「免疫力が上がる」「睡眠の質の向上」「ストレスを緩和する」などで注目される、ヨーグルトや乳酸菌飲料。習慣的にとっている人も多いのではないでしょうか。しかし、そもそもなぜ、ヨーグルトや乳酸菌飲料をとることで、免疫力や睡眠の質などに変化が起こるのか、知っていますか? そこには、私たち一人ひとりの腸内に生息する、細菌とのエキサイティングな共存関係が関わっているのです。新刊『 9000人を調べて分かった腸のすごい世界 』(國澤純著、日経BP)から抜粋、再編集して、ここ十数年で劇的に進む腸と腸内細菌研究の最前線をお届けします。4回目は「腸内細菌が喜ぶ食事」について。

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二大発酵食品「納豆・ヨーグルト」摂取の勧め

 腸から健康になりたい方が最初に取り組むのにお勧めのものは何か。そう聞かれたら、私は、「まずは納豆やヨーグルト」と答えると思います。それは、その2つともに、値段が手ごろ、スーパーやコンビニで手軽に買える、そのまま食べられる、という食生活に取り入れやすい3条件が揃っているからです。そして、あなたがどんな腸・腸内細菌の状態であったとしても、発酵食品はそれ自体がいい効果を発揮しやすいと考えられます。
 つまり、最高の腸内環境をつくる戦略を最速で実践するカギを、この2つの食品が握っているのです。

(写真:Shutterstock)
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 そんな考えを支持する結果が、アメリカ・スタンフォード大学のチームの研究から得られています。2021年に、成人を対象にして10週間、①食物繊維が豊富な食事と、②発酵食品が豊富な食事を続けると、腸内細菌叢にどのような影響が現れるかを調べた研究です(※1)。

 それによると、①の食物繊維が豊富な食事を続けたグループは、腸内細菌の増加を示唆するデータを得られ、②の発酵食品が豊富な食事を続けたグループでは、発酵食品の摂取量が増えるにつれて、腸内細菌の多様性が拡大することが分かりました。
 最も多様性に影響を与えたのは、ヨーグルト、発酵カッテージチーズ、発酵野菜、コンブチャ(発酵ドリンク)などのうち、ヨーグルトの摂取だったと報告しています。
 この実験は食物繊維と発酵食品が腸に与える影響を比較したもので、発酵食品の中で何が一番腸内細菌叢に影響を与えるか、ということを調べたものではありません。また、アメリカは発酵食文化が発達しているとはいえず、発酵食品の種類が乏しいことも留意したい点ですが、それでも腸内細菌叢が弱っているような人の場合は、まず多量の食物繊維をとるよりも、いろいろな発酵食品を食べて腸内環境を整えたほうがいいといえるでしょう。

(※1) Hannah C. Wastyk et al., “Gut-microbiota-targeted diets modulate human immune status” Cell. 2021 Aug 5; 184(16): 4137–4153. e14.

納豆で、糖尿病・がんのリスクが下がり、老化も予防?

 テレビや雑誌などで「健康にいい食品」として盛んに取り上げられている納豆ですが、その実力はどうでしょうか?
 論文などをひもといてみると、納豆をはじめとする発酵大豆食品を摂取している人としていない人では、体質や体調、病気のリスクなどにどのような傾向があるのかという研究が盛んに行われていることが分かります。
 例えば、発酵大豆食品と、高血圧リスクや高齢者の寝たきりの原因として多い股関節骨折のリスク、骨粗しょう症リスクなどとの関係性が明らかにされつつあります(※2)。
 特に、大豆が発酵して納豆になる過程で産生されるビタミンK2とスペルミジンは、今、世界でも注目される成分といえるでしょう。
 ビタミンK2は2型糖尿病やがんのリスクを下げることが分かってきており、またスペルミジンは細胞の若さを維持するための再生システム「オートファジー」を促すとして、老化制御の分野で注目されているのです。

 2014年にアメリカ国立老化研究所(NIA)が「寿命延伸に役立つと考えられる七つの方法の一つ」としてスペルミジンを評価、その後も多くの研究が発表されました。さらに2022年には加齢でスペルミジンが減少したマウスの血中スペルミジン濃度を高めたところ、抗がん免疫が高まったと報告されています(※3)。

 納豆は、このスペルミジンを多く含む食品の代表で、1日50~100g(1~2パック)の納豆をとった人で、血中のスペルミジン濃度が大幅に増加した、と記されています(※4)。

 残念ながら「日本独自の食文化」である納豆の研究は日本国内が中心となっています。そのため、次に挙げるヨーグルトのように、世界中で食され、さらに個別の菌の特性などについてまで調べるなど、膨大な研究が行われているわけではなく、自分に合った納豆探しの科学的な根拠は、まだ十分とはいえません。

 しかし、納豆そのものに含まれる栄養素、さらには納豆菌がつくり出すポストバイオティクスなど、納豆が注目すべき食品であることはまちがいありません。

(※2) Miho Nozue et al., “Fermented Soy Product Intake Is Inversely Associated with the Development of High Blood Pressure: The Japan Public Health Center-Based Prospective Study” J Nutr. 2017 Sep; 147(9): 1749–1756, M Kaneki et al., “Japanese fermented soybean food as the major determinant of the large geographic difference in circulating levels of vitamin K2: possible implications for hip-fracture risk” Nutrition. 2001 Apr; 17(4): 315–21, Akane Kojima et al., “Natto Intake is Inversely Associated with Osteoporotic Fracture Risk in Postmenopausal Japanese Women” J Nutr. 2020 Mar 1; 150(3): 599–605.
(※3) Katharina Nimptsch et al., “Dietary vitamin K intake in relation to cancer incidence and mortality: results from the Heidelberg cohort of the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC-Heidelberg)” Am J Clin Nutr. 2010 May; 91(5): 1348–58, Rafael de Cabo et al., “The search for antiaging interventions: from elixirs to fasting regimens” Cell. 2014 Jun 19; 157(7): 1515–26, Muna Al-Habsi et al., “Spermidine activates mitochondrial trifunctional protein and improves antitumor immunity in mice” Science. 2022 Oct 28; 378(6618): eabj3510.
(※4) Frank Madeo et al., “Spermidine in health and disease” Science. 2018 Jan 26;359(6374): eaan2788.

研究が進む「ヨーグルト」 その健康効果は?

 ヨーグルトは、原料となる乳を乳酸菌やビフィズス菌で発酵させたものです。一口に「ヨーグルト」、そして「乳酸菌」「ビフィズス菌」といっても実は種類は様々あり、乳酸菌の菌株によって、得られる効果が異なることが分かっています。この多種多様な菌が使われていることは、納豆にはない強みだと思います。

 例えば近年では、整腸作用以外に、「ストレス・緊張の緩和」「脂肪減少」「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」「目や鼻の不快感を緩和」「尿酸値上昇抑制」「一時的な胃の負担をやわらげる(※5)」などの機能性を表示する商品が増えました。こうしたヨーグルトの機能性を明記できるのは、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品として販売されている商品です。

 いずれも国のガイドラインに沿っていますが、トクホは「国に有効性と安全性を示して審査を受けた結果、許可を得たもの」、機能性表示食品は「国の定めるルールに基づいて、メーカーが必要な科学的根拠を届け出ることで表示できるもの」という差があります。そうした差はあるものの、根底にあるのは、科学的なデータに基づき「体のことを考えて選んで食べる」という発想です。

 また、ヨーグルトの研究は世界各地で進められ、「腸内細菌叢の改善」以外にも次のような「効果」が、ヨーグルトおよび乳酸菌にはあることが示されています。

    1. 抗酸化力=アンチエイジング効果が高い(※6)
    2. ヨーグルトを常食すると太りにくい(※7)
    3. BMI(体格指数)とウエストの減少効果(※8)
    4. ヨーグルトでメタボが改善(※9)
    5. 2型糖尿病のリスクが低下する(※10)
    6. 心血管疾患のリスクとの関連性(※11)

 腸内細菌は、たった一度よい菌をとればその菌が棲みつき、増えるといった単純なものではありませんが、自分が期待する効果を得るためには菌株を選んで食べることが、1つの戦略となります。ヨーグルトを選ぶ際にはぜひ、「効果(=菌株)」に目を向けてみてください。

(※5) Toshihiro Ohtsu et al., “The Effect of Continuous Intake of Lactobacillus gasseri OLL2716 on Mild to Moderate Delayed Gastric Emptying: A Randomized Controlled Study” Nutrients. 2021 May 28; 13(6): 1852.
(※6) Anthony Fardet and Edmond Rock, “In vitro and in vivo antioxidant potential of milks, yoghurts, fermented milks and cheeses: a narrative review of evidence” Nutr Res Rev. 2018 Jun; 31(1): 52–70.
(※7) Dariush Mozaffarian et al., “Changes in diet and lifestyle and long-term weight gain in women and men” N Engl J Med. 2011 Jun 23; 364(25): 2392–404.
(※8) Jing Sun and Nicholas Buys, “Effects of probiotics consumption on lowering lipids and CVD risk factors: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials” Ann Med. 2015; 47(6): 430–40.
(※9) Arne Astrup, “Yogurt and dairy product consumption to prevent cardiometabolic diseases: epidemiologic and experimental studies” Am J Clin Nutr. 2014 May; 99(5 Suppl): 1235S–42S.
(※10) Jordi Salas-Salvadó et al., “Yogurt and Diabetes: Overview of Recent Observational Studies” J Nutr. 2017 Jul; 147(7): 1452S–1461S, Mijin Lee et al., “Dairy food consumption is associated with a lower risk of the metabolic syndrome and its components: a systematic review and meta-analysis” Br J Nutr. 2018 Aug; 120(4): 373–384.
(※11) Timo T Koskinen et al., “Intake of fermented and non-fermented dairy products and risk of incident CHD: the Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study” Br J Nutr. 2018 Dec; 120(11): 1288–1297.

自分に合ったヨーグルトの選び方

 ヨーグルトの健康効果、そしてヨーグルトと関連するポストバイオティクスの研究は、現在、急速に進められているところです。菌が生み出した有効成分を積極的にとることは、今後の私たちの健康のカギになるのはまちがいありません。

 では、たくさん種類があるヨーグルトを、どのように選べばいいのでしょうか。もちろん好みの味や値段のちょっとした差もあると思いますが、基本は乳酸菌の菌株の種類、そしてその菌株が持つ機能から選ぶとよいでしょう。菌株は、商品のパッケージに印刷されていることが多いので、気になる機能がありましたら、確認してみてください。

 ひとくくりに「ヨーグルト」と見るのではなく、体調や目的に合わせて「菌」で選ぶ。そして、これからはポストバイオティクスも考える。これが、最新の研究を、ご自身の健康に生かす秘訣です。
 さっそく今日から、「菌」で選ぶ腸内環境づくり、そして腸内細菌との素敵な共生ライフを始めてみてはいかがでしょうか。

私たちの腸内には、体を構成する細胞の数の倍以上もの「腸内細菌」が生息しています。そして「生活習慣病などにかかりやすさ・かかりにくさ」「感染症などの重症化のしやすさ」「太りやすさ」「ストレスの感じやすさ」など、多岐に影響を与え得ることが明らかになっています。ここ十年ほどで飛躍的に進んだ世界最先端の研究から、腸の不思議で面白い世界、そして腸内細菌を味方につける生活法を、腸と免疫の第一人者が語ります。

國澤純(著)/日経BP/1760円(税込み)