経営大学院や企業研修、ベンチャーキャピタルの運営などを行うグロービス。全社員が読む必読書が9冊あり、経営理念の浸透やスキルアップに役立てています。グロービス 経営管理本部人事・総務チーム マネージャーの金澤英明さんに、その9冊の内容と選書の狙いを説明してもらいました。組織経営の参考になる名著や感情をコントロールするためのベストセラー、陽明学の本など幅広いラインアップです。

組織経営の参考にしている本

 前回 「理念経営を行うグロービス 読書会を重視する4つの理由」 では、なぜグロービスが読書会を重視しているかを説明しました。今回は具体的にどんな本を読んでいるかをご紹介したいと思います。

 グロービスには全社員が必ず読む9冊の「必読書」があります。これらの必読書は1992年の創業時から一部が選定されており、その後に刊行された本を追加するなど見直しながら、現在まで使い続けています。

 1番目に読むのは、前回もご紹介したグロービス代表・堀義人の 『新版 吾人の任務 MBAに学び、MBAを創る』 (東洋経済新報社)。こちらはグロービスのビジョンやミッション、その目的や事業への理解を深め、社員が共通認識を持つために読んでいます。

 その他の8冊を、読む順番に挙げると2番目が『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』。3番目が2冊あり、『創造と変革の志士たちへ』と『創造と変革の技法 イノベーションを生み続ける5つの原則』。4番目が『人を動かす』、5番目が『EQ こころの知能指数』、6番目が『代表的日本人』、7番目が『修身教授録』、最後が『新装版 真説「陽明学」入門』となります。それぞれ、どういった目的で読んでいるかをご説明していきます。

グロービスが必読書としている9冊
グロービスが必読書としている9冊
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 まず入社してすぐに読むのが 『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』 (ジム・コリンズ著/山岡洋一訳/日経BP)です。実はグロービスの組織経営も、本書の考えを参考にしています。リーダーのあり方や、誰をバスに乗せるのか(採用の重要性)、枠組みの中の自由と規律、ハリネズミの概念(戦略)など、組織経営の要諦が書かれているので、非常に役立ちます。

 社員たちが入社してすぐに読んでも勉強になりますが、1年目研修で改めて読むと、「グロービスは確かにこういう経営をしているよね」と納得できます。

グロービスの理念が学べる本

 次が、代表の堀が書いた 『創造と変革の志士たちへ』 (PHP研究所)。グロービス経営大学院が輩出したいと考えている「創造と変革の志士」とはどういった人材なのか、創造と変革の志士たるために必要な要素とは何かを解説した本です。本書では、必要な要素を「能力」「人的ネットワーク」「志」の3つに分け、堀の実体験も交えて解き明かしています。

 そして、続けて読むのが、同じく堀の 『創造と変革の技法 イノベーションを生み続ける5つの原則』 (東洋経済新報社)。創造と変革の志士がどういう人材かは分かった、では実際にどのように創造と変革を実現していけばよいか──を示した実践的な本となります。具体的に必要な「5つの原則」が書かれているので、グロービス自身が実践してきたことを体感しながら、自分たちが何を考え実践していけばよいかを理解することができます。

 グロービスは、「一人ひとりがどう成長していくか」というところに重きを置いています。4番目に 『人を動かす』 (デール・カーネギー著/山口博訳/創元社)を読むのは、人間とは何か、どうすれば人は動いてくれるのかを学ぶためです。こちらは、著者が自らの体験やインタビューを通じて得た知見が余すところなく書かれている名著ですね。

 一方で、人間は感情の生き物でもあります。感情について理論的に学んでおくと、自分の良き感情を増幅させることもできますし、怒りや不安といったネガティブな感情をコントロールすることもできます。また、他人の感情も理解でき、影響を与えることもできます。そのため、5番目には 『EQ こころの知能指数』 (ダニエル・ゴールマン著/土屋京子訳/講談社+α文庫)を設定しています。

「『一人ひとりがどう成長していくか』というところに重きを置いています」と話す金澤さん
「『一人ひとりがどう成長していくか』というところに重きを置いています」と話す金澤さん
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人間として成長するための本質に迫る本

 残る3冊は、ビジネスに必要な能力・スキルというよりは、「人としていかに成長するか」を考える本になります。

 6番目は内村鑑三の 『代表的日本人』 (鈴木範久訳/岩波文庫)。普段、私たちは意外と自分自身では「日本人としての良さ」が分からないのではないでしょうか。この本で、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮らを通じて、改めて日本人としてのアイデンティティーや日本の良さを考えられると思います。グロービスには海外にもスタッフがいますが、彼らは日本が大好きなんですね。日本人の良さを理解する一助になっています。

 7番目は森信三の 『修身教授録』 (致知出版社)。森信三は1万回以上の全国行脚を通して、学校経営や教師の生き方を説き続けた哲学者です。いかに私たちが人間として修身していくか学ぶとともに、森先生の思想から、教育者として教育とは何かを考えさせられ、身が引き締まる思いです。

 そして8番目が 『新装版 真説「陽明学」入門』 (林田明大著/ワニブックス)です。陽明学は「変革の時代の学問」ともいわれ、陽明学と、陽明学と関係が深く水戸藩で発展した水戸学が明治維新の原動力となりました。明治維新後も、歴代総理が哲学者の安岡正篤先生から陽明学の指南を受けたとも言われています。

陽明学で心を磨き、行動する

 陽明学とは、分かりやすくいうと、どう心を磨き、その磨いた心に従ってどのように行動するかを説く行動哲学です。今のような激動の時代には、自分が正しいと信じたことに基づいて行動する必要があるため、非常に勇気をもらえます。ただ、心というものは、様々な形でよどんだり、私欲にとらわれたりする。だからこそ、磨き続けていかないと良い行動ができないとも説いていて、深く考えさせられます。

 堀も、陽明学と水戸学には影響を受けています。もともと水戸市の出身で、通っていた小学校は弘道館、中学・高校は水戸城の跡地にあったそうです。陽明学と水戸学の「常識を疑いながら、世の中を変えていく」という考え方にひかれ、それを体現しているのだと思います。

 近年、グロービスは社会貢献活動にも力を入れていますが、地方創生の一環として、水戸・茨城の発展に取り組んでいます。堀が「生まれ育った水戸に恩返しをしたい」と、プロバスケットボールチームの茨城ロボッツを支援したり、一時期はシャッター街ばかりになってしまった水戸を再生するため、「水戸ど真ん中再生プロジェクト」といった官民連携の取り組みを行ったりしています。

 グロービスでは、今回紹介した9冊の本を組織的に活用し、経営理念を浸透させ、成長を促しています。また、9冊のうちほとんどの書籍は経営大学院や企業研修でも取り扱っており、社内外に一貫した思想を持って経営をしています。今後も、様々な本を活用して、人材育成に役立てていきたいと思います。

「今後も、様々な本を活用して、人材育成に役立てていきたい」
「今後も、様々な本を活用して、人材育成に役立てていきたい」
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取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美

GOODからGREATへの法則

ベストセラー『ビジョナリー・カンパニー』の著者が書き下ろす飛躍企業11社の秘密。全米1435社の中から選ばれた、傑出した業績を長期間持続させることに成功した企業11社を、それぞれの業種で競合関係にある企業と詳細に比較・分析する。

ジム・コリンズ著/山岡洋一訳/日経BP/2420円(税込み)