いつも明るい笑顔でライブやパフォーマンスを引っ張り、そしてバラエティーや女優としても活躍する日向坂46の二期生、渡邉美穂さん。6月28日に卒業セレモニーを開催し、最新シングル『僕なんか』の活動をもってグループを卒業します。そんな彼女が、約5年間にわたるアイドル活動を振り返った書籍 『私が私であるために』 を刊行しました。

注目ポイントや、読者にどう受け止めてもらえたらうれしいか、そして日頃の本との付き合い方を語った、渡邉美穂さんのロングインタビューを2回にわたってお届けします。第2回は『私が私であるために』を刊行するにあたって悩んだことや、これから本とどう付き合っていきたいかを伺いました。

どの世界でも1番大切なのは人間関係

 『私が私であるために』は本当にこれまでで1番素直に文章をつづっているので、明るい言葉だけではないところもあります。過去のことを時系列でまとめてみると、「実はこのとき結構つらかった」ということが予想以上に多かったです(苦笑)。私をずっと見てくださっていたおひさまの方は、「そうだったんだ」という驚きもあるかもしれません。あのとき、何か変わったなと思っていたけど、こういうことがあったんだ、というような答え合わせをしていただくような面白さもあると思います。

 この5年間はこの本に書いてあることが事実で、それをなかったことにはしたくないから素直に文章にしたので、それをどう受け止めていただけるのかは、正直分かりません。でも、私の気持ちとしては、1人のアイドルが過ごした5年間に起こった出来事や、私がどう思って、何を頑張ってきたかを1人でも多くの方に知っていただけたらうれしいです。

 もしかして、バラエティーで私のことをたまに見掛ける明るいアイドルだなと思ってくださっている方からしたら、ギャップを感じるのかもしれません。でも、そうした方にもアイドルも同じ人間なんだなとか、何よりアイドルって面白いなと思ってもらいたいです。それは、ただかわいくて、歌って踊るだけの存在ではなくて、こういうことを考えているんだとか、舞台裏ではこんな努力をしているんだなとか、そうしたことをこの書籍からくみ取ってもらえるのが、1番です。

 それに、読んでくださった方にとって、自分の目指していることがなかなかうまくいかないときの支えになったとしたら、ものすごくうれしいです。私は22歳にしては様々な経験をさせてもらっていると思うので。読者の方とまったく同じ状況というのはないかもしれないけれど、何かつらさや壁を乗り越えるという点では、参考になることがあったらいいなと思います。

 卒業を控えた今はとても穏やかな気持ちなので、結論として、「いろいろあっても大丈夫。こんな私でもちゃんと成長できた」と思うし、「自分はいろいろあったうえでの今の自分なんだ」ということをお伝えしたいです。

 活動中には3歳上の姉にいろいろ相談に乗ってもらいましたし、姉から仕事の悩みを聞くこともありました。それで思ったのは、組織で何かを成し遂げようとしたら、どの世界でも悩むけど、一方でプラスの後押しになるのは結局、「人間関係なんだ」ということです。それを肌で感じて経験できたというのは、本当に大切な5年間だったと思います。一見、自分とは合わないかもしれないと感じる人とも、正面から自分はこう考えていると話をして、一緒にいいものを作り上げていく大切さをこの5年間で学びました。

「この書籍から、アイドルはこういうことを考えていたり、こんな努力をしているんだなとくみ取ってもらえたらうれしいです」
「この書籍から、アイドルはこういうことを考えていたり、こんな努力をしているんだなとくみ取ってもらえたらうれしいです」
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客観的に物事を捉えられるようになりたい

 書籍のタイトル『私が私であるために』は秋元康総合プロデューサーがいくつか候補を考えてくださって、そこから選ばせていただきました。候補を絞っていくなかで、私はやっぱり「強さ」や「意志がしっかりある」タイプの人間に見られているんだなと。自分ではまったくそうは思っていないんですが、確かに信念を貫きたいタイプなのかなとか、熱い女だなという自覚はあります。ただ、それがいい方向に行くときもあれば、そうでないときもあるんですけど、そういうこだわりは失いたくないなと思っています。

 女性として「しっかりしている」と言われるのは、何か気が強そうみたいで複雑な気持ちになることもありますが、でも「弱そうだね」は嫌ですし。うれしいのは「しんの強い人間」だと思ってもらえることです。ちゃんと自分を持った人間になりたいので。

 そして、そうした強い部分を持ちつつ、やっぱり人の意見にちゃんと耳を傾けて、客観的に物事を捉えられる人間を目指しています。自分はこう思うから絶対こうするとはならずに、この人はこう考えるんだなということをちゃんと否定せずに受け入れられるようになりたいです。そう思えるようになってきたのは、やっぱり5年間の活動のおかげです。周りのメンバーと意見が違ったときに、「え、それは違うよ?」ではなくて、「なるほど、そう考えたんだ」と自然と思えるようになりました。

 秋元総合プロデューサーからは、「渡邉美穂の魅力は、その意志の強さにある。毅然とした表情は、いつだって美しい」という帯文をいただきました。私は、やっぱり真面目なところがありますし、いろいろ考え込んでしまったり、どうしても「まあ、いいか」とは受け流せずに正解を見つけたくなってしまう性格です。でも、もっと楽しく生きたいなと思うこともあって、たぶんそのバランスを取るために、すごく明るく、いっぱいおしゃべりする性格も生まれてきたのかな。だからそれらの感情を行き来することで無意識にバランスを取っているのかもしれません。だから、いろいろと考えての結果の表情のときもあるんですが、それを魅力と書いていただけたのは、純粋にうれしかったです。

「自分は熱い女だなという自覚はあります(笑)」
「自分は熱い女だなという自覚はあります(笑)」
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わたしの一番好きな本

 『私が私であるために』の「お気に入りエンタテインメントについて」のパートでは、私の本との付き合い方をお伝えしています。

 中高生の頃は本当によく本を読んでいて、しかも1度読んだらそれを何周もするタイプです。1番好きな本は重松清さんの『十字架』。これは何周もしています。

 読んだきっかけは、親が重松さんの本が好きで集めていたから。たまたま自宅にあったこの本を、中学生のときに学校の朝読書の時間用に持っていったら面白くて。でも、中学生のときは途中で読むのをやめてしまったんです。中学時代を描写したシーンは自分とも重ね合わせられるんですけど、それ以降の大人になってからのシーンが当時の私には理解できなくて。それで、高校生になってから改めて最後までしっかり読みました。

 主人公の男の子とヒロインの女の子がいて、幼なじみが自殺してしまい、遺書を残すんです。その遺書に名前があった2人と、その同級生や周りの家族たちの人生を描いている。決して明るい内容ではないですし、死をもって生を感じると言ったらちょっと哲学的かもしれませんが、こういう物語を読むことで自分が生きているんだなと実感したいのかもしれません。また、『日経エンタテインメント!』さんの連載では辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』を紹介しています。

 これらフィクションの作品だけではなく、自伝エッセイで心に残っているのは、もちぎさんの『あたいと他の愛』。Twitterのフォロワーが58万人以上いらっしゃるLGBTQの方で、いつもはTwitterで自分のことを奥歯みたいなイラストで擬人化して、コミックなどを面白おかしく上げています。でも、書店で目にしたこのエッセーは表紙や帯に書いてある言葉の端々にちょっと陰の部分を感じました。もしかしたらこの方は、普段は明るくおかしく振る舞っているけれど、それはいろいろな過去があったからこそなのかもしれないと感じて、すごく引かれて手に取りました。読んでみると、自分にどういう出来事が起きたかや、家庭環境、友達との関係などがつづられていて、意外性がすごくありました。

 今回、自分でアイドルとしての5年間を『私が私であるために』としてまとめさせていただくと決まって、少し悩んだことがあります。それは、私は明るく見られがちだけど、この本ではそれだけではない素の部分もつづってるので、もしかしたら私がもちぎさんのエッセーを最初に目にしたときのように、ギャップを感じる読者もいらっしゃるかもしれないということです。

前向きな気持ちになってもらえたら

 素を出すということはすごく勇気がいるし、それによって嫌われてしまうのではという不安もあったんです。でも、それを上回ったのが、そうした葛藤も含めて文章にすることで、1人でも救われる、というと大げさですが、前向きな気持ちになってもらえる方がいらっしゃるかもしれないという可能性です。

 私がもちぎさんのエッセーを読んで、ああ、この方はこういう経験があったからこそ、今はこういう前向きな考え方をするようになったんだ、と感銘を受けたのと同じように、渡邉美穂はこの出来事についてこう考えて、だから今はこう表現するようになったんだ、と思ってもらえたらうれしいです。

 自分はそんなにできた人間ではないですけど、こうなるべき、こう考えるべきということを押し付けるのではなくて、私の5年間の経験や学んだことが少しでもみなさんの参考になったり、役に立てばと思います。

 自叙伝的な本は、人の人生をのぞいた感じになるので、ならではの面白さがありますよね。あ、こういう人生もあるんだなとか、この人の考え方はすてきだなとか、発見があるので、これからも読んでいきたいです。

 『私が私であるために』が書籍という形になって、頭のページから読んでいくと、5年前はまだ全然最近の感覚で、その当時の感情を思い出すんです。ああ、あのときはこう感じていたなとか、もちろん楽しかったこともたくさんあるんですが、それだけではないので、やっぱり感情が揺さぶられます。

 5年後に改めて自分の書籍を読んだらどんな気持ちになりそうかですか? まだ想像がつきませんが、「あのときはこんなことが大きなハードルだと思っていたけど、今思えば全然大したことなかったね」と笑い飛ばせるぐらいに、人として成長できていたらいいですね。

「親から譲り受けた重松清さんの『十字架』です。何度も読み直しています」
「親から譲り受けた重松清さんの『十字架』です。何度も読み直しています」
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取材・文・構成/伊藤哲郎(日経エンタテインメント!編集部) 写真/佐賀章広