その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は辻 庸介さんの 『失敗を語ろう。「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと』 です。
【はじめに】
「失敗」を語ろう。
僕は社長らしい社長じゃない。
みんなの上に立って、強い言葉で号令をかけ、パワーで引っ張れるタイプでは全然ない。
むしろ、弱い。とても弱い。いつも誰かに助けを求めている。社員たちも「その通りです」と、僕の頼りなさに太鼓判(?)を押してくれるはずだ。
昔からそうだった。大学受験では一浪してしまい、翌年も前期試験は不合格で、二浪直前でなんとか後期試験で引っかかった。入学してからも留年してしまった。
大学時代のサークルではキャプテンをやっていたが、副キャプテンから、
「お前を見ていると本気で助けないとダメだと思う。穴だらけで隙だらけだから、ついお前のために動いてしまう。ズルい」
としょっちゅう文句を言われていた。頼りなさすぎるリーダーだ。
頭の出来は良くないし、見てくれにもコンプレックスはあるし、「自分は完璧とは程遠い。だから人の手を借りなければ生きていけない」という前提で生きてきた。「未熟で不完全な自分」をいつも自覚している。
もともとが不完全で自分への期待値は非常に低いので、僕は失敗してもあまり気にならなかった。
失敗をネガティブなものだとも思っていない。失敗は次に起こすべき行動を知る〝学びのチャンス〞であって、チャレンジし続ける限り、失敗だと確定しないはず。むしろ、失敗経験は挑戦者であることの証で、失敗した自分を誇るべきだと本気で思っているからだ。
実際、僕は失敗しても落ち込むのは一瞬で、立ち直りは早い。
「辻さんって本当にめげないですね」
と社員から呆れられるほどポジティブだ。成功するまでやり続ければ、致命的な失敗にはならないと、心の底から思っている。自分だけにそう思うのではなく、志を持って前に進んで失敗したならば、誰にだって
「ナイスチャレンジ! 次に生かしていこう!」
と伝えたい。
BAN、訴訟、サービス断念……
何者でもない弱い僕でも、「お金の課題を解決したい」という思いを持って起業し、素晴らしい仲間と出会い、これまでになかったプロダクトを生み出せた。まだまだ道の途上ではあるが、グループで働く総メンバーは900人を超え、世の中をちょっとは前に進められた気持ちでいる。
でもその過程で僕らは、スタートアップを立ち上げ、時につまずき、転び、会社がつぶれるんじゃないかという失敗を数多く経験した。サービスが接続先からBAN(接続拒絶)されたり、データセンター一帯の大停電で大事なユーザー(お客様)のデータが吹っ飛びそうになったり、共に社会を変えていく仲間だと思っていた競合スタートアップに訴えられたり、60名の社員を迎えて立ち上げようとしたサービスは参入を無期限の延期にせざるを得なかったり、改善のつもりでリニューアルしたサービスをたった1日で撤回したりした。
人前で転ぶのは恥ずかしいかもしれない。しかし、だからこそ手を差し伸べてくれる人にも出会える。知恵を授かり、また一つ、歩き方を学べるのだ。
僕をここまで導いてくれたかけがえのないもの。それは「仲間」だ。マネーフォワードの強みは何かと聞かれたら、迷わず「人」と「仲間が生み出す文化」だと即答する。僕の強みは、自分の弱さを補ってくれる仲間を集められることだ(そんな理由から、この本にもたくさんの仲間が登場する。本書に登場する主な人物は242ページを参照)。
この9年間を振り返っても、紙一重のギリギリの決断や幸運で命拾いをした経験が山とある。「これだ!」と思ったプロダクト(サービス)がほとんど使われずに肩を落としたことも幾度となくあった。きっとこれからもたくさんある。
もしも万が一、致命的な大失敗をしてしまって会社が解散するような事態に陥ったとしても、「この仲間と失敗したんだったら、諦めがつく」――そう信じられるだけのプロフェッショナルな仲間が、僕と一緒に働いてくれている。
マネーフォワードも、一人の仲間との出会いから始まった。スタートアップの創業というと、希望に満ちてキラキラとしたスマートな立ち上がりを想像されるかもしれないが、僕たちの場合は〝思い〞だけが先行していて、とても稚拙で泥臭いものだった。
失敗だらけから始まった、僕たちの創業の物語から話していこう。
【目次】