内容紹介

●半世紀ぶりの大インフレ、四半世紀ぶりの円安
 コロナ禍とウクライナ戦争を背景におよそ半世紀ぶりの大インフレが世界を襲った。低インフレにあえいできた日本も例外ではない。「輸入インフレ」の深刻度は米欧をしのぐ。資源高に根ざす物価高に拍車をかける円安が同時に広がったためだ。世界的なインフレの波のなかでも、日本は賃金デフレの流れが終わらず、日銀は金融引き締めに動けない。輸入インフレと、なお残る賃金デフレ。そのダブルパンチが通貨安を生み、さらなる物価高を生む悪循環になった。
 本書は、日本と海外に広く目を向け、市場をウオッチしてきたベテランの日経記者によるもの。ファクトを積み上げ、幅広い取材から総合的な視点で日本の今後を占う。

●ピンチはチャンスになるか
 苦境の日本にチャンスはあるか。モノの値段が上がるということは、停滞してきた日本経済を動かすことになる。よい値上げはモノやサービスの付加価値をあげることであり、脱炭素、デジタル時代においてのより一層のイノベーションが期待できる環境となる。例えば物価連動の賃金制度を取り入れるなどして、消費者の効用をあげるという策も必要だ。
 また、23年4月からの日銀新総裁の就任は、脱アベノミクスを掲げたものになる必要があるだろう。円安誘導で企業業績は向上したものの、賃金は下落し、格差は助長された。今後も資源インフレが予想されるなかでの円安は、もはや限界を迎えている。正常な金融政策を取り戻し、成長に向けて舵を切っていくことが求められる。

目次

第1章 日本の物価に何が起きたのか
1 「奇跡のスナック」 発売43年、初の値上げの意味
2 海外発の物価高の波 日本の到達した「Xデー」
3 世界の「コロナ禍インフレ」をもたらした8つの元凶
4 苦しい企業の台所事情 再値上げは来るのか

第2章 「インフレ」ゆえに「デフレ」が深まる不思議の国
1 海外発の物価上昇が「痛み」を生むメカニズム
2 所得の海外流出「19兆円」を巡るゼロサムゲーム
3 「値札を替えるな!」の常識は変わるか
4 ゼロインフレの「高い山」はどこまで崩れたか
5 黒田氏「値上げ許容度」発言、真の問題

第3章 「景気を思う」ゆえに「景気を冷やす」? 円安のジレンマ
1 「円安は経済にプラス」 日銀理論の堅持と揺らぎ
2 「急変動はマイナス」 円安巡る市場との攻防
3 緩和修正「2、3年先の話」 円買い介入呼ぶ
4 「ドルも独歩高続かず」 円安一服、勝利宣言
5 「利上げではない」? 異次元緩和「解体」の一歩

第4章 最終兵器「黒田日銀」の終幕 円相場はどこへ
1 「円高恐怖症」と狂乱物価 1970年代の古傷
2 「円高退治」の国論とバブル 1980年代の禍根
3 「円高・デフレ」の混沌の末に 黒田日銀の始動
4 「2年で2%」の約束の挫折 黒田日銀の漂流
5 円高の歴史は終わったか 横たわる日本経済のもろさ
6 外圧の歴史と「狂騒曲」 もう1つの円高収束論

第5章 パウエルFRBの正念場 名議長か黒歴史か
1 2023年末までゼロ金利? 出遅れ招いた深い事情
2 渾身の「低インフレ打破策」が裏目に 格差是正の呪縛
3 高圧経済論の敗北 高インフレ「一時的」の看板を撤回
4 後世の評価は「ボルカー2世」か「バーンズ2世」か
5 歴史的なドル高の行方 消えぬ「不況下の通貨高」の影

第6章 賃金は上がるか 「失われた30年」打開への道
1 30年上がらぬ賃金 日本型雇用システムの末路
2 「インフレ超えの賃上げ」へ政労使足並み 期待と不安
3 生産性は上昇しなくてよい? 「逆転の発想」がカギ
4 「交易条件の改善」こそ実質賃金上昇の第2の道

第7章 世界インフレ時代、「終わり」か「始まり」か
1 新たな「ニューノーマル」? 浮かぶ5つの構造要因
2 シナリオA インフレ復活 サマーズ氏の「大転向」
3 シナリオB 乏しい政策余地 消えぬスタグフレーションの影
4 シナリオC 低インフレへの回帰 頑固な低成長
5 長期停滞の「本尊」、日本を待ついくつもの岐路

第8章 「ピンチをチャンスに」6つの提言
提言① 日本のものづくり、「円高恐怖症」脱却を
提言② 輸出の主力「インバウンド」の価値高めよ
提言③ 失われた「賃上げメカニズム」の歯車を回せ
提言④ エネルギー、原発・「炭素価格」で王道を
提言⑤ データ処理の「地産地消」で所得流出防げ
提言⑥ 金融政策を簡素に 「植田新総裁」の使命