グローバルで経営戦略コンサルティングを行っているベイン・アンド・カンパニー。同社で人材育成も担当する大原崇さんは、問題の所在を見極めて、遠回りせずにゴールにたどり着くことが重要だと言います。そのために社内で薦めている本が『イシューからはじめよ』。また、プロジェクトがうまくいかず、部下が疲弊した場合に必要なリーダーの役割を説く『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』も紹介します。

まず問題の所在を見極める

 コンサルタント業務において、問題の所在を見極めて、正しい問題設定をできるか否かが成功のカギを握る、つまり、クライアントに利益をもたらして企業価値を上げる、と言っても過言ではありません。その重要性について書かれているのが、現在、Zホールディングス シニアストラテジストを務める安宅和人さんの 『イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」』 (英治出版)です。2010年の発売当時はとても話題になり、ビジネス書の名著として知られる一冊です。当社の新入社員の課題図書にも入っています。

 時に、クライアントが問題視するポイントと、改善すべきポイントがずれているケースがあります。分かりやすい例を挙げると、複数の事業を抱える企業の成長戦略立案の場合。クライアントが伸ばしたいと思う事業はすでに成長しきっていて、それ以上伸びる余地がないことがあります。あるいは、伸び悩んでいる理由は、その会社が持っている強みを生かしにくいせいであることも。

 こうした場合、コンサルタントがすべきことは、当該事業の成長戦略の立案ではなく、その事業を維持し続けるか否かという全社事業ポートフォリオの見直し提案です。それをせずに個別事業の成長戦略を立てても、クライアントに利益をもたらすことはなく、企業価値の向上にもつながりません。まさに、本書のタイトル通り「イシュー=問題からはじめよ」なのです。

問題設定の重要性が分かる『イシューからはじめよ』
問題設定の重要性が分かる『イシューからはじめよ』
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 問題を見極めずに取りあえずできることから始めても、いつかは問題解決というゴールにたどり着けるでしょう。しかし、問題を見極めていない分、遠回りをすることになってチームは消耗し、時間や経費などのロスがかさみます。そんな遠回りをすることを、安宅さんは「踏み込んではならない『犬の道』」と名付けて説明しています。

 犬が本当にそういう歩き方をするのかは定かではありませんが、クンクンと鼻を利かせながら目の前のことに興味を持って歩くさまが、ゴールに一直線に向かっていない、という例えでしょう。この本には、そうならないようにどうすべきか、という実践的なアプローチも書かれているので、行動に落とし込みやすくなっています。

部下の疲労に目を配る

 プロジェクトを進めている過程で、当初設定した問題から離れていくケースもあります。そのとき、プランの見直しの手間を惜しんでゴリ押ししても、真の成果は上がりません。現行のやり方でいいのかを見極めて、それまで積み上げたものも捨てる必要があるなら、捨てるべきです。とても勇気がいることで、怖いことでもありますが、プロジェクトリーダーのリーダーシップが問われる局面です。

 チームの誰か1人に負荷がかかっていることも、当初の問題設定が間違っているサインです。それにいち早く気づいて、素早く調整するのもリーダーの役割。そのようなリーダーに求められる心構えがまとまった 『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』 (下園壮太著/日本能率協会マネジメントセンター)も併せて読んでほしい一冊です。

 この本では、自衛隊員とビジネスパーソンでは心身にかかる負荷に違いはあるものの、どんな人もエネルギーやリソースは有限で、損耗して疲労する、という大前提が強調されています。言われてみれば当然なのですが、結果を求めて走っているとついつい忘れがちなので、立ち返って確認できるのは大きな収穫です。

自衛隊を題材にリーダーの心構えを解説する『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』
自衛隊を題材にリーダーの心構えを解説する『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』
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 私たちコンサルタントの場合、リーダーがやる気満々でも、部下は疲れてついてこられない場合があります。反対の場合もありますが、支障が大きいのは前者の場合です。だからこそリーダーは、自分が元気でも部下が元気とは限らないし、疲れていれば生産性が下がって当然、という冷静な観察眼を持っておくべきだ、と本書は教えてくれます。

リーダー自身の体調も重要

 また、リーダーのコンディションがいいことはチーム全体にとって重要である、という点も力説されています。当社の中堅クラス以上のトレーニングでも、リーダーがエネルギー満タンで、視界が十分に開かれた状態であることが重要だと指導されますが、違う世界のレンズを通しても言えることだと知り、この教えの重要性の確信度が上がりました。

 リーダーという立場には利他心が求められるため、部下が元気であることに腐心するあまり、自分自身のコンディションをおろそかにしがちです。しかし、それは、チーム全体をまとめる上で実は非合理なこと。チーム全体をよくしたいと思えば思うほど、自分自身も大事にすべきなのです。「自分をつぶして周りを立てるチョイスをしたら、リーダー失格」という趣旨の言葉にはハッとさせられました。

「チーム全体をよくしたいと思えば思うほど、自分自身も大事にすべきです」という大原さん
「チーム全体をよくしたいと思えば思うほど、自分自身も大事にすべきです」という大原さん
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 本書で自分のコンディションの重要性を痛感したことで、常に自分のエネルギーレベルを意識するようになりました。エネルギーレベルがマイナスになっていると感じたら、マイナスになっていることを減らすように調整する、あるいはプラスになることを足すようにしています。

 エネルギーがプラスになることとマイナスになることは人によって違っており、肉体的に休養することだけがプラスになるわけではありません。私の場合、人と会って話すことは好きなのでプラスになりますが、1人でいるのが好きな人にとってはマイナスになるでしょう。自分の子どもと接するときでも、楽しく遊ぶことができればエネルギー面ではプラスになりますが、子どもを叱ってばかりいると大きなマイナスになります。そうしてエネルギーの収支のバランスを取っていれば、肉体的に多少きつい状況も乗り越えやすいと実感します。

 とはいえ、肉体面が極端に疲労したら精神面もマイナスに傾くので、きちんと休養を取るようにしています。最低でもプラスマイナスゼロのニュートラルな状態か、できればプラスに傾いた状態を維持するように。燃え尽き症候群の防止策にもなっていると感じています。

取材・文/茅島奈緒深 写真/洞澤佐智子