色は人々の心や暮らしを豊かにしてくれる。しかし、実際にはものの表面に色はなく、そこで反射する光があたかも色がついているかのように見える仕組みを目と脳が備えているのだ。私たちはどのようにして色を感じることができるのか? 色覚はどのように発達してきたのか? 最新科学に基づき色彩の不思議な世界を解説した『 手術をする外科医はなぜ白衣を着ないのか? 色の不思議を科学する 』から抜粋・再構成してお届けする。

色の正体は光だった

 緑あふれる自然、青く澄んだ海、夏空に浮かぶ入道雲、夜空を彩る花火、食卓に並ぶ旬の食材、非常口を示す緑の灯、危険を知らせる黄色と黒や赤の看板――私たちはさまざまな色に囲まれ、心や生活を豊かにしてきた。

 しかし実は、ものの表面には色はついていない。よく反射する波長の光とあまり反射しない波長の光があるだけで、ものの表面で反射してくる光をもとに、あたかもそこに色がついているかのように見える仕組みを目と脳が備えているのだ。

 人の目に見える光が電波と同じ仲間だといわれると、不思議な気がするかもしれないが、光は電波やX線などと同じ電磁波の一種。人が明るさを感じることができる光(可視光)は、波長が約380~780ナノメートル(1ナノメートルは1メートルの10億分の1の長さ)の範囲の電磁波であり、光の波長はとても短いのである。ラジオのAM放送に使われている電波の波長が約100メートルだから、光の波長は電波に比べてはるかに短い。

 地上に降り注ぐ太陽からの電磁波はいろいろな波長を含んでいる。太陽光のエネルギーに占める割合は、光が約52%、赤外線が約42%、紫外線が約6%。赤外線が半分近く含まれている。

電磁波の波長と分類。光は電波やX線などと同じ電磁波の一種。光より波長が長いのが赤外線や電波、短いのが紫外線やX線。光の波長は約380~780ナノメートルで、波長により色が変化する
電磁波の波長と分類。光は電波やX線などと同じ電磁波の一種。光より波長が長いのが赤外線や電波、短いのが紫外線やX線。光の波長は約380~780ナノメートルで、波長により色が変化する
画像のクリックで拡大表示

光線には色がついていない

 三角柱の形をした透明なガラスでできたプリズムを使って太陽の光を屈折させると、虹のように色のついた光に分かれるのをご存じだろう。こうして光を色ごとに分けることを「分光」という。

 光には、波長が短いほど大きく屈折し、長いほどあまり屈折しないという特性がある。大きく屈折するほうから、青、青緑、緑、黄緑、黄、オレンジ、赤の順となる。雨上がりに虹を見ることがあるが、これは空気中に浮かんでいる水滴で光が屈折し分光したもので、プリズムと同じ色の順番に並んでいることがわかる。

 ところで、私たちは空気の振動を音として感じ、その振動の速さ(周波数)のわずかな違いを微妙な音程の違いとして感じとることができる。しかし、空気は単に振動しているだけであって、空気の振動そのものに音があるわけではないし、音程があるわけでもない。空気の振動を音と感じ、周波数の違いを音程の違いと感じることができるのは、その仕組みが人の耳と脳にあるからなのだ。

 音と同じように、私たちはある波長の電磁波を光として感じ、その波長のわずかな違いを微妙な色の違いとして感じとることができるのである。しかし、光は電波と同じ電磁波であって、光そのものに色がついているわけではない。光が見え、光の波長の違いを色の違いと感じることができるのは、その仕組みが目と脳にあるからなのだ。

 光と色の研究の先駆者であるニュートンは、次の有名な言葉を残している。

 「光線には色がついていない」

プリズムの分光。色は大きく屈折するほうから、青、青緑、緑、黄緑、黄、オレンジ、赤の順になる(写真:shutterstock)
プリズムの分光。色は大きく屈折するほうから、青、青緑、緑、黄緑、黄、オレンジ、赤の順になる(写真:shutterstock)
画像のクリックで拡大表示

動物が生き残るために目は進化した

 目(眼)があることがわかる最も古い動物の化石は三葉虫だ。三葉虫は現在の昆虫と同じ“複眼構造”の目を持っていた。カンブリア紀といわれる今から約5億年前のもので、大陸棚の浅瀬では、このころから動物を食べる動物が現れた。高度な目があると動く動物を捕らえるのに有利である。また、食べられるほうの動物も、目があると、捕食動物を見つけて逃げることができる。

 動物を食べる動物が出現したことによって、目は急速に発達していった。そして、目の発達が、この時代に起きた「カンブリア爆発」と呼ばれる動物の多様な進化の引き金になったと考えられている。

 形を知覚していた目に、その後、色覚が備わってくる。形だけでなく色を知覚するということは、目の構造を複雑にするとともに脳の情報処理能力を高める必要がある。そこまでして色を識別できるようにしているのは、その動物にとってそれだけのメリットがあるためだ。敵をいち早く発見し、餌(えさ)になるものを見逃さないためには、色の情報があれば有利に働くだろう。動物が色覚を発達させているのは、このためだといわれている。

思わず誰かに話したくなる色の正体!

仕事やスポーツのパフォーマンスを変え、ダイエット効果にも影響。「映え」だって見せ方次第。なぜ色が見えるのかから、色が人の心理に与える影響、動植物たちが生き残るために進化させてきた目と脳の秘密まで、最新科学をもとに説き明かす色の不思議な世界。

入倉 隆著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)