20世紀最大の発明品の一つといわれる、コンテナ。1956年に世界初のコンテナの海上輸送が実現して以来、世界経済とグローバル貿易は飛躍的に発展した。本書は、2007年に刊行された日本語版の増補改訂版。ビル・ゲイツ氏や、ひろゆきこと西村博之氏にも推薦された本書の魅力を、編集を担当した黒沢正俊さんに聞いた。今回は2回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

イノベーションとしてのコンテナ

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 「2ちゃんねる」創業者のひろゆき氏もこの『コンテナ物語』を推薦してくれていて、またビル・ゲイツもいろいろな本を紹介する中で、本書を薦めているんですよね。

黒沢正俊・日経BP編集者(以下、黒沢) ひろゆきこと西村博之氏がこの本をYouTubeで取り上げてくれて、「ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』(草思社)に匹敵する本。非常に面白い」と紹介してくれました。

 ビル・ゲイツも絶賛しています。彼の本好きは有名で、この本についてはこう紹介してくれています。「20世紀後半、あるイノベーションが誕生し、全世界でビジネスのやり方を変えた。ソフトウエア産業の話ではない。それが起きたのは、海運業だ。恐らく大方の人があまり考えたことのないようなそのイノベーションは、あの輸送用のコンテナである。コンテナは、この夏私が読んだ最高に面白い本『コンテナ物語』の主役を務めている」。

 インターネット時代の申し子のビル・ゲイツが着目するのは、イノベーションや発明がいかに世界の歴史を変えていくか、ビジネスの歴史を変えていくかということです。

 コンテナによって何が起きたかは、この本の14章に出てきます。例えばバービー人形はアメリカのマテル社による製造・販売でしたが、1959年の時点では日本で生産することになっていました。ところがその数年後、台湾に工場を建設して着せ替え用の服を縫製するようになります。1990年代にはもっと多国籍化して、人形のボディーはアメリカから送られた型を使って中国の工場で生産、工場の設備は日本製などを使っていました。ナイロンの髪の毛は日本製、ボディーに使う樹脂は台湾製、染料はアメリカ製、木綿の服は中国製──と、バービー人形のサプライチェーンが世界中に広がったという話が書いてあります。

 コンテナがなければ、このような産業の構造は起こり得ませんでした。従来は狭い地域で部品を調達して製品にしていたのに、世界中にサプライチェーンが広がったのです。なぜ広がったかというと、コンテナによって輸送コストが大幅に削減し、それについてほとんど考えなくてもいいような時代に入ったことが非常に大きい。コンテナの輸送がなければ、日本も中国もここまで発展していないだろうと言えるぐらいに、ビジネスの根幹となっています。

 「ロジスティクス」はもともと軍事用語で、それがビジネスに使われるようになりました。ビジネスにおいては、まさにコンテナリゼーションが非常に大きな役割を果たしています。日本だけではなく、中国、韓国、アジア全域にとって、大きく成長していく原動力になったのですから、発明したマルコム・マクリーンは世界の歴史を塗り替えたと言えるでしょう。

コンテナ輸送がもたらしたイノベーション。その影には、何があったのか
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コンテナ輸送がもたらしたイノベーション。その影には、何があったのか

かつてコンテナ数世界4位だった神戸港

尾上 物流の効率化に端を発してはいますが、特に製造業のビジネスモデルにおいては、サプライチェーンが会社・地域・国を越えて世界中に広がったんですね。それによってさまざまな利益をもたらし、製品が安くなりユーザーにも恩恵をもたらしている。コンテナがきっかけとなり、イノベーションが起きたということですね。

黒沢 その通りです。ただ、一方で工場労働者にとっては、工場が海外に移転すると雇用が失われます。アメリカのラストベルトといわれているミシガン州などの工場がどんどん閉鎖されてしまいました。それによって職を失った人々のなかで貧富の差が広がったり、経済状態が厳しくなったりするという状況もありました。

 結局、グローバリゼーションには、その国の労働者にとってプラスだけではなくマイナスの面もあるということです。最近はコロナをきっかけにサプライチェーンの見直しが進んでいる部分もあります。例えば、従来中国でマスクを生産していたけれど、工場をまた自国へ戻そうという揺り戻しも起きています。コンテナがなくなることはないにしろ、コンテナはプラスとマイナス、両方の面を人々にもたらしているという気はします。

 特に日本への影響で言うと、ベトナム戦争の帰りに日本のトランジスタラジオやテレビ、そうした家電製品中心にアメリカへ持っていって、やがて日本の製品がアメリカを席巻したということがありました。日本車もそうですね。

 コンテナに関するランキング表がこの本に掲載されていますが、1980年のコンテナ個数ランキングで、日本の神戸は世界の港湾ベスト10の中に入っていました。1980年、神戸は世界4位。そのときの1位はニューヨーク、2位がロッテルダム、3位が香港。ところが2019年にはこれが激変し、1位が上海、2位がシンガポール、3位が中国の寧波です。そして4位が深セン、5位が杭州など、中国が上位に来ています。

尾上 本当にそうですね。

黒沢 日本はというと、東京、横浜、川崎を入れたグループで世界19位です。確実に日本の港の地位は低下していて、徐々にアジアに取って代わられているということが如実に示されています。扱うコンテナの個数によって情勢が変わってくることが、象徴的に表れていますね。

構成/三浦香代子

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