その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は梅森浩一さんの『 「絶対」価値観。 人事のプロが教える「自分の軸」の見つけ方と使い方 』です。
【はじめに】
就活生や若手社員のみなさんは、きっとこれまでもさまざまなやり方でご自身の性格を分析されてきたことでしょう。
ちなみに以下は、著者である私の簡単な性格分析です。とはいっても、すべてを自分自身で表現したものではなく、その多くは一緒に仕事をしている知人の一人がこの機会に分析してくれたものです。
それによると、何より私は意志が強く、情熱的でかつ外向的な性格とのこと。また自尊心も強く、独立心が旺盛で、正義感だって強く、さらに公明正大な性格とか。
これらは、他者から見た私の性格における「プラス面」ですが、当然のことながら「マイナス面」も(残念なことに)多々見られるそうです。
正直お伝えしたくない気持ちを抑えながらその一端をお話しすると、例えば私には誇大妄想癖があり、高慢で短気だし頑固、その一方お人好しで無鉄砲なところもある……。
「あゝ、もうやめて!」と思わず叫び出したくなるような、その実「あたってる」と認めざるを得ない、私の「光と陰」を網羅した他人判断による性格分析となります。
ただしこれらは、そんな私の性格や行動をも左右する「私の本音の価値観」まで表現しているわけではありません。なぜなら本当の私の価値観は、私自身にしか知り得ないからです。
「絶対価値観」とは?
ちなみにみなさんの自己分析結果は、これまでどういった内容なものだったでしょうか?
おそらくその多くはプラス面を強調したもので、若干のマイナスに見える点も、実は巧妙にプラス面へと転化しやすい形で表現されていたはずです。
でもそんなあなたの、練りに練られた自己分析には、一体どれほどあなたが大切にしている「本音の価値観」が反映されているでしょうか?
さらに付け加えるならば、そもそもそんな本音の価値観とは、具体的にどういう「価値観」を指すものなのか、考えてみたことがあるでしょうか?
本書では自分の本音と本心から語った、いわば「これだけは絶対に譲れない」といった価値観を「絶対価値観」と呼び、その他たくさんの価値観たちと区別しています。
それはまさに、この先の人生で「なくなってもらっては困る価値観」であり、自分の幸福はこの絶対価値観がより充実されることで、さらにアップするという性格を持つものです。
グローバルで重視される「価値観」
ところで先ほど私は「その他たくさんの価値観たち」という表現をしましたが、それには理由がいくつかあります。
私はこれまでのキャリアのほぼすべてを、欧米の大手多国籍企業の日本法人における人事部門に、そしてその多くは責任者の立場として身を置いてきました。
それが仕事上の役割でもあったのですが、自然と欧米の、とりわけ米国の人事関連の資料や情報に接する機会が多くありました。
すると、必ずといっていいぐらい多くの米国の著名人が、いわゆる「価値観たち」について言及していることに気がついたのです。
例えば、つい最近まで在籍していたある大手の米系金融機関では、あるレベル以上の世界中の人事責任者に向けて、CEO並びにCHO(いわゆる頭取と人事部のヘッドとなります)からとある本が送られてきたものです。
「これを読みなさい」と私宛に送られてきたその本は、原題を“Take Charge of You”(Ideapress Publishing, 2022)といい、自分の人生とキャリアをうまく発展させるための、いわゆるセルフ・コーチング関連の本でした。
その本には、共同著者としてデヴィッド・ノヴァクさん、ジェイソン・ゴールドスミスさんというお2人のお名前が出ています。
ちなみにノヴァク氏は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌で“100 Best Performing CEO in the world”に、さらにフォーチュン誌でも“Top People in Business”に選ばれた著名な経営者です。一方のゴールドスミス氏も、数々のオリンピック選手のコーチングをつとめられた実績がある方です。
それらの実績があったからでしょう、勤務先の頭取と人事部長から「ためになるからこれを読め」と、わざわざ私宛てに送られてきたのです。しかもそれはごく最近の出来事です。
もちろん私は、遠く離れたここ日本で、今回とりわけ就活生や転職希望者の皆さんに向けて、お二人から同書の宣伝を頼まれたわけではありません。
ですがそんな同書において特筆すべきは、彼らも35の価値観ワードを列挙して、「この中から最も自分にとって大事な価値観ワードをピックアップしなさい」と述べていた点です。
また、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(大和書房)という邦題タイトルのついた、同大学の心理学者であるケリー・マクゴニガルさんの著作の中でも、価値観についての同様の記述があります。
さらに加えて、著名な米国の心理学者である元ハーバード大学教授による「氷山モデル」にも「価値観」が含まれています。
ことほど左様に米国では「価値観」についてさまざまな研究がなされ、紹介され続けて今日に至っています。
これらの事例ついては、また後段でくわしくご紹介したいと思います。
ちなみに私自身、30数年前から自分の価値観の持つ重要性を叩き込まれ、かつ同僚・部下にトレーニングを含め、折りに触れて紹介してきた経験があります。
本書を通じてこれまでの経験をみなさんへ、とりわけ新卒および若手の転職希望者の方々へ、今回のために特別に作成した診断ツールとあわせてご紹介ができるのを、心から嬉しく思っております。
会社の価値観とあなたの価値観
本書は、多かれ少なかれ誰しもが持ち合わせている一般的な性格を、ことさらに上手に表現するような就活本とは一線を画しています。
ましてや恋占いのような、あなたと希望する会社とのいわゆる「相性診断」について語る本でもありません。
私自身の多くの新卒・中途採用をしてきた経験からしてみても、自分の性格を冷静に自己分析することは、いうまでもなくとても有意義なことです。
そのためにも、つい無意識に盛ってしまいがちな「見栄」や「誇張」を排除した、あなたの「本音」と「本心」からの自分の価値観を知ることは大事なのです。
タイミング的にも、キャリアの早い段階で自分の価値観をハッキリと認識しておくことは、とても大事です。この点は、前述したスタンフォード大学の先生や、フォーチュン誌で取り上げられるような成功した経営者から改めて指摘されるまでもありません。
また、これらのことは、希望する会社へ願いがかなって入社している若手社員のあなたなら、よくおわかりのはずです。すなわち、いかに「会社の価値観」というものがハッキリと強く存在し、日々あなたに「同意」と「協調」を求めてくることか、ということです。
ましてやそれが、残念なことに(かつての私自身もそうだったのですが)「念願がかなわず、そのために内定をもらえたというだけの理由で入社したケース」ならば、なおさらのことです。
例えば「利益を生むように行動しなさい」という、ごく一般的な会社の要求に隠れた「利益(カネ)」という価値観へ、より一層深く同意し、そのための行動をとることがあなたは求められている、と表現すればよりわかりやすいでしょう。
そのような場合に、もし一方の当事者であるあなたが、自分の「どうしても譲ることができない」絶対価値観をハッキリと認識していないままだとしたら、一体どうなるでしょうか?
その場合はおそらく、その会社の持つ絶対価値観が、そのままあたかもあなたの価値観であるかのごとく、「疑いもせずに」「やすやすと」置き換わることでしょう。
さらに付け加えるとするならば、多くの会社は、本音ではそうなることを内心期待しています。それがいわゆる「手垢に染まってない新卒者を採用する妙味」の一つだからです。
できるだけ素直に、かつ従順に、会社が求める価値観を、あたかも「自分の一生かけて追求すべき価値観」として、疑うことなく受け入れてくれることを期待している(たとえそれがハッキリと意図していないとしても)、というわけです。
価値観の合う会社を選ぶに越したことはない
「会社による価値観の置き換え」は、多くの日本企業で昔から繰り返し使われている「社員は家族」という表現で、志を同じくする仲間になれたのだと思わせ、快く感じさせることから始まります。
その心地良い一体感を持つことができれば、それは企業にとっても、そしてあなたにとって居心地の良い状態といえるでしょう。
ただしそれも、すべてはお互いの持つ価値観が幸運にもたまたま相反するものではなかった場合のお話です。
もし仮に決定的に価値観の違う者同士の場合、つまり前述の例でいえば、会社の一番の価値観が「なんだかんだいってもカネ」であるにもかかわらず、あなたの絶対価値観が「家族」にあるとしたら、どこかでお互いに相容れない場面がくるかもしれません。
たとえそんな決裂のときが来ないとしても、多くはその両者の価値観の違いからくるストレスから、不安や不満を抱えたままの日々を送ることになります。
それは何しろ、自分本来の絶対価値観を押し殺して、いわば騙し騙し生活を続けるわけですから、そのつらさは推して測るべしです。
ですから理想をいえば、あなたの絶対価値観を満たしてくれる会社(組織)を最初から選択すべきなのです。
その前提で出会った会社で、そんなあなたの頑張りで社業がますます発展していくという、相思相愛、ウィン-ウィンな関係こそが、これからの人生をより楽に、より幸せにすごすための近道といえます。
言い換えれば、雇う側の企業にとっても、そもそも価値観を共有していない就活生・経験者を雇うことほど、無駄でリスクなことはないといえるでしょう。
改めて、本書を書いた理由
とはいうものの、それらを自分の頭の中で理解していたとしても、現実には妥協やら色々な理由から「目をつぶって」日々を送ることになります。かくいう私だって、かつては程度の差こそあれ同じだったと、今にして反省しています。
それでも私の場合は、少なくとも自分の絶対価値観をハッキリと認識していただけ、それを曖昧にしたままのケースとは、決定的に違っていたと思っています。
それは異なる価値観がぶつかったときに、どの点がお互い相いれないのか、どうすれば妥協でき、あるいは妥協すべきではないのかがハッキリとわかっているからです。
その結果、これまで自分の絶対価値観のおかげで、さまざまな困難な状況(それこそクビにしたり、なったりといった場面においてです)でもなんとか立ち向かってこられました。
ご存じの方もいるかもしれませんが、私は今まで何冊か、いわゆるビジネス書というジャンルの本を上梓してきました。
中でも就活生や転職希望者であるみなさんに直接関係する本として『面接力』(文春新書)や、『「クビ!」論。』(朝日新聞社刊)と言うタイトルのビジネス書を筆頭に、いくつもの本を執筆して参りました。
本書では、そんな私のこれまでの経験から、未来の希望に満ちたサラリーパーソン人生を目指す就活生のみなさんへ、またすでに会社(組織)でバリバリ活躍されている若きみなさん(経験者)へ向けて、久々に書き下ろした一冊となります。
そんなみなさんへ、今日から人生の最後の瞬間まで、文字通り一生をかけて大切にしたい、ご自身の絶対価値観をハッキリと認識させる方法と、そのメリットをできるだけわかりやすくご紹介して参ります。
決してブレない、そんな自分の本音・本心からの価値観に早く気がつくことのメリットや、絶対価値観を見極めるにあたって、大切な「手段と目的」の確認作業などについてもふれています。
自分の価値観を確認するうえで、とても大切となる「手段と目的」の意味を理解し、折りに触れて繰り返し自問自答することで、来たるべき就活や転職時のみならず、人生を通じてあらゆる場面で役立たせることができます。
本書でご紹介する、厳選した15の絶対価値観の多くは、おそらくそのすべてがみなさん自身が、程度の差こそあれすでに持ち合わせているものばかりだと思います。
どうかこの機会に、ご自身だけの絶対価値観をハッキリと確認すべく、添付したウェブ診断用のパスコードを活用し、診断してみて下さい。それはきっと皆さんのこれからの就活に、すぐにお役に立てるものと確信しております。
さて、どうやら少し前置きが長くなってしまいました。ここからはサクッとご紹介してまいりますので、どうか最後までお付き合いください。
【目次】