ネットの新しい動きとして、「Web3(Web3.0)」に大きな注目が集まっています。NFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自律組織)、暗号資産、スマートコントラクトといったキーワードが次々と登場し、それらに関するベストセラーも生まれています。ただ、この新しい潮流を捉えようとしても、Web3の概念自体が分かりにくく、どの本を読めばよいのかも悩ましいものです。そこで、 『アフターデジタル』 などの共著者であり、ネットの最新情報に詳しい尾原和啓さんにWeb3とは何か、今読んでおきたい本はどれかを聞きました。

「非中央集権型」であることが最大の特徴

 Web3といった社会を動かすような新たな技術が出てくるときには、文脈、つまりそれが開発された背景が必ずあります。その技術は何を求めた結果として生み出されたのかというビジョンを理解することが、とても大事です。

 Web3のビジョンにつながる重要な特徴は、「非中央集権型」であるということです。

 SNSに代表されるようなWeb2.0によって、個人がインターネットを使って情報を自由に発信し、影響力を持てる時代が到来しました。その一方で、ツイッター、ユーチューブ、インスタグラム、フェイスブックなどのSNS、検索サービスなどのプラットフォームを運営するGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)と呼ばれる巨大企業が誕生。これらの巨大企業に個人や企業が発する情報が集約され、巨大な力を持つ中央集権型の社会が生まれました。

 チェーン展開する飲食店が評価を下げられたと大手グルメサイトを提訴した裁判では、グルメサイトに賠償命令が出て大きな話題を呼んだのは記憶に新しいところです。この件でも分かるように、利益を追求する組織である企業が情報を握れば、情報発信にその企業のルールのバイアスがかかるようなことも起こった。それが、Web2.0の世界なのです。

 Web3では、Web2.0時代の中央集権型の短所を解消し、非中央集権型の分散化社会をつくり出そうというのが大きなビジョンの1つです。しかし、中央集権型しか知らない僕らにとって、非中央集権型の社会は全く未知の世界。そこには大きな混乱が起こるはずです。

 ストレートにWeb3を知るための書籍を紹介するのも1つのやり方だとは思いますが、Web3はまだ黎明(れいめい)期。全体を俯瞰(ふかん)する良い本があまりないのが実情と言えます。

 そこで、Web3という新たな技術によってそれまでと全く違う社会が生まれ、社会として、また個人として新しい思考法が必要となったときに、どう本を選べばいいのか。どのように本を読んでいけば自分の思考の質を高められるか。この連載では、そんな観点で選んだ本を紹介していきたいと思っています。

「その技術が何を求めた結果として生み出されたのか、ビジョンを理解することが必要」(写真=千川修)
「その技術が何を求めた結果として生み出されたのか、ビジョンを理解することが必要」(写真=千川修)
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現時点の技術の解説は読まなくてもいい

 Web3を理解するために最初に紹介したい本は、 『ブロックチェーン・レボリューション――ビットコインを⽀える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか』 (ダイヤモンド社)です。

ドン・タプスコット、アレックス・タプスコット著、高橋璃子訳『ブロックチェーン・レボリューション』。ブロックチェーンの影響を解説している
ドン・タプスコット、アレックス・タプスコット著、高橋璃子訳『ブロックチェーン・レボリューション』。ブロックチェーンの影響を解説している
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 ブロックチェーンは、Web3の重要な基盤技術です。Web3とは、言ってみればブロックチェーンを用いてあらゆるところで行われる社会変革の総称なのです。

 ブロックチェーンが世の中に認知されるきっかけとなったのは、ビットコインをはじめとする暗号通貨でしょう。今はブロックチェーンのプラットフォームとしてイーサリアムが広く知られるようになっていますが、これらを支える基礎の部分では、非常に膨大な計算処理が必要です。エネルギー効率の悪さなどが指摘されているし、開発言語が複雑で発展しきっていないという側面もあります。

 こうしたWeb3のような発展途上の技術については「現在」ばかり見ていても、本質を見失ってしまいます。「どんな未来を目指し、その新たな技術によってどのような問題が解決されようとしているのか」という、行く末を見定めることこそが大事です。

 技術が生み出す未来を読み解くときにも、中途半端に技術が具現化しようとしている段階で書かれた書物は、読まなくてもいいかもしれません。なぜなら、その時点での技術的な制約によって、目指すべき理想の姿が歪(ゆが)んでいたり、妥協によって矮小(わいしょう)化されている可能性があるからです。

 むしろ何も制約が見えない原初の段階で描かれた、その技術が世の中をどう変えるかというビジョンを読み解くほうが、技術の全体像と、その後世の中がどの方向へ進むのかをつかめます。

中核技術、ブロックチェーンの可能性を知る

 Web3に関して言えば、今後、どのように発展していくかはまだまだ分かりません。だから今は、根本的な思想を知ることが大事なのです。「情報の保存と蓄積、流通」を担っていたのがWeb2.0までの世界だとしたら、Web3では、「価値の保存と蓄積、流通」が起こります。まずこれを理解しておきましょう。

 デジタル化は情報の流通に革命を起こしましたが、その一方でコピーが容易であることが「シェア」という文化を生みました。結果的により多くの人が情報に触れるようになりましたが、著作権者に利益が還元されない違法コピーなどの問題も生んでいます。

 ブロックチェーンはそうした情報の流通における問題点を解決し、価値そのものをネット上で流通させることができる技術です。『ブロックチェーン・レボリューション』は、この技術によって、社会にどういう変化をもたらす「可能性」が生まれたのかを網羅しています。

 ブロックチェーン技術によって価値の移動ができるようになることの意味や影響、さらに社会変革としてどういうことが起こり、どういうものが生まれるのかといったことが、バランスよく述べられているのが本書の特徴。中央集権型の社会から、非中央集権型の分散型社会に移行する、Web3における根本的な部分の理想やその理想型を理解するのに最適な1冊と言えるでしょう。

 ただ、本書の問題は、内容的に非常に難しいことです。本書を読む前に、著者であるドン・タプスコットがTEDで行った講演 「ブロックチェーンはいかにお金と経済を変えるか」 を収録した動画を見ておくといいかもしれません。約18分という長さですが、『ブロックチェーン・レボリューション』に書かれている内容のうち、重要な部分だけが簡潔にまとめられていて、とても分かりやすいです。

 また、これは余談になりますが、ブロックチェーンという技術が生まれた背景を理解したいなら、ウィキリークスを作ったジュリアン・アサンジらが書いた 『サイファーパンク――インターネットの自由と未来』 (青土社)もお薦めです。

 情報が巨大企業や政府によって握られる中央集権型の管理社会のなかで、ネットの自由をどう死守するのかという議論がまとめられています。

取材・文/稲垣宗彦