その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は井出留美さんの 『あるものでまかなう生活』 です。

【はじめに】

 大根を食べるとき、皮はどうしますか?
 むいて、皮は捨てるという方がほとんどだと思います。
 でも、もし大根しか食べるものがなければ?
 少しも無駄にしないよう工夫して、「あるもの」を食べ尽くすのではないでしょうか。

 2020年、世界中の多くの人が「あるものでまかなう」生活を送らざるを得なくなりました。
 手に入る食材で料理をする。
 家に眠っていたものを工夫して使う。
 限られたお金でまかなう。
 今いるところで楽しみを見つける。
 どうあがいてもないものはないと悟れば、人は「あるもの」に目を向けざるを得ません。新型コロナウイルス感染症の拡大により、そんな状況が世界中に訪れたのです。
 家にあるものを使って料理する人、食材を大切にする人が増え、その結果、イギリスやイタリア、オーストラリアでは、2019年に比べて家庭で食品を捨てなくなったことがデータから読み取れます。
 日本でも、グランドデザイン株式会社が5345名を対象に調査した結果、家庭で食べ物を捨てる量が減った人が20%と、食品ロスが若干減る傾向が見られます。

 一方、地球環境に目を転じると、あるものでまかなわなければならない危機的な局面がずっと以前から訪れていました。
 『世界がもし100人の村だったら』(池田香代子再話/マガジンハウス)の原案者としても知られるドネラ・メドウズ博士は、およそ50年前の1972年に共著書『成長の限界』(ダイヤモンド社)でこう指摘しています。
 「世界環境に量的限界があり、行き過ぎた成長は悲劇的な結末をもたらす。成長を目的にするのは愚かなこと」
 「あるものでまかなう」生活への転換の必要性が、半世紀も前に指摘されていたのです。
 世界中の全員がアメリカやカナダやスウェーデンの人と同じ生活をするためには地球が4つ必要という報告もあります(『ドーナツ経済学が世界を救う』ケイト・ラワース/河出書房新社)。もちろん、地球はひとつしかありません。今ある資源で生活していかなければならないのです。
 こうした状況でありながら、世界中で「食料生産量の3分の1が捨てられている」という現実があります。「あるのに捨てる」。なんとももったいなく、理不尽な話です。

 私が、食品ロス問題専門家としての活動を始めたのは、2011年に発生した東日本大震災のとき、「あるのに捨てる」理不尽さを痛感したからです。
 当時、私は食品メーカーに勤めていましたが、ボランティアで被災地に何度も足を運びました。ある避難所で「平等配布」の原則を守るために、「同じ食品だけれどメーカーが違うから」「避難所の人数に少し足りないから」という理由で配られずに放置され、駄目になった食べ物を多く目にしました。この出来事を契機に、14年5カ月勤めた食品メーカーを辞めて独立。
 その後、フードバンク(さまざまな理由で捨てられる、まだ食べられる食品を引き取り、必要とする個人や組織へと渡す活動)の広報の仕事を通し、「食品ロスという重要な問題の存在を多くの人に知ってもらうこと、『理不尽』から生じるロスを少しでも減らしていくこと」がミッションになっていきました。

 「あるものでまかなう」の「あるもの」とは、これまでは捨てていた食べ物や、眠らせていたモノをいいます。
 たとえば、冒頭に挙げた大根の皮。
 これを、ぬか漬けや味噌汁の具など喜んで使ったのが、陶芸家で美食家の北大路魯山人です。
 彼は幼い頃、家庭の事情で養子に出され、6歳から炊事をし、手元にある食材でおいしく調理する工夫を重ねていました。捨てられる野菜の葉や皮や茎も、新鮮ならおいしいことを知り、上手に活かす術を覚えていきました。
 『知られざる魯山人』(山田和/文春文庫)の中には、「大根の皮は元来廃物ではない。皮の部分にこそ大根の特別な味もあり精分もある」という言葉があります。皮は、無駄ではなく、皮こそおいしいというのです。

 また、「あるもの」とは、自分や家族、先祖が手に入れたものもいいます。あるもので暮らすことができれば、時間や命を犠牲にしてまで働く必要はないかもしれません。
 「あるもの」とは、自然環境も指します。私たちは、自然からいただく恵みで経済を循環させることができています。
 「あるもの」とは、人が持つ資質そのものでもあります。仮面をかぶって違う誰かになろうとしたり、口を閉ざしたりせず、あなたが与えられた命を使い尽くす、使命を持って生き切る、ということです。

 「あるものでまかなう」は、コロナ時代の新たなスタンダードとなる生き方です。
 それは、眠っていた古いものに新たな命を吹き込み、創意工夫を生み出し、暮らしを楽しむ要です。
 本書では、その考え方と日常で役立つ具体的なコツ(Tips)を、
第1章 「あるのにつくる・売る・買う」のはなぜ?
第2章 これからは「あるものでまかなう」食
第3章 これからは「あるものでまかなう」暮らし
終章  あるものでまかなう生き方・働き方
 という流れで、国内外の状況も交えてお伝えしていきます。

 長野県には「あるを尽くして」という方言があります。宴たけなわの頃「お料理を食べ尽くしましょう」という意味で使われることが多いのですが、ないものではなく、今あるものを数える。今あるものを大切に、力を出し尽くして、という精神もうかがえます。
 視点をちょっと変えると、自分の周囲に「あるもの」があふれていることに気づき、感謝の気持ちが生まれてくるでしょう。
 今あるものに感謝できると、こころが健康でいられます。
 この本が、あるものでまかなう生活の楽しさとすがすがしさを知っていただくきっかけになれば、こんなにうれしいことはありません。

2020年9月  井出留美

【目次】

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