの実践 第3版』 です。

第3版はしがき

 2015年の初版刊行から約6年、2018年の改訂版の刊行から約3年が経過し、2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが再改訂されたことを受け、第3版を刊行しました。

 今般のコーポレートガバナンス・コードの再改訂は、企業を取り巻く環境の変化が一段と加速する中で、企業が課題を認識した上でそうした変化に適切に対応し、そうした変化を先取りすることで新たな成長機会としていくことを通じて、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を後押しすることを目指して行われたものです。

 また、今般の改訂は、東京証券取引所における市場構造改革とも密接にリンクしており、改訂版コードにおいては、特に国内外の幅広い機関投資家の投資対象となりうる日本を代表する一定の国際的競争力等を有する企業が上場することが想定されているプライム市場の上場会社に対しては、「一段高いガバナンス」が求められています。

 今般の改訂内容は多岐にわたりますが、いずれも企業実務に影響を及ぼす重要な内容になっています。例えば、指名委員会・報酬委員会の機能向上へ向けた取り組みや、取締役会が備えるスキル(知識・経験・能力)と各取締役のスキルとの対応関係を示す、いわゆるスキル・マトリックスの策定・公表等は、取締役会のさらなる機能発揮に向けて、重要な取り組みといえます。また、メガトレンドになっているサステナビリティをめぐる課題への取り組みについても、会社としての基本方針の策定やガバナンス体制の整備のほか、サステナビリティに関する取り組み内容の開示、さらには、プライム市場上場会社に対しては気候変動に係るリスク・機会や自社への影響等についてTCFD等に基づく情報開示が求められるなど、コーポレートガバナンスやビジネスモデルのあり方そのものを抜本的に見直す契機ともなりうる重要な内容が盛り込まれています。近年になって人的資本や知的財産への投資等の重要性が高まっているところ、こうした点についても、取締役会における実効的な監督や、関連する情報開示が新たに求められています。サステナビリティ委員会の実務も今後さらに進展していきます。

 今回の第3版では、第2部において、「2021年ガバナンス・コード改訂と今後の実務対応」と題して、前回までと同様、機関投資家やIR・SR等の各界の第一人者の皆様に、今般のコード改訂の背景・趣旨や実務対応等について、座談会形式でご議論いただきました。

 今回の改訂では、紙数の都合もあり、初版と改訂版の内容の多く(序章2から第4章まで)は掲載することができませんでした。ただ現時点でも重要な議論・指摘が多く、全て削除することを避けるため、第1部において、関連する議論の一部を「補足コメント」として残しています。したがって、第1部で「補足コメント」とされている箇所は、2015年あるいは2018年時点における議論内容の再掲となります。一部しか掲載できなかったのは残念ですが、今回新たに追加した第2部の議論とあわせて、本書全体では相当の情報量を掲載することができました。

 本書が、コーポレートガバナンス・コードを活用する現場の皆様に有益なものとなれば幸いです。なお、言うまでもないことですが、本書で述べられている各意見は、それぞれが所属している団体・事務所・委員会等としての意見ではなく、個人の立場としての意見であることを、念のため付言します。

 最後に、第3版の刊行にご尽力いただきました日経BP書籍編集1部の長崎隆司編集委員に、心より謝意を表します。

令和3年7月  編著者 弁護士 武井一浩

初版はしがき

 本書は、日本経済の成長戦略の一環として大変関心が高まっている「コーポレートガバナンス・コード」について、実務的観点から、現場の方々からのご意見を対談形式で所収したものです。

 今回のガバナンス・コードは、「プリンシプル・ベース」が採用されていることもあり、企業として「攻めのガバナンス」の実現に向けた各種の工夫が重要となっています。ステュワードシップ・コードともあいまって「株主・投資家との建設的対話」も1つの重要テーマです。ただ、上場企業側として株主や投資家の声を聞くといっても、果たしてどういった点がポイントになるのか、多種多様な意見が寄せられることも想像されます。

 ガバナンス・コードへの対応は、形式的な数合わせやひな型的対応でなく、自社の持続的な成長と中長期的な企業価値創造・向上に前向きに活かす形で行うことに意義があると考えられます。本書は、ガバナンス・コードへの実務対応という観点から、プロとして現場で日本企業の動向を見ていらっしゃる代表的な投資家・アナリストの方々にご登壇いただき、キーとなる点や関心の高い点について、真摯に、かつ忌憚なく述べていただきました。大変示唆に富む重要なお話や論点がいろいろ浮かび上がっております。またガバナンス・コードへの対応に当たってはインベスター・リレーションズ(IR)やシェアホルダー・リレーションズ(SR)の目線、及びその実務の蓄積も大変重要となりますので、IRやSR分野の第一人者の皆様にもご登壇いただいて、貴重なお話をおうかがいしました。大変お忙しい時期に本書にご協力いただいた皆様に心から感謝の意を申し上げたいと思います。

 全ての対談において共通して感じられたのは、日本経済が現在抱えている課題に対する真摯な問題意識と、ガバナンス・コードに対する大きな期待でした。本書が、今回のガバナンス・コードを、自社の持続的成長・中長期的企業価値向上に前向きに活かされようとしている企業の皆様の、現場における各種工夫の一助となれば幸いです。

 最後に、今回のガバナンス・コードの重要性にご共鳴いただき、本書の刊行を進めていただいた日経BP社出版局の西村裕編集委員に謝意を表します。

平成27年4月  編著者 弁護士 武井一浩


【目次】

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