20世紀最大の発明品の一つといわれる、コンテナ。1956年に世界初のコンテナの海上輸送が実現して以来、世界経済とグローバル貿易は飛躍的に発展した。本書は、2007年に刊行された日本語版の増補改訂版。ビル・ゲイツ氏や、ひろゆきこと西村博之氏にも推薦された本書の魅力を、編集を担当した黒沢正俊さんに聞いた。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

コロナでコンテナの積み降ろしが困難に

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) コロナ下のコンテナ問題が取り沙汰されていますね。コンテナを海上で運ぶ分にはいいが、そこから先が滞り、コンテナを開けないなどの問題があったと聞いています。その事態をきっかけに、サプライチェーンの見直しも始まったんですね。

黒沢正俊・日経BP編集者(以下、黒沢) 新型コロナウイルスはコンテナ輸送にも多大な影響を与えました。現状としては、コンテナの空きがないんです。港や物流センターでは多くの人々が働いていますが、都市自体がロックダウンされてしまうと、仕事を担う人がいなくなってしまいます。コンテナが港まで行ってもそこから先がストップしている、またコンテナそのものの空きがなくなって、価格がどんどん上がってしまうといった状況に陥りました。

 これは今も完全には収束しておらず、例えば先日の報道ではアメリカの港沖には何十隻もコンテナ船が並んでいるのに、ロックダウンやコロナの関係で港での受け入れができない。コンテナを使おうにもコンテナの空きがない、なおかつ運んでも港での受け入れ能力に制限がかかっている状況です。まだまだコンテナの価格が高止まりしているので、非常に厳しい状況ですね。

 一方でサプライチェーンの見直しも始まりました。例えばコロナ下の世界各国でマスクや医療用のガウンが足りなくなって、日本も大変な目に遭いましたね。経済安全保障の観点からも、それまで他国で生産していたものを自国での生産に戻すべきじゃないかと、サプライチェーンを見直す動きもあります。これはコンテナ輸送にも影響が出てくるだろうという気がしますね。

 またアメリカでは、トランプ政権時の支持母体になったラストベルトの元工場労働者にはグローバリゼーションに反対する人たちが多く、彼らは国内での仕事を求めてトランプ前大統領を支持しました。今後、日本でも似たような動きが出てくるのではないかと思います。

尾上 コンテナに端を発したビジネスモデルや経済の在り方が、これからさらに変わっていく可能性もあるのですね。

黒沢 そうですね。コンテナ周辺の競争も激しくなっています。今世界で一番大きな船会社は、デンマークにあるA.P. モラー・マースクです。コンテナを発明したマルコム・マクリーンの会社「シーランド」は、もうすでに買収されてなくなっています。このような海運業界の再編もあるでしょう。

 そしてポストコロナの時代、消費者がどういう反応を示すのか。多少高くても国内のものを買うようになるのか、それともやはり安い製品を望むのか。このコロナ禍は、単に安いものを供給しそれを使うだけではなかなか経済が成り立たない部分もあると示唆しているのではないかと思います。

コロナ禍、消費者の望みや反応によってはコンテナをめぐる状況にも変化が
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コロナ禍、消費者の望みや反応によってはコンテナをめぐる状況にも変化が

港湾は巨大化し、機械化・自動化が進む

尾上 世界のコンテナ数ランキングで下位に甘んじている日本でも「どうにかしなくてはいけない」という動きがあるようですね。

黒沢 はい。当然、コンテナは受け入れる港の機能が重要ですから、世界各国では港湾が巨大化し、コンテナ船を大量に受け入れる設備ができています。

 日本でも同様の動きがあり、名古屋港などは機械化が進み、誰でもクレーンを操作できるくらいに環境が変わってきています。また自動化によって「AI港湾」とも言われるようになり、例えばいつ入港していつ出港するなど、全部自動的に決められるようになります。そうしたシステムが徐々に普及し、人員が不要になっていく。昔の港の風景とはますます様変わりし、機械化や自動化はこれからもっと進んでいくでしょう。

尾上 この本は本文だけで400ページぐらいあり、近現代から現在の経済やビジネスの在り方が、コンテナをきっかけに大きく変わったことを読み取れる本になっています。しかも、原注もすごい。それだけで60ページもありますね。

黒沢 そうなんです。実は原書の執筆前に、9.11アメリカ同時多発テロがありました。当時、ニューヨークの世界貿易センタービルの中にたくさんの資料があったのに、多くが失われてしまったそうです。そのような困難を乗り越え、残された資料をかき集めて書き切ったという意味で歴史的な本としても面白いですし、ビジネス書としても、グローバルサプライチェーンができていく背景がよく分かるのでおすすめです。

 『コンテナ物語』は分厚い本ですが、Amazonのレビューでも非常に高い評価を得ています。大作を読み切る充実感がありますし、「世界を変えたのが、本当に単なる箱だったんだ」と実感できると思います。ぜひ、堪能してほしいですね。

構成/三浦香代子

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