敬語は、「上下関係」で捉えるのではなく、「内側」と「外側」という相手との距離感で考えましょう。マナーを考えるとき「上座・下座」という言葉があるように、敬語も、どちらが上、どちらが下、という考え方が定番です。でも、「どっちがエラい?」と考え始めたら、言葉がぐちゃぐちゃになってしまいます。 『がんばらない敬語 相手をイラッとさせない話し方のコツ』 (宮本ゆみ子著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けします。

「内側」と「外側」をイメージする

 「内側」と「外側」は、たとえばこんなイメージです。

●「私」と「あなた」なら私(自分)が「内側」、あなたが「外側」
●自分の家族は「内側」
●初対面の人は「外側」

というのは簡単に理解していただけると思います。

 たとえば、同じ会社の人どうしの場合は

●同期と先輩がいたら、同期は基本的に「内側」、先輩は「外側」
●上司は「外側」
●お客様や取引先など、社外の人は「外側」
●同じ会社の人は「内側」
●つまり、上司や先輩は、社内の人間関係では「外側」だけれど、お客様や取引先など社外の人に対しては「内側」
●上司や先輩のご家族に対して、上司や先輩は「外側」

というように、社内の人間関係の中で考えるのと、社外の人間関係の中で考えるのとでは、「上司」が同一人物であったとしても「外側」の扱いにするのか「内側」の扱いにするのかが異なってきます。難しそうに感じるかもしれませんが、実際の場面に当てはめて考えるとそれほど複雑ではありません。

 社内では、◯◯部長に対して「相手を立てる敬語」を使いますが、お客様や取引先など社外の人に対して◯◯部長のことを話すときには「へりくだる敬語」を使います。自分の上司だからといって、間違っても社外の人に対して◯◯部長を「立てる敬語」を使ってはいけません。

 ただ、社外の人であっても◯◯部長のご家族に対してだけは、部長を「立てる敬語」を使いましょう。あなた=「部長のご家族」にとって大切な◯◯部長のことを、私も敬意を表して丁重に接しています、という表現にするためです。

 「内側の関係」というのは、たとえていうなら、普段着のまま会っても抵抗がない関係です。内側の人間関係どうしで話をするときには、特に敬語表現は必要なく、カジュアルな会話でも問題ないでしょう。

 「外側の関係」というのは、失礼のないようにきちんと身なりを整える必要がある関係です。「あらたまった関係」と言い換えてもいいでしょう。「外側の関係」の人に対しては、常にきちんとした言葉遣いが必要です。もちろん敬語も必要です。だから、外側の人に対して内側の人の行為や状態を表現するときには、外側を立てるか、内側がへりくだるかが必要になってくるのです。

 そして「内側」と「外側」は、常に相対的なものとして変動していきます。同じ会社の人は、社外の人に対しては「内側」だけれど、同じ社内の人間関係の中では、同僚や同期といった「より内側の関係」に対して、上司や先輩は相対的に「外側の人」となります。

 だから、社外の人との会話の中で上司のことを話すときには内側扱いにして、同じ社内の人どうしで会話をするときには、上司を外側扱いにして敬語を使うのです。

イラスト/いなばゆみ
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「外側」「内側」は「ハレ」と「ケ」に近い

 「外側の関係」と「内側の関係」は、日本の文化を語る際によく使われる「ハレ」と「ケ」の概念に近いかもしれません。

 お祭りや、特別な行事などを行う日を「ハレ」の日と呼んで、普段通りの日常を「ケ」の日と呼ぶ。そんなふうに、日本人は非日常と日常を使い分けてきました。

 「内側の関係」は「ケ」にあたるので、普段遣いのカジュアルさがあります。
 「外側の関係」は「ハレ」にあたり、特別なよそゆき感があります。

 たとえば、親子で普段は特に敬語も使わず、カジュアルな言葉で会話をしているとしても、子どもから親に結婚の報告をするときなどはきちんとした敬語を使って話すものではないでしょうか。つまり「内側の関係」であっても、あらたまったときには「外側の関係」と同じように敬語を使う場面もあります。

 また、お互いに立場が変わらなくても、親しくなって心理的な距離が近く感じられるようになると、あらたまった場以外では敬語よりも普段づかいの言葉のほうがしっくりくることもあります。オフィシャルには「外側の関係」でありながら「ケ」の空気感も生まれる、というのも自然な変化です。

 このように「内側」と「外側」については状況によって変化することも頭の片隅に置きつつ、基本的な法則をしっかりと理解しておきましょう。どんな場合が「内側の関係」でどれが「外側の関係」なのか。それが理解できてしまえば、敬語は本当にラクになります

子どもから親に話すときでも、あらたまった場面では敬語を使うことが多い(写真/shutterstock)
子どもから親に話すときでも、あらたまった場面では敬語を使うことが多い(写真/shutterstock)
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「ございます」と「いらっしゃいます」

 それでは、お待たせしました。より具体的な使い方を練習していきましょう。
 まずはこの表現になじんでください。

●自分や身内に対しては「ございます」
●その外側にいる人に対しては「いらっしゃいます」

 文法については、いまは深く考えなくても大丈夫です。「ございます」と「いらっしゃいます」、どちらを自分に対して使い、どちらを相手に対して使うのか。この時点では問答無用です。とにかく覚えてください。

 「自分や身内」に対して使う言葉と、「その外側にいる人」に対して使う言葉を、明確に使い分けることができれば、もうそれだけで十分に敬語の達人です。敬語らしき表現の単語をどれほどたくさん知っていても、この使い分けができていなければ話になりません。まずは軸となるこの使い分けを、しっかりと身につけましょう。

イラスト/いなばゆみ
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上下関係の敬語をやめてしまおう

大切なのは「上下関係」よりも「相手との距離感」。敬語を使わなくても相手を敬う表現はたくさんある。1万2000人にインタビュー、著名人の公式ライターとしても活躍する「話し言葉」と「書き言葉」のプロが教える自然でやさしい言葉遣い。

宮本ゆみ子著/日本経済新聞出版/1540円(税込み)