俳優・門脇麦さんは、小学生のころから読書に没頭してきた読書家。ジャンル問わずさまざまな本を読み、本との出合い一つ一つが、門脇さんの俳優としてのキャリアにつながっている。「人生に影響を与えた3冊」をテーマに、今回は、一番好きな本のジャンルについて語ってもらった。

上橋菜穂子のファンタジーはドンピシャ

 私自身、小学生のころからさまざまな本を読んできた読書遍歴があるのですが、実は本のジャンルで一番好きなのは、ファンタジーなんです。

 『夜と霧』も、イアン・ソープの自伝も、ラブストーリーもミステリーもなんでも読みますが、やっぱり私にとってはファンタジーが一番。子供の頃は『ナルニア国物語』に夢中でした。『ハリー・ポッター』も『ロード・オブ・ザ・リング』も好きでした。純粋に読書に没頭できる。知らない世界に連れて行ってくれる感じが、たまりません。

 なかでも、もうドンピシャに好きなのが、上橋菜穂子さん。小学生の時に『狐笛のかなた』を読んだ時は、「やっと日本の本でファンタジーがきた!」と興奮したのを覚えています(笑)。

 『精霊の守り人』に始まる守り人シリーズも、『獣の奏者』も、全部読んでいます。もしかすると、私にとっては上橋さんが唯一、全作品を通読している作家さんかも。

 どの作品も私には大切な存在ですが、今回は、映画化もされて話題になっている『鹿の王』(上橋菜穂子著、角川文庫)を挙げました。2014年に発表された本ですが、謎のウイルスから生き残った男と少女の物語で、コロナ禍の今読み返すと、怖さを感じるほどに世の中にマッチしています。

強大な帝国から故郷を守るために戦士団の頭として戦ったヴァンは、奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。ある夜、岩塩鉱は不思議な犬の群れに襲われ、謎の病が発生。逃げ出したヴァンは、1人の幼子が生き残っているのを見つけ、彼女を連れていくが――。2015年度本屋大賞・日本医療小説大賞受賞作
強大な帝国から故郷を守るために戦士団の頭として戦ったヴァンは、奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。ある夜、岩塩鉱は不思議な犬の群れに襲われ、謎の病が発生。逃げ出したヴァンは、1人の幼子が生き残っているのを見つけ、彼女を連れていくが――。2015年度本屋大賞・日本医療小説大賞受賞作

 映画もそうですが、本も、歴史が繰り返される中で時を超え、国や人種を超えて、不思議とピタッと合ってしまう瞬間ってあるんですよね。今こそこの物語だ、という。そういう巡り合わせも、読書の醍醐味(だいごみ)の1つだと思います。

我慢しながらももがいている人の姿

 人が本や映画に感動する時って、たいてい、「こういうのに弱い」っていうフックになるものがあると思うんです。一度、「自分には何が一番感情的に“来る”んだろう」と分析したことがあるんですが、私のフックは「我慢している人」でした。人が我慢して我慢して、爆発しそうになりながらも我慢している姿を見ると、ぐっとくる。そこに「別れ」が加わるともう完璧(笑)。

「上橋さんの作品には、いつもそれが詰まってるんです」
「上橋さんの作品には、いつもそれが詰まってるんです」

 例えば『鹿の王』なら、かつて武功をあげた英雄でありながら、すべてを失って奴隷にみをやつしている主人公がいて、そこに、天涯孤独となった幼い女の子との出会いがあり、人生がまた動き出していく。諦めざるを得なくて、でもやっぱりまだ何かが欲しくて、ギリギリのところで生きている人。そして、希望が見えてきながらも、別れの時は必ず訪れて…。あ~、うん、きますね(笑)。

 芯の通った女性が多く登場するのも、上橋作品ならではの魅力。ファンタジーといえばたいていは少年の成長物語ですが、上橋さんの作品には、強くて美しいおばさんが主人公だったりして、それも新鮮でした。毎回、発売されるとすぐに読む、新作を心待ちにしている作家さんです。

すべての本に「ありがとう」

 本を読めば読むほど、自分が知らないことの多さに気づかされます。視野が狭かったな、と思う。そして、世界が広がっていく。その繰り返しです。

 俳優という仕事も同じです。作品を経験する度に、いろんな発見がある。視野が広がっていく。コンテンツが多様化し、配信も増えてきて、映画とドラマの垣根もなくなっていく中で、垣根がない仕事の仕方ができたらいいなと思っています。舞台もやりたいし、声の仕事も好きなので、いつかアニメの仕事もやってみたい。

 今年、30歳になりますが、最近、「こういう俳優になりたい」という目標が、むしろなくなってきた気がします。どう見られても気にならなくなったというか。いろんなことに挑戦できる準備ができてきた。もっと自分の世界が広がっていくといいなあ、と思いますね。

 今回、3冊の本を選ぶのは、悩ましくもあり、楽しくもありました。そして、それを語るのはなんだか、裸の自分をさらけ出すような恥ずかしさもあり(笑)。すべてが、自分自身の血肉になっているから。

 そして、読書は、私にとって、さまざまなものを超えて、言葉を届けてくれるもの。10代の頃には表現できなかった悶々(もんもん)とした感情を、大人になってから「あ、あれはこういうことだったんだな」と気づかされ、救われる思いがしたり。あるいは、仕事でも学校でも、何かしらの“枠”の中にいるだけではなかなか出会うことのできない外的な刺激をくれたり。ジャンルを問わず、本の中には、言葉がちりばめられている気がするんです。

 いつかは分からないけれど、本の中の言葉は、きっと、自分に返ってくる。ありがとう、って思います。これまで読んできたすべての本に、ありがとう、と。

「読んできた本のすべてが、自分自身の血肉になっている、そう思います」
「読んできた本のすべてが、自分自身の血肉になっている、そう思います」

取材・文/剣持亜弥 写真/中川容邦 スタイリスト/皆川 bon 美絵 ヘアメイク/秋鹿裕子(W) 構成/平島綾子(日経エンタテインメント!編集部)

衣装協力/トップス Acne Studios(Acne Studios Aoyama/03-6418-9923) スカート スタイリスト私物 イヤーカフ、リング全てatur(www.atur.jp) ブーツ スタイリスト私物