グローバルで経営戦略コンサルティングを行っているベイン・アンド・カンパニー。同社で人材育成も担当する大原崇さんは、「専門知識を持っているだけではクライアントに選ばれなくなっている」と言います。そこで、大原さんが社内で薦めているのはコンサルタントの心構えを説く本。『選ばれるプロフェッショナル クライアントが本当に求めていること』『プロフェッショナル原論』の2冊を紹介します。

コンサルタント 7つの極意

 コンサルタントに必要なスキルについて書かれた本は多くありますが、マインドについて書かれた本は意外と少ないものです。その意味で紹介したいのが、 『選ばれるプロフェッショナル クライアントが本当に求めていること』 (ジャグディシュ・N・シース、アンドリュー・ソーベル著/羽物俊樹訳/英治出版)です。必読書として社内の若手に薦めることが多く、私自身も定期的に読み返すバイブル的な一冊です。

 時代の変化とともに、もはや専門知識を持っているだけではクライアントに選ばれることが困難になりました。それでもなおクライアントから信頼され続け、偉業を成し遂げるプロフェッショナルがいます。

 そんな優れた人材を研究し、同時にコダックやアメリカン・エキスプレスなどの有名企業のトップたちが、プロフェッショナルに求めるものをインタビューして明らかにしているのが本書です。ロジカルかつ分かりやすくまとまっていて、コンサルタントのみならず、セールスパーソンや会計士、弁護士、医師などクライアントビジネスに就く人全般に役立つ、応用範囲の広い内容でしょう。

プロフェッショナルに求めるものを明らかにした『選ばれるプロフェッショナル』
プロフェッショナルに求めるものを明らかにした『選ばれるプロフェッショナル』
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 英語のタイトルは『CLIENTS for LIFE』で、私はこちらの方が本書の特徴を捉えていると思います。つまり、クライアントとどういう関係性を築けば「生涯の顧客」になっていただけるか、ということ。そのためには、7つの極意があると説いています。

(1)無私と自立:献身的でありながら中立性を保つ
(2)共感力:隠れたサインに気づく
(3)ディープ・ジェネラリスト:広く、深い知識を身に付ける
(4)統合力:大局的に思考する
(5)判断力:健全な意思決定を行う
(6)信念:自分の価値観を知り、強く信じる
(7)誠実さ:ゆるぎない信頼を築く

 これら7つすべてに意義があって、常に念頭に置いておくべきことですが、特に私が重要だと思うのはこのうちの3つです。すなわち、(1)中立性を保つこと、(3)広く、深い知識を身に付けること、そして(6)と(7)の信念と誠実さ。信念と誠実さは別々に紹介されていますが、私はまとめて理解しています。

精神的な独立を崩さない

 まず、中立性。クライアントに価値を生み出すプロフェッショナルになるには中立性が必須で、そのためには知的な独立、精神的な独立、金銭的な独立の3つを満たす必要があると述べています。

 知的な独立とは、相手に引っ張られない独自の考え方を持っていることで、精神的な独立とは、仕事から離れた一個人として、家族や友人などとの充実した時間を持っていることを意味します。金銭的な独立は文字通り目の前のお金に左右されないことで、これら3つを持っていて初めて価値あるアドバイスができるようになる、と。

 コンサルタントの場合、よくあるのは知的な独立か精神的な独立が崩れるケースです。特に知的な独立は要注意です。クライアントにとって真に価値のある提言をするためには、クライアントがお持ちのご要望や仮説に沿うだけでは不十分です。時には、クライアントにとって耳障りなことであったとしても提言しなければなりません。やすきに流れて、クライアントのご要望通りの提言しか出せないのは、知的な独立が崩れた結果だと言えるでしょう。

「よくあるのは知的な独立か精神的な独立が崩れるケースです」と言う大原崇さん
「よくあるのは知的な独立か精神的な独立が崩れるケースです」と言う大原崇さん
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 2つ目の広くて深い知識を身に付けることは、特定の専門分野を超えた領域でもクライアントのよきアドバイザーになるためには欠かせません。「T型人材」という言い方もしますが、自分の専門を縦方向に伸ばすだけではなく、専門外の分野を横方向にも広げることで初めて、クライアントの心をつかめるのです。コンサルタントが目指すべきはそうしたアドバイザーで、専門分野に詳しいエキスパートであることは必要条件にしかすぎないのです。

 そして3つ目の信念と誠実さ。これは文字通りの意味ですが、「クライアントのために」という強い思いが前提になります。この前提を忘れてしまったら、どんなに優れたスキルがあっても役に立ちません。人として当たり前のことではありますが、多くの案件を抱えて忙しくなるほどスルッと抜け落ちがちなので、念頭に置くようにしています。

 この3つをはじめ7つの極意すべてを、いつも完璧に実践しているコンサルタントはまずいないでしょう。できないからこそ、定期的に読み返すことをお勧めします。経験値が上がるにつれて、書かれていることの染み込み方が変わるので、新鮮な気持ちで読み返せると思います。

資格がないからこそ究極のプロ

 もう一冊、コンサルタントのマインドについての本として、経営コンサルタントの波頭亮さんの 『プロフェッショナル原論』 (ちくま新書)を紹介します。かれこれ15、16年前に、私がコンサルタントになって間もないときに読んだ本です。

 「コンサルタントは無免許ゆえに、究極のプロフェッショナルである」という趣旨のフレーズが出てきて、それは今も胸に焼き付いています。すなわち、医師や弁護士のような国家資格がないコンサルタントには“自称コンサルタント”も混じってしまうからこそ、地道に実績を積んで信頼を勝ち得ていかなければならない、と。

 初めて読んだとき、容易なことではない分、やりがいも価値も大きいことだと感銘を受けました。今では、初心に立ち返る際のポイントにしていて、若手にも折に触れて話しています。「私たちは無免許だからこそ、仕事との向き合い方が問われて、良しあしは結果で測られる」と。大きな案件をやり終えたときなど、気持ちが緩みそうなときの戒めとして、肝に銘じています。

「コンサルタントは、地道に実績を積んで信頼を勝ち得ていかなければならない」
「コンサルタントは、地道に実績を積んで信頼を勝ち得ていかなければならない」
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取材・文/茅島奈緒深 写真/洞澤佐智子