なぜ、あのヤバい人が出世できて、真面目なあなたは損をするのか? 学校で教える「協調性」や「自分らしさ」といった理想論は、実社会の出世競争には役立たない。他人の手柄を横取りし、自分のことを過大評価し、ルールを破る人たちが権力を握る――成功者の原理原則を、スタンフォード大学の人気教授が科学的に説明。 『出世 7つの法則』 (ジェフリー・フェファー著/櫻井祐子訳/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。今回は、権力の法則7つの紹介と、そのうちの法則1について。

権力は万能ツールだ

 権力に関する本をこれまで4冊も書き、スタンフォード大学で「権力への道(The Paths to Power)」という講座を受け持つ私は、いつも賛否両論の嵐にさらされてきた。

 権力について私が教えることが、協調性や礼儀、政治的正しさを重視する昨今の風潮にそぐわないと、親しい友人や編集者も含めて、ダメ出しをされてきた。かと思えば、こんなメールを受け取ることも多い。

拝啓、私は先生の『権力への道』講座の受講生です。授業では、ただ仕事ができるだけではダメだと学びました。昇進し、成果を挙げ、上司に気に入られるには、人に直接頼み、自分を信じ、権力者らしい言動を身につけ、ネットワークづくりに励み、支えてくれる人たちを見つけ、いつどうやって対立や闘争に立ち向かうかを賢く選ぶ必要があるということも知りました。そんなわけで、最後の授業には出席できません。ネットワークづくりと「自分の存在を気づかせる」取り組みが功を奏して、重役たちにお供して海外市場の視察に行くことになりましたので。あしからず。


 私は、教え子や政財界の成功したリーダーを観察し、権力に関する社会科学研究を見直すうちに、権力の法則は大まかに言って「7つ」あるという結論に至った。

 そもそも「7」という数字は、法則の数にうってつけである。心理学者のジョージ・ミラーが1956年に発表した重要な論文によると、「人間が受け取り、処理し、記憶できる情報の量は非常に限られ」ていて、ほとんどの人は「7プラスマイナス2」個の要素やアイデアを処理するのがせいぜいだという。

法則1 自分の殻を抜け出せ
法則2 ルールを破れ
法則3 権力を演出せよ
法則4 強力なパーソナルブランドを確立せよ
法則5 ネットワークをつくれ
法則6 権力を活用せよ
法則7 成功すれば(ほぼ)すべてが許される

 この中でも、法則7がとくに大切だ。「こんなことをしたらどうなるだろう」などと取り越し苦労をせずに、まずは行動しようと思えるからだ。

 権力の仕組みを理解していない人は、リーダーシップの常識に反する行動や結果に出くわすたびに、あたふたしてしまう。そもそもこうした「常識」は、人間行動に関する社会心理学研究の裏づけに乏しいのだ。また、ときにはただ驚くだけではすまず、組織や社会で生きていくための心構えができていないせいで、出世街道を外れてしまうことさえある。

 官民を問わずあらゆる組織を動かしている力学や駆け引きについて、ぜひとも理解を深めてほしい。そして何より、私がスタンフォード大学で教える「権力への道」の講座概要にも書いたように、不本意な異動や解雇の憂き目に遭うことがないように、必要な知識で武装してほしい。

7つの法則から、組織を動かす力学を学び、知識で武装してほしい(写真/Shutterstock)
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法則1 自分の殻を抜け出せ

 ある日、私のオフィスに元教え子のクリスティンが相談に訪れた。一流の経営コンサルティング会社を辞めてビジネススクールで学び、現在はシリコンバレーの有名企業でマーケティング分析を担当し、最近完了したプロジェクトでは400万ドルもの売り上げを会社にもたらした。そんな彼女がどんな悩みを?

 彼女は4人のチームで働いていたが、メンバーの1人が上司に直訴して、クリスティンたち3人を自分の直属の部下にしようと画策しているという。なんとも巧妙なやり口だ。ライバル3人を自分の格下に置いたうえ、チームのめざましい業績を自分の手柄にしようというのだから。

 クリスティンはアジア系の女性で、幼いころから礼儀正しく丁寧でありなさい、努力して実力で認められなさい、と教えられてきた。クリスティンはこの短い会話の中で、自分がチームの「紅一点」で「最年少」で「一番地位が低い」のだと何度も繰り返した。これらはすべて、客観的事実に基づく真実だ。私はこう言った。

 「君という人間を説明する形容詞をもう3つ挙げてみようか。君はチームの中でただ1人有名ビジネススクールを出ていて、最も分析力に優れ、最大の経済効果を生むプロジェクトを指揮したね?」

 彼女はちょっと胸を張って、「ええ、その通りです」と答えた。

 「つまり、君を説明する形容詞は合わせて6つある。そのうちの3つは、君が実力に見合った扱いを受けられない口実になり、もう3つは君がもっと高い地位につける根拠になる。どちらの3つをつねに意識するかを、君は選ばなくてはいけない」

 「君のセルフイメージは、他人に与える印象や、君自身の行動にも影響するんだ。だから、権力を誇示するような形容詞で自分を表現し、君の地位をおとしめるような振る舞いは避けなくてはいけないよ」

 クリスティンは権力闘争に勝ち、その後すぐに転職した。新しい会社で後ろ盾の上司が争いに敗れて去ると、彼女も別の会社に移り、持ち前の分析スキルを生かして大活躍した。その会社は晴れて上場を果たし、いまでは莫大な時価総額を誇っている。

 この物語はじつに典型的だ。才能があり、どこからどう見ても申し分のない業績を上げている人が、自分で自分をおとしめるようなセルフイメージを持っているために、自信のない行動を取り、そのせいで出世の見込みが不当に閉ざされてしまう。優秀で人格も立派で成果も挙げているのに、自分の才能や業績を卑下するような物語を語る人たちは、自分で自分の首を絞めているようなものだ。

 自分を卑下せずにポジティブなセルフイメージを描くことが、権力と地位を手に入れるカギだ。あなたが自分を「強力で有能で成功する人間」だと思っていなければ、ネガティブな自己評価は他人にもうすうす、ときにははっきり伝わってしまう。

 出世競争では、ライバルのことや、上司の評価、自分の相対的な能力を気にしすぎる人が多い。こういったことはもちろん重要だが、おそらく権力獲得への最大の障害となるのは、自分自身である。

ポジティブなセルフイメージを描くことが、出世のカギだ(写真/Shutterstock)
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スタンフォード大学の人気講座が1冊に! 実社会の出世競争を勝ち抜くのは、他人の手柄を横取りし、自分のことを過大評価し、ルールを破る人たちだ――権力掌握・保持を研究してきた著者が、出世の7法則を科学的に解説。

ジェフリー・フェファー著/櫻井祐子訳/日本経済新聞出版/2200円(税込み)