その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はジム・クリフトンさん、ジム・ハーターさんの 『ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる』 です。

序章 いま世界中の人々が望んでいること
   The New Will of the World

 いま世界中の職場が歴史的な転換期の渦中にあります。にもかかわらず、現場で実践されているマネジメントには30年以上にわたって大きな変化がありません。

 どのように働き、どのように生活して、どのように人生を送りたいのかが大きく変化しているのに、マネジメントの実践がそれに追いついていないのです。適応させるべきときが来ています。

 この状況を理解しようと、ギャラップのアナリストたちは、ほぼすべての主要な研究機関やマネジメントに関する文献を、そして、私たちが30年以上にわたって米国と世界の職場で追跡調査してきた独自データを調べました。この追跡調査には、世界160カ国で実施した、従業員とマネジャーを対象とする数千万件の深層インタビューも含まれています。

 また、世界の大企業300社のCHRO(最高人事責任者)たちとラウンドテーブル(訳注、円卓で自由な意見交換を行うミーティング)を行いました。

 さらには、世界的に著名な経済学者にも話を聞きました。

 そして、私たちは次の結論に達しました。「世界で最も深刻な短期的(5~10年)課題は、経済のダイナミズムと生産性(1人当たりのGDP)の低下であり、これらの問題は確実に改善することができる。かつて、リーン経営やシックスシグマが米国や世界の製造品質を改善したように」

 ただし、今回、取り除かなければいけない「欠陥」は、プロセス上の失敗ではありません。問題は、人の潜在能力が最大限に発揮されていないことです。

 ですから、政治や政策で解決することはできません。この問題を解決することができるのは、CEO(最高経営責任者)やCHROです。政府組織やNGO(非政府組織)を含め、世界に約1万ある大組織を率いるCEOやCHROこそが、この世界最大の問題を解決することができるのです。

 企業は重要な役割を担っています。国勢調査局によると、米国には約600万の企業があります。そのうち400万社が従業員4人以下で主に家族経営の企業です。中小企業は200万社で、その内訳は従業員5~9人の企業が100万社、10~19人の企業が60万社、20~99人の企業が50万社です。従業員100~499人の企業は9万社、従業員500人以上の企業は約1万8000社あります。

 この1万8000社の組織文化が「従業員の能力開発に注力する組織文化」へと変わることができれば、米国のGDP成長率や生産性は大きく改善するでしょう。

 解決策は、世界中の労働者が望んでいることに「マネジメントの実践」を合わせることです。偉大なるアメリカン・ドリームは変わりました。そしてグローバル・ドリームも変わったのです。世界中の人々が望んでいるのは、よい仕事をすること。これが、世界の新しい「意思」なのです。

 組織が、その意思に応えられたら、すべてが変わるでしょう。

 リーン経営やシックスシグマのようにマネジメントの実践方法が一変すれば、人は変貌を遂げ、組織は膨大な時間とコストを節約することができます。すべてが改善されるでしょう。人もチームも成長し、能力を発揮して、はるかに大きな成功を手にすることができます。「よい仕事をしたい」「すばらしい仕事をしたい」という意思と実際の仕事が一致するからです。

 チームメンバーの潜在能力を十分に発揮させることができない。これは、シックスシグマの用語でいえば「欠陥」です。

 ある世界的な大手プロフェッショナル・サービス企業は、こんな試算をしています。マネジャーが、部下の育成や継続的なコーチングの会話を行わず、ただ部下の評価書類だけを書いているような場合、年間10億ドル相当の経営陣の時間が無駄になっています。多くのCEOやCHROが気づきはじめているように、既存の大規模な人事評価やランク付けが有効だという証拠はありません。世界中の研究機関を探しても見つかりませんでした。

 CEOやCHROからよく次のような質問を受けます。「従業員の能力開発に注力する組織文化かどうか、どうすればわかりますか。また、どうすれば監査できるのでしょうか」。この問いの答えを測るために最も有効な項目が、後ほど説明する〈Q12〉のなかにあります。それは次のとおりです。

「仕事上で、自分の成長を後押ししてくれる人がいる」

 この項目に従業員の60%が「強く同意する」と回答したなら、あなたは職場を変革し、世界を大きく変えたことになります。

 本書のデータや分析結果から得た発見によって導き出された結論は、次のとおりです。「過去30年間、世界経済の生産性が鈍化したのは、マネジャーが、部下やチームを導き、育成するための方法を変えることができなかったから」

 私たちの分析は従来のマネジメントの実践を批判していますが、その一方で、「この問題は解決することができる」と結論づけています。それは、従業員エンゲージメントに上昇傾向をもたらすことです。世界中の従業員のうち、仕事にエンゲージしている従業員(訳注、仕事や組織に熱意を持ってかかわっている従業員)はわずか20%です。つまり、意義深いミッションと目的を持ち、成長を実感できる、すばらしい仕事に就いている人は20%だけだということです。仮にこの数値が50%に向上したら、あらゆる職場が、ひいては世界全体が変わるでしょう。

 また、エンゲージしている従業員の割合を大きく増やす方法も、研究によりわかっています。このことについてはすでに何冊もの本が書かれており、知見もあります。問題は、過去30年間で「マネジメントの科学」が大きく進歩したにもかかわらず、現場での「マネジメントの実践」がそれに追いついていないということです。

 長いあいだ、企業の目的は、株主利益を生み出すことでした。しかし、それだけでは「これからの働き方」に応えることはできません。

 ピーター・ドラッカーが定義した企業の目的は、「有効な定義はただひとつ、顧客を創造することである」でした。私たちもその解釈が好きです。しかし、それだけでは、「これからの職場」において不十分なのです。

 新しい企業の目的、そして、「これからの働き方」には、人間の潜在能力を最大限に発揮させることが含まれなければならないのです。


【目次】

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