多くの企業で研修講師を務めてきた石野雄一さんによる人気セミナーを書籍化した『実況!ビジネス力養成講義 ファイナンス』。臨場感のある構成と分かりやすさで、多くのビジネスパーソンから好評を得ています。ここでは、石野さんに「ファイナンスとは何か」「価格と価値」「PL経営とBS経営」などの基本を、3回にわたって解説していただきます。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

お金を使うとき、意識してほしいこと

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 前回は、価値と価格について 『実況!ビジネス力養成講義 ファイナンス』 の著者、石野雄一さんにお話を伺いました。価値は将来手に入るもの、価格は差し出すものということでしたが、ここでいう「差し出すもの」というのは、キャッシュを指すのでしょうか。

石野雄一(以下、石野) はい。キャッシュ、つまりお金です。ただし、このお金の使い方には2種類ありまして、それは消費活動と投資活動です。

時間やお金などの有限な資源をいかに投資するかで、未来の資産は変わる
時間やお金などの有限な資源をいかに投資するかで、未来の資産は変わる
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石野 まずは、消費活動から説明しましょう。これは、その時点で受け取る便益のこと。その時点で手に入れ、その時点で終わるものです。例えば、「生きていくために食べものを買う」というのもその一つでしょう。

 そして投資活動はというと、その名の通り資産に投じるというもの。その時点で終わるのではなく、将来にわたって便益を受け取れるというものです。例えば、セミナーに参加するとします。すると、そのためにお金や時間を差し出すわけですが、そこでの経験は将来につながっていく。このように、将来にわたってキャッシュフローを生むであろうものに対して資産を投じることを、投資というのです。

 とはいえ、常に「これは消費活動なのか、投資活動なのか」と考える必要はありませんよ。ただ、なんらかの価格(お金)を差し出すときには、それによって手に入れる価値が、価格よりも低いのか高いのかということを意識してみるといいですね。

 今、経営は「PL」から「BS」の時代にシフトしています。PLとはProfit and Loss Statement、つまり、売り上げ・費用・利益を記した損益計算書のことです。PLしか頭になく、「売り上げを伸ばせ」「費用を減らせ」「利益を出せ」としか言えない社長もいるかもしれませんが。

 時代は「BS」です。BSとは、貸借対照表と呼ばれるバランスシート(Balance Sheet)の略称で、このBSがよく分からないビジネスパーソンは多いかもしれません。

尾上 私も分からないので、ぜひ教えてください。

経営資源と利益の関係に着目

石野 貸借対照表という名前も分かりづらいのかもしれませんね。このバランスシートは、分かりやすく言えば、企業がどのようにお金を調達し、そのお金をどのように回しているのかを左右に分けて示したものです。左右がバランスし、一致するようになっています。

■貸借対照表(BS)はカネの調達&運用
■貸借対照表(BS)はカネの調達&運用
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石野 松下幸之助さんは、資産(バランスシートの左側に記すもの)は、お金(右側に記すもの)が化けたものなのだと言ったそうです。すべての資産は、お金が形を変えて回っている。そう解釈していたというのです。

 ではここで、「PL経営」と「BS経営」がどう違うか、具体的な例を挙げてみましょう。「PL経営」の社長なら、営業利益が昨年の2倍になっていれば手放しで喜ぶでしょう。しかし、「BS経営」の社長は、その点だけでは喜べない。営業利益というアウトプットを見るだけでは不十分だと考えるからです。

 この場合のインプットとは何かというと、人やモノ、お金、時間、情報といった経営資源です。こうした経営資源を、昨年の5倍投入している場合、営業利益が2倍になったとしても手放しでは喜ぶことはできません。インプットを分母、アウトプットを分子として双方を見る必要があるわけで、分子だけを見る「PL経営」の時代は終わりつつあるということです。

 大切なのは、営業利益を上げるために、どれだけの経営資源を投資しているのか。そして、限られた経営資源を使って、いかに利益を生み出すのか。それを問われる時代になっているのです。

尾上 インプットとアウトプットの両方を見る必要があるのですね。

石野 はい。経営資源と利益については、そのように考える力を身に付けてほしいと思っています。時間とお金という有限な資源をいかに投じるかで、未来が変わるわけですから。

アマゾンやアップルが実践するBS経営

尾上 本書ではBS経営について、オムロン、花王、ピジョンなどの事例が紹介されています。アマゾン、アップル、マイクロソフトなどの事例も非常に興味深いですね。

石野 企業というのは、キャッシュフローが重要です。原材料を仕入れてから、モノを売ってお金が入ってくるまでの日数をCCC(Cash Conversion Cycle)というのですが、例えばパナソニックの場合、これが30日以上です。それに対して、アマゾンやアップルは、この日数がマイナスなんですよ。

■パナソニックのCCCは35日(2020年3月期)
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■アップルのCCCは△74日(2019年9月期)
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石野 どういうことかというと、アップルはお客様からお金をいただいた後に原材料を仕入れ、商品をつくり始めているんです。そのためマイナスの期間がなく、売り上げが上がれば上がるほどお金が増えていくのです。そうした仕組みについても、この本の中で紹介しています。

 ファイナンスの勉強は、とても大変です。私も相当の時間を使って勉強してきました。ただ、ファイナンスはあくまでも道具。コミュニケーションの道具と言うこともできると思います。言ってみれば、会計という世界で使えるコミュニケーションツールであり、英語と同じように万国共通で役立てられるものです。この便利な道具を効率的に手に入れて、大いに役立ててほしいですね。そのためにぜひ、本書を活用していただければ幸いです。

構成/谷和美

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