その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は 『2030年のSX戦略 課題解決と利益を両立させる次世代サステナビリティ経営の要諦』 です。

【はじめに】

 サステナビリティ経営に対する企業経営者の関心は高まる一方だ。新聞やネットニュースなどでも、CO2削減や地球温暖化などの話題が上らない日はないくらいだ。直近では、2021年に気候変動についてのCOP26、生物多様性についてのCOP15が行われ、世界の本気度も高まっている。

 私たちは、2021年4月に書籍『SXの時代』(日経BP)を上梓した。「SX」というのは「サステナビリティ・トランスフォーメーション」のことである。サステナビリティは企業経営の根幹となるビッグアジェンダであり、「早急に取り組まなければいずれ経営が立ちゆかなくなるだろう」と警鐘を鳴らした。おかげさまでこの本は好評を博し、様々な企業で経営トップや役員の必読書になったと聞いている。

 『SXの時代』では「日本企業は環境や人権、生物多様性などに対する危機感に乏しい」と指摘したが、この1年ほどの間に状況はかなり変わったように思う。多くの経営者やビジネスパーソンが、SXを真剣に考え始めるようになったことを実感するようになった。『SXの時代』の執筆の目的は、まさに経営者やビジネスパーソンの意識を変えることにあったので、微力ながら貢献できたのではないかと自負している。

 『SXの時代』では、WHYだけでなくHOWにより重きを置き、サステナビリティ経営の全体像を提示した。SXの到達点と道筋を明らかにできたのではと考えている。ただその一方で、「総論はよくわかったが、具体的に何をしたらいいのかを知りたい」という声もいただいた。頭ではわかっていても次の一歩をなかなか踏み出せないという経営者も多いだろう。

 経済や社会は、虫の目(ミクロ)、鳥の目(マクロ)、魚の目(潮目を読む)の「三つの目」で捉えると理解しやすいとよく言われている。「三つの目」で言えば、『SXの時代』は、高いところから物事を広く大きく見る鳥の目でSXを捉えた。次なる問題意識は、虫の目と魚の目でSXを考えていくことだ。虫の目とは、業界別の視点であり、SXの戦略は産業ごとの事情を踏まえる必要がある。魚の目とは、世界でどのような議論が進んでいるか、規制の動向などの潮目を読みながらシナリオを考え、現時点からそれほど遠くない未来に向けて具体的な対策を練ることだ。

 そうした観点で執筆したのが、本書『2030年のSX戦略』だ。

 本書は、2030年頃までのおよそ10年の間に、サステナビリティに関して何が起きるのかを「未来の見方」を示したうえで業界別に予測し、企業がどこに向かうべきかの具体的指針を示すことを目指した。同時に、『SXの時代』では描き切れなかった「投資判断の考え方」を示すため「SXの方程式」を示した。起こり得る複数の近未来を提示する「シナリオ・プランニング」を使って、本書の読者に、これからの10年間を一足先に体感してもらうという野心的な試みだ。本書が提示する「未来の見方」と「SXの方程式」を通じて、新しい視点で自社が属する業界の未来を見直し、これまで「知っている」と思っていたことが、大きく変わろうとしていることと、今まさにその分節点を迎えていることに気づいてほしい。

 本書は、三つのパートと九つの章で構成されている。

 パート1はサステナビリティ経営の基礎編に当たる三つの章から成る。第1章「未来を創る―残された時間はわずかしかない」は、「サステナビリティ経営とは何か」「なぜサステナビリティ経営が必要なのか」といった基本知識をまとめた。『SXの時代』の要点を凝縮しており、これからサステナビリティ経営を勉強したい人は熟読していただきたい。また、前著を読んだ方も、復習を兼ねて読んでほしい。

 第2章「サステナビリティ経営についての疑問に答えます!」は、私たちが日頃よく受ける質問への回答をまとめた。その内容は、成長や資本主義に対する疑念やテクノロジー信奉、サステナビリティ経営と利益を両立する方法についてなど、多岐にわたる。サステナビリティの論点をより深く理解するために役立つはずだ。

 第3章「未来を考える枠組み」は、本書の中核である今後10年を考えるための二つのフレームワーク「サステナビリティの未来シナリオ」と「SXの方程式」を提示する。この考え方が、その後に続く業界別の議論のベースとなる(このフレームワークは、本書で取り上げた四つの業界だけでなく、その他の業界にも適用できる)。

 第1章から第3章は、いわばSX基礎編で、それを踏まえて第4章以降の本論に突入していく。

 本書の中核であるパート2「2030年の業界別SX戦略」の第4章から第7章は、業界別近未来予測とその対策だ。取り上げる業界は、食品・飲料、製造、金融、エネルギーの四つ。業界別に、2030年頃までの未来シナリオとSXの方程式について詳細に論じている。四つの業界に絞ったのは、この10年で激震に見舞われる可能性が高い業界だからだ。また、エネルギー業界や金融業界は、どんな業界とも密接に関連しており、別の業界の方でも必ずウオッチしておく必要がある。

 最後のパート3の第8章は、SX先進企業の経営陣へのインタビューだ。先進経営者がこの先10年のシナリオをどう描き、どんなスピード感で改革を進めようとしているのか。未踏の地に踏み込む勇気と成算を読み取ってほしい。

 なお、本書の目的は未来を読み取る方法を示し、大きな流れや傾向を感じ取っていただくことにあり、予言者のように未来の事象を正確に言い当てることではない。それを聞いてがっかりする方がいるかもしれないが、「シナリオ・プランニング」で様々な近未来の姿を可視化し、準備しておけば、予想外のことが起きたとしても、すぐに軌道修正できるだろう。私たちが提示した『2030年のSX戦略』が、SXを推進していくヒントになれば幸いだ。

坂野 俊哉、磯貝 友紀


【目次】

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