「ピーター・リンチみたいな人になりたい」――。投資信託「ひふみ」シリーズを運用するレオス・キャピタルワークス会長兼社長の藤野英人さんには、新卒入社時に課題図書として渡され、ファンド・マネジャーの道に進むことを決意した1冊がありました。司法試験合格までの腰掛けのつもりで資産運用業界に入った藤野さんを魅了した、運用資産を777倍に増やした伝説の投資家の本を紹介します。

たまたま出合った「レジェンド」

 祖父が満州国の最高裁判所判事だったため、僕も裁判官や検事を志していました。でも、学生時代には司法試験に合格できず、とりあえず受かるまでの腰掛けのつもりで資産運用会社に就職。運用部に配属されました。

 そのときに課題図書だったのが 『ピーター・リンチの株で勝つ アマの知恵でプロを出し抜け』(ピーター・リンチ著/三原淳雄、土屋安衛訳/ダイヤモンド社) です(現在は「新版」が販売中)。僕は法学部出身で、当時は投資のことは何も分からなかったのですが、それでもすごく面白かった。もう純粋に「ピーター・リンチみたいな人になりたい」と思いましたね。

 日本では、投資家というとウォーレン・バフェットやジョージ・ソロスが有名です。でも、実はピーター・リンチもタイム誌から「全米NO.1」、金融メディアからは「レジェンド」と評された人物。フィデリティ・インベスメンツで1977年からファンド・マネジャーを務めた「マゼラン・ファンド」の運用資産を13年間で777倍に育て上げました。

 彼が投資をして巨大企業に成長したところにはウォルマートなどがあります。アメリカで投資信託の地位を高め、今の投資文化の基礎をつくったと言っても過言ではありません。

『ピーター・リンチの株で勝つ』は藤野英人さんの人生を変えた1冊
『ピーター・リンチの株で勝つ』は藤野英人さんの人生を変えた1冊
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 ピーター・リンチは銘柄を選択するたびに「なぜ、この銘柄を選んだのか」というメモを残していたのですが、その膨大なメモから「勝つための法則」を解き明かしたのが、この本。1970年代、80年代ごろと現代ではデジタル化が進み、アメリカと日本では環境も違いますが、「ビジネスで起きること」「経営上の問題点」といった注目すべき点はそうそう変わりません。今の世の中でも十分に通じる内容で、学ぶところも多いと思います。

作家レベルの名言の数々

 ピーター・リンチは見事な言葉の使い手でもあります。この本や、同じくピーター・リンチの著書『ピーター・リンチの株式投資の法則 全米No.1ファンド・マネジャーの投資哲学』(酒巻英雄監訳/ダイヤモンド社)では、「花を引き抜き、雑草に水をやる(利益が出ている銘柄を売ってしまい、利益を生まない銘柄を手元に置いてしまう)」といった格言が紹介されています。ちなみに、ピーター・リンチが数カ月で手放して後悔した銘柄には、アルバートソンズ、トイザらス、ワーナー・コミュニケーションズなどがあったとか。

 他にも「アマチュアでもプロに勝てる」「割安だからと、よく調べもしない会社に投資するな」「投資する会社を90秒で説明できないようなら買うな」など、現代にも通じる名言をいくつも残しています。ファンド・マネジャーが文才豊かなのではなく、「作家がファンド・マネジャーをしていた」と思わせるレベルなのです。

 実は僕も小さな頃から本が好きで、文章を書くことが得意でした。大学時代には企業が公募していたキャッチコピーのコンテストで最優秀賞を受賞し、ハワイ旅行に行ったこともあります。一方で、法律家を志しつつ、経済というものにも興味があった。この本を読んで初めて、「文章を書きながら、ファンド・マネジャーをするという路線もあるぞ」と道が開ける思いでした。

 それに、全米を回って会社を発掘し、経営者に寄り添いながら成長していくという彼の投資スタイルが、本質的に自分と似ていました。この本を読めば読むほど、「自分は日本のピーター・リンチになれるはずだ」という確信が深まっていったのです。

藤野さんは「文章を書きながら、ファンド・マネジャーをするという路線もあるぞ」と道が開けた思いだったという
藤野さんは「文章を書きながら、ファンド・マネジャーをするという路線もあるぞ」と道が開けた思いだったという
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 とはいえ、当時は何の知識も実績もない新米。言ったところで信用してもらえないだろうし、誰にもこの夢は話しませんでした。そこからは投資について猛勉強し、ピーター・リンチが全米を訪ね歩いたように、自分も日本中を旅して経営者に会い、知識と人脈を広げていきました。

 この本を読み、「日本でいい運用会社を立ち上げ、理想の国民的な投資信託をつくりたい」という思いから、2003年にレオス・キャピタルワークスを起業しました。「理想の国民的な投資信託」とは、長期的に運用され、多くの人々が保有することによって、豊かな生活を送れるもの。そんな投資信託になれれば、との思いから2008年に「ひふみ投信」をスタートさせました。

 そう考えると、新卒入社時に読んだ1冊が僕の人生を決定づけたんですね。とても思い出深い本です。

取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子(人)、スタジオキャスパー(本)