株で悠々と儲(もう)けるベストの投資法は何か――。人気投資ブログ「エナフンさんの梨の木」筆者による書き下ろしの著書『 割安成長株で勝つ エナフン流バイ&ホールド 』(日経BP)の⼀部を抜粋・再構成して、個人投資家のための長期投資の鉄則を紹介します。

<span class="fontBold">奥山月仁</span>(おくやま・つきと、ハンドルネーム)<br>会社員投資家。高校2年から株式投資を始め、投資歴は約30年。大阪大学経済学部に入学し、故・蝋山昌一教授のゼミで証券理論を学ぶ。卒業後、大手企業の社員として堅実なサラリーマン生活を営むかたわら、ピーター・リンチに倣い、成長株に中長期で投資し、数億円の資産を築く。2008年5月からは、株式投資の正しい知識を広める目的で、ブログ「エナフンさんの梨の木」の執筆を続ける。同ブログを立ち上げるとともに、自らの投資内容をブログで公開するための口座を資金100万円で新たに開設し、バイ&ホールドでの運用を開始。13年後の2021年9月6日現在、その口座の運用金額は2842万円を突破した。著書に『“普通の人”だから勝てる エナフン流株式投資術』『“普通の人”でも株で1億円! エナフン流VE(バリューエンジニアリング)投資法』(日経BP)などがある。</a>
奥山月仁(おくやま・つきと、ハンドルネーム)
会社員投資家。高校2年から株式投資を始め、投資歴は約30年。大阪大学経済学部に入学し、故・蝋山昌一教授のゼミで証券理論を学ぶ。卒業後、大手企業の社員として堅実なサラリーマン生活を営むかたわら、ピーター・リンチに倣い、成長株に中長期で投資し、数億円の資産を築く。2008年5月からは、株式投資の正しい知識を広める目的で、ブログ「エナフンさんの梨の木」の執筆を続ける。同ブログを立ち上げるとともに、自らの投資内容をブログで公開するための口座を資金100万円で新たに開設し、バイ&ホールドでの運用を開始。13年後の2021年9月6日現在、その口座の運用金額は2842万円を突破した。著書に『“普通の人”だから勝てる エナフン流株式投資術』『“普通の人”でも株で1億円! エナフン流VE(バリューエンジニアリング)投資法』(日経BP)などがある。

なぜトイレットペーパーが消えたのか?

 G・W・オルポートとL・ポストマンは『デマの心理学』(1952年)という本の中で、「デマの流布量」は「重要度」と「曖昧さ」の積に比例するとして、次のような公式を発表している。

R ~ I×A

 この式のアルファベットの意味は、R=デマ(rumour)の流布量、I=情報の重要さ(importance)、A=情報の曖昧さ(ambiguity)であり、「~」は「比例する」という意味の記号である。

 つまり、ある情報が重要であればあるほど、かつ、曖昧であればあるほど、デマや噂が広がりやすいというのである。

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)に伴い、「トイレットペーパーが不足する」というデマが流れて、店頭からトイレットペーパーがなくなった経験を思い出してほしい。トイレットペーパーはなくてはならない必需品だ。ないとお尻が拭けなくなってしまう。この情報の重要度は極めて高い。

 一方で不足する理由については、トイレットペーパーのサプライチェーンを正確に知るその道のプロにでも聞かない限り、否定も肯定もできない。そんな人はほとんどいないため、「よく分からないけど、トイレットペーパーは不足するらしい。そして現に店頭からトイレットペーパーがなくなっている。買わなくては…」と、重要かつ曖昧な情報を根拠に人々が誤った行動をとってしまったのである。

ひろゆきの警句

 さて、この公式を株式投資に当てはめてほしい。当然のことながら、あなたにとって、「今後、株価がどちらに動くのか?」という情報は極めて重大な関心事だろう。一方で、今後株価がどう動くかを正確に知るものはこの世に1人もいない。未来というものは、結局のところ、誰にも分からないのである。

 そのため、SNSやネット掲示板にあふれる「近い将来、○○株は絶対に上がる」とか「このパターンなら、明日の大暴落は避けられない」などという情報は、典型的な重要かつ曖昧な情報となり、この公式に当てはめると流布量も非常に大きくなる。

 かくいう私もブログで「A株を購入して保有している」などと書こうものなら、大変なことになる。A株のネット掲示板やSNSで「エナフン氏はA株に注目している」→「エナフン氏がA株を買い集めている」→「A株には仕手筋が介入している」→「A株は絶対上がる」などと少しずつ事実がゆがめられ、自分たちの都合の良いように加工されて、流布してしまうことがある。

 もちろん、私は仕手筋ではないし、「この株は絶対に上がる」などと考えて株を保有したことは1度もない。儲(もう)かる可能性が高いと判断しつつも、そうではない可能性を否定したりはしない。常に上がる可能性と下がる可能性を天秤(てんびん)にかけながら、慎重に投資判断を続けている。その思考内容の一部をブログに公開するわけだが、その文章の中でも、特に自分たちに都合の良い一部分だけが引用されて拡散してしまうため、重要かつ曖昧な情報となって、デマの元となってしまうのだ。

 このようにデマであふれるSNSやネット掲示板だが、もちろん正確な情報も含まれている。しかし、どれが正確で、どれが噂やデマの類なのかを見分けるのは非常に難しい。

 以前、2ちゃんねるの創始者である西村ひろゆき氏がこんなことを言って話題になったことがある。「うそはうそと見抜ける人でないと(ネット掲示板を使うのは)難しい」。あなたにその才能があるだろうか?

投資家が克服すべき「人間の本能」

 SNSやネット掲示板にあふれる株情報の多くはとても刺激的だ。単に事実を流すのではつまらない。皆、様々な演出やストーリーを用意して感情に訴える。刺激的な表現や断定的な言い回しをあえて使うことで、期待や失望を誘発する。何度も何度も繰り返し同じことを書いて記憶に刻み付ける。つい笑ってしまう楽しい表現で共感を呼ぶ。とりわけ衝撃的な情報に限って、人々に驚きを与え、広く拡散してしまうため、あなたの元に届く情報はあなたの感情を必要以上に刺激するものばかりとなってしまう。

 そのため、理性ではなく、感情で重要な判断を下してしまいがちだ。売るべきではないタイミングで売りたくなってしまう。買うべきでない株をつい買いたくなってしまう。

 世界的なベストセラーとなった『ファクトフルネス』(日経BP)で、著者のハンス・ロスリング氏は、何百万年にもわたる進化の過程で、差し迫った危険から逃れるために、人類は様々な本能を身につけたと説明する。その中に、ドラマチックな物語に耳を傾けてしまう本能が存在すると語る。おそらく、古代人は、日常のありきたりな情報よりも刺激的でドラマチックな情報を優先することで危険を察知し、厳しい生存競争を勝ち残ってきたのだろう。

 ところが、当時とは比べものにならないほど平和となった現在、「ドラマチックすぎる世界の見方」は人々を正確な分析から遠ざけ、世界をありのままに見るための阻害要因となってしまった。この問題を克服するためにはどうしたら良いか? この本にはそのための知恵が豊富に紹介されている。

 毎日のようにドラマチックすぎる情報で感情を揺さぶられ続ける株式投資家は、ファクトフルネスを身に付ける努力をすると良いだろう。危険でないことを危険と思いこんでしまう「恐怖本能」、目の前の数字が一番重要だと考える「過大視本能」、1つの例がすべてに当てはまると考える「パターン化本能」、いますぐ手を打たなければ大変なことになると考えてしまう「焦り本能」等々、株式投資家が克服すべき項目がてんこもりだ。

本当に意味のある「正確な企業情報」を集めることに時間を使う

 ただ、そのような努力も重要だが、それ以上に身に付けておくべき大事なポイントがある。それは、そのような意味のない情報やデマ情報、それでいて感情を強く刺激する情報、つまり、投資先を探索したり、保有株の今後を占ったりといった株式投資の売買の根拠をネット掲示板やSNSから探索するような行為を、意識して遮断することである。

 得られるものが極めて少なく、判断を鈍らせ、行動を狂わせてしまう大量の情報をわざわざインプットする必要はない。

 そんなことで膨大な時間を潰すくらいなら、1銘柄でも多くの正確な企業情報を集めることに時間を使った方が有効だ。時々、ベテラン投資家がネットで有効情報を流すのは事実だが、そのほとんどは企業サイトやその業界に関連するニュースなど、誰でも手に入る公開情報を丹念に調べただけもので、毎日5分も同じ努力をすれば、あなたでも簡単に入手できる。投資先企業の公式サイトから最新の情報を手に入れる。その会社や主力商品名をグーグルで検索する。その業界のことがまとまっている本を読む。その会社の商品やサービスを実際に手にしたり体験したりする。

 より有利なのはあなたの投資先があなたの仕事や趣味と関連性が深い場合だ。あなたが読む業界紙や趣味のサイトの中から、有望な投資先を見つけたり、投資先企業の未来を予見させる重要な情報を手にしたりすることができるだろう。

 やっていただくとすぐ分かることだが、どんな人気銘柄に投資したとしても、その企業に関する驚きのニュースや画期的な新商品発表みたいな情報は滅多(めった)に流れてこない。現実は、極めて退屈でありきたりな情報が淡々と流れているだけだ。

 本当に意味のある情報とはそういう類のものである。その企業が次の一手として何をしようとしているのか? 今の状況をどう乗り越えようとしているのか? その企業が持つ強さはどこにあるのか? ムダ情報やデマ情報を排除して、淡々とそういう視点で企業を分析するのである。

 念のため断っておくが、SNSを遮断しろとまでは言っていない。おそらく、その方が人生を楽にしてくれるだろうが、それはちょっと別の話だ。繰り返しになるが、ここで言いたいのは、「売買の根拠や保有株の未来予測をSNSやネット掲示板に求めてはいけない」ということである。投資全般の情報や投資ノウハウを真面目に伝えてくれる人々の努力は否定しない。現に私だって、ブログの更新情報や読んでおくべきネット記事などをツイッターでお知らせしている。

 魚の釣り方やきのこの探し方を学ぶのは一向にかまわない。だが、誰かが釣った魚をSNSからただで手に入れようとか、既に調理されているきのこ料理をネット掲示板からただで頂戴しようとするから、そこに心の隙が生まれるのである。

数少ない有効情報も、投資スタイルの違いによって毒になる

 ただし、SNSで投資ノウハウを勉強するにしても注意点がいくつかある。既に何億円も稼いだ凄腕(すごうで)投資家だからといって、常に勝ち続けているわけではないし、失敗も多い。ある時点ではその人の投資法が有効だったとしても、多くの投資家にそのノウハウが共有されると、その投資法の有効性が落ちてしまうこともある。多くの人が理解して一般化した時点で、その投資法は時代遅れとなって、すぐに使えなくなるか、既に使えない。そんなこともあって、本当に有効な投資ノウハウはなかなか教えてもらえない。

 あるいは素人を騙(だま)すようなノウハウで勝ち続けている凄腕投資家も存在する。人々にある銘柄を推奨しておきながら、自分はその株を高値で売り抜けるといった具合だ。

 当然、どんな著名投資家でも、明日上がるか下がるかなんて分からないし、3か月後の予想に関してもかなり怪しい。私は、数日とか数週間、あるいは数か月といった短期的な株価の変動を無視し、数年単位でみてリターンを高めるような投資スタイルをとっているのだが、そのような長期投資家から短期トレードのノウハウを得られるはずもない。自分にあった投資スタイルを見つけ出す必要がある。

 3人の投資家がいれば、3種類の投資スタイルが存在する。それらの違いを理解せずに彼らのノウハウを合体して吸収すると、むしろ変なクセがついてしまって、うまくいかない。短期トレードと長期投資では考え方が全く違うし、長期投資といっても、分散投資と集中投資では考え方が真逆だ。考え方が違っても、場合によっては真逆であっても、そのいずれにも成功者が存在するのが投資の世界なのである。

 それらの複数の考え方がごちゃ混ぜであなたの元に届く。SNSやネット掲示板は大半がデマ情報やムダ情報である上、ようやく見つけた数少ない有効情報も投資スタイルの違いによって、毒にも薬にもなるのだ。

 幅広く様々な投資ノウハウを集めるよりも、どこかのタイミングで、思い切って、投資スタイルを確定させ、そこに深く鋭く突っ込んでいった方が、成功する可能性は高い。SNSでも、数多くの投資家をフォローするより、信頼できる、投資スタイルのよく似た少数の投資家にフォロー数を絞った方がうまくいくだろう。

(写真:Monster Ztudio/shutterstock.com)
(写真:Monster Ztudio/shutterstock.com)

日経ビジネス電子版 2021年12月15日付の記事を転載]

長期投資の極意を徹底解説

 人気投資ブログ「エナフンさんの梨の木」筆者が「株の勝ち方」を伝授する入門書。サラリーマンに最適の投資法であるバイ&ホールドの基本から極意までを徹底解説。伝説のファンドマネージャー、ピーター・リンチに倣った長期投資の徹底によって、13年間で資産を28倍にするというピーター・リンチに並ぶリターンを上げた投資法をこの1冊で一気に学べる。「億り人」を目指す人の必読書。

第1章 情報との付き合い方
第2章 バイ&ホールドが有効な理由
第3章 やるべきこと、やってはならないこと
第4章 長期投資で勝つための「鈍感力トレーニング」
第5章 長期投資は「バイ」ですべてが決まる
第6章 本物のビッグチャンスをものにする