2022年5月、本の街である東京・神保町で、40年にわたって愛され続けた三省堂書店本店がいったん閉店した。「いったん」というのは3年後に同じ場所で、営業を再開するから。その本店リニューアルチームのリーダー補佐を務めているのが、営業推進部次長、店売推進担当の岡田健太郎さん。新しい店舗のイメージづくりを進めている岡田さんがお薦めするのは、『世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術』(水野学、山口周著/朝日新聞出版)だ。

ビジネスとクリエイティブをつなげる本

三省堂書店本店リニューアルチームのリーダー補佐を務めている、営業推進部次長の岡田健太郎さん
三省堂書店本店リニューアルチームのリーダー補佐を務めている、営業推進部次長の岡田健太郎さん
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 「営業再開までの間は、本店から徒歩数分のところに構えた仮店舗で営業中です。仮店舗といってもフロアは地下1階から6階まであり、お客様から公募した短歌を展示するなど、オリジナルフェアも随時開催しております」というのは、三省堂書店・営業推進部次長、店売推進担当の岡田健太郎さん。

 岡田さんは、3年後に営業を再開する本店のリニューアルチームのリーダー補佐も務めている。昨今、書店の在り方が変わってカフェやワークスペースが併設されるなど、ユニークな店舗が増えているだけに、三省堂本店がどう生まれ変わるのか、早くも期待している人は多いだろう。そうした期待に応えるべく、岡田さんが手に取ったのがビジネスとクリエイティブをつなげる1冊『世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術』(水野学、山口周著/朝日新聞出版)だ。

三省堂書店本店は、現在、本店から徒歩数分のところに構えた仮店舗で営業中
三省堂書店本店は、現在、本店から徒歩数分のところに構えた仮店舗で営業中
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 水野学さんはクリエイティブディレクターで、相鉄グループの車両や駅舎、制服などの全体的なディレクションをはじめ、熊本県「くまモン」やJR東日本「JRE POINT」、NTTドコモ「iD」などを手掛け、国内外での受賞歴も多い。山口周さんは著述家で、電通、ボストン コンサルティング グループなどで企業戦略策定や組織開発に携わった後に独立し、現在、複数の企業の社外取締役やアドバイザーも務めている。その2人がビジネス、企業、経営、デザイン、アートなど、多岐にわたって語り合い、対談形式でまとめられたのが本書だ。

『世界観をつくる』。世界観とは、物語と未来を提示する力。ビジネスアイデアやコンセプトづくりに役立つ良書
『世界観をつくる』。世界観とは、物語と未来を提示する力。ビジネスアイデアやコンセプトづくりに役立つ良書
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 「どの業種でも、新しい商品やサービスのコンセプトづくりに、自社ブランドの再解釈と再構築は欠かせないと思います。私たちもそこから着手していて、自社の存在価値と照らし合わせながら、何ができるのかを考えています。そうした作業のなかで、思考レベルを一段上げて、新しい世界観をつくる、という意識の必要性を感じました。それで、2020年3月の発売当初に読んだこの本を思い出して、読み返したんです」

世界観を残しつつ、新しい価値を提供

 本書で、「世界観」とは、物語と未来を提示する力と定義されていて、ポイントとして「意味をつくり、価値を転換させる」「物語をつくり、シーンを演出する」「文脈をつくり、情報表現を適正化する」という3つが挙げられている。「発売から2年以上たってもまったく色あせない内容で、ビジネスアイデアやコンセプトづくりに役立つ良書であることを再確認しました」と岡田さん。山口周さんの言葉で、特に印象に残っているフレーズがあるという。

 「『企業が社会に対して何か価値を提供できれば、その価値への対価がもらえる、というのがビジネス。もし、ビジネスがうまくいっていないとしたら、それは社会に対して価値を提供できなくなっている、ということだよね』という言葉がグサリと刺さりました。ビジネスの本質とも言え、言われてみれば至極当然のことですが、お客様のほうを見ていないと気づきにくいことだと痛感しました。内向きで、自社のことばかりを考えていたら気づきにくいことだな、と。このご時世で、ついつい目先の利益やコスト削減に目が行きがちですが、中長期的に利益を上げるには外に目を向けて行かなくちゃいけない、という気づきを得られました」

「もし、ビジネスがうまくいっていないとしたら、それは社会に対して価値を提供できなくなっている、ということ」。山口周さんの言葉がグサリと刺さりました
「もし、ビジネスがうまくいっていないとしたら、それは社会に対して価値を提供できなくなっている、ということ」。山口周さんの言葉がグサリと刺さりました
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 この岡田さんの気づきに、今ハッして、確かにその通りだとうなずいている人も多いだろう。岡田さんは、この気づきを本店のリニューアルチーム内で共有し、意識の統一を図った。「おかげで、これまでの三省堂の世界観を継承しつつ、新しい価値の提供もしていくんだ、という意識の統一ができ、チーム内の“幹”が一本できたことを実感します」と言う。

 あらゆる商品やサービスがコモディティー化(均質化、規格化、低価格化)する現代で、何も行動を起こさないことへの問題意識を抱えつつ、何から手をつけていいかが分からない人も多いだろう。そんな迷いにも、本書は具体例とともに解決のヒントを示してくれるようだ。

 「自社ブランドの世界観を維持しながら新しい価値を提供している企業は、『〇〇をする、〇〇をつくる』ことと同時に、『〇〇をしない、〇〇をつくらない』ということも設定し、それを順守している点が共通する」と岡田さん。足し算だけではなく引き算の発想も、ビジネスには必要ということかもしれない。

取材・文/茅島奈緒深 写真/尾関祐治