2022年8月に逝去した京セラ創業者の稲盛和夫氏。「どうすれば会社経営がうまくいくのか」という経営の原理原則をまとめた「経営12カ条」を自身の言葉で解説する書籍の発行準備を進めていた。同書の内容を基に、稲盛経営の集大成ともいうべき12の経営の原理原則を一つずつ紹介していく。今回は第2条「具体的な目標を立てる」。

(写真:PIXTA)
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 思い返せば私自身、京セラをファインセラミックスの部品メーカーとして創業したものの、いまだ零細企業で先行きなどまったく見通せなかったころから、ビジョンや目標を高く掲げ、夢を語り続けてきました。

 「われわれのファインセラミックスは日本、いや世界のエレクトロニクス産業が大きく発展していくために不可欠なものになるだろう。われわれの製品を世界中に供給していこうではないか。

 いまはちっぽけな町工場でしかないが、この会社をまずは町内一番、つまり原町で一番の会社にしよう。原町一になったら中京区一を目指そう。中京区一になったら京都一を目指そう。京都一になったら日本一を目指そう。日本一になったら世界一を目指そう」

 まだ間借りの社屋で、従業員はわずか数十人、売上も年間1億円に満たない零細企業のときから私は、「日本一、世界一の企業になっていこう!」と気宇壮大(きうそうだい)なビジョンをことあるごとに従業員たちに話していたのです。

 しかし、実際には、最寄りの市電の駅から京セラに来るまでのわずかな距離に、京都機械工具というスパナやレンチなどの車載工具のメーカーがありました。自動車産業の勃興に呼応して当時は活況を呈していた会社です。

 それに対して京セラは、木造の倉庫を借りて何とか操業を始めたという、できたばかりの零細企業です。ですから「町内で一番になろう」と言っても、従業員たちは「会社に来るまでに前を通る、あの機械工具の会社より大きくなるはずがない」という顔をして聞いていました。

倦まず弛まず従業員に説き続ける

 かく言う私自身も、言い出した当初は、本当に原町一の会社になれるとは思っていませんでした。

 ましてや、中京区で一番になろうと言ってはみたものの、中京区には一部上場企業で、のちにノーベル賞受賞者を出した、技術力の高さで世界的に評価が高い島津製作所があります。中京区一になるには、その島津製作所を抜かなければなりません。それはもう、とても不可能だと思えるような話でした。

 さらには、セラミックスの業界を見渡しても、当時から、日本ガイシや日本特殊陶業という際だった企業が存在していました。その技術や歴史、実績のみならず、ヒト・モノ・カネすべての経営資源において圧倒的な差があり、京セラから見れば巨人のようにそびえ立つ存在でした。

 それでも私は、「京都一になるんだ、日本一になるんだ、世界一になるんだ」ということを、倦(う)まず弛(たゆ)まず従業員に説き続けていったのです。

『経営12カ条 経営者として貫くべきこと』(稲盛和夫著、日経BP 日経新聞出版)
『経営12カ条 経営者として貫くべきこと』(稲盛和夫著、日経BP 日経新聞出版)

 すると、はじめは半信半疑だった従業員も、いつしか私の掲げた夢を信じるようになり、その実現に向けて力を合わせ、努力を重ねてくれるようになっていきました。

 また、私自身も、そのことを確かな目標とするようになっていきました。粉まみれの日常を送りながらも、「まずは原町一になり、やがては世界一にまでなっていくのだ」という壮大なビジョンを心に抱き、誰にも負けない努力と絶え間ない創意工夫を重ねながら、仕事をひとつ、またひとつと懸命にこなしていきました。

 結果、京セラは、ファインセラミックスの分野では世界一と言われる企業にまでなりました。そして、ファインセラミック技術を核に多角化を果たし、いまでは売上が1兆数千億円規模の企業にまで成長したのです。と同時に京セラは、その半世紀以上にわたる歴史において一度の赤字決算もなく、利益率もほとんど10%以上を維持してきました。

 このような京セラの弛まぬ成長発展の歩みの原点には、ビジョンがあるのです。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)

夢あふれる具体的な目標で従業員の力を結集する

 ビジョン、つまり会社の目標は、夢あふれるものでなければなりません。と同時に、それを実現していくための計画を具体的に立てていかなければなりません。

 たとえば、自分の会社の年間売上が10億円だったとしましょう。それを「来年は12億円にしたい」というふうに具体的な数字で目標を明確に描くことが必要です。それも単に売上額だけではなく、利益額まで含めた具体的な目標を立てていかなければなりません。

 大切なことは、それが、「空間的、時間的にも明確なものでなければならない」ということです。会社全体の漠とした数字ではなく、組織ごとにブレークダウンして分解された目標にする。現場の最小単位組織に至るまで明確な目標数字があり、さらにはひとりひとりの社員までもが明確な指針の下、具体的な目標を持たなければなりません。

 また、1年間を通した通期の目標だけでなく、「月次の目標」としても明確に設定することが必要です。月々の目標が明確になれば、日々の目標も自ずと見えてきます。従業員ひとりひとりが日々、自分の役割を明確に理解し、それを果たせるような目標を設定しなければならないのです。

 それぞれの従業員が着実に役割を果たし、それぞれの組織としても目標を達成していくことで、全社の目標も達成されます。また、日々の目標を達成してこそ、その積み重ねである月間や年間の経営目標の達成ももたらされます。

 それは、目標が明確であることによって、従業員の総力を結集することが可能となるからです。目標が明確でなく、会社がどの方向に向かうのかを経営者が指し示せなければ、従業員はそれぞれ勝手な方向に向かい、持てる力が分散されてしまいます。これでは、組織としての力を発揮することはできません。

(写真:PIXTA)
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次回は第3条「強烈な願望を心に抱く」

日経ビジネス電子版 2022年9月14日付の記事を転載]

「これさえ守れば、会社や事業は必ずうまくいく」──。実践のなかから生み出された経営の要諦である稲盛和夫氏の「経営12カ条」。その真髄をあますところなく語った書籍がついに刊行。『稲盛和夫の実学』『アメーバ経営』に続く「稲盛経営3部作」、ここに完結。

稲盛和夫(著)、日本経済新聞出版、1870円(税込み)