業績好調な良品計画。「無印良品」を展開する同社の最大の強みは、商品開発にある。一見したところ驚きのないデザインに見えても、実は考え抜かれている。だからこそ長く愛される。そんな優れた商品を生み続ける「無意識のオブザベーション」のコツを、新旧のヒット商品を事例に探る。新刊『 MUJI解剖 ヒットを生み続ける「問いの立て方」 』から抜粋して紹介する。(文中敬称略)

(左:「蓋をしたままレンジで使える 耐熱ガラス容器」/右:「壁掛式CDプレーヤー」=いずれも無印良品サイトから)
(左:「蓋をしたままレンジで使える 耐熱ガラス容器」/右:「壁掛式CDプレーヤー」=いずれも無印良品サイトから)

 「わけあって、安い。」「しゃけは全身しゃけなんだ」──無印良品の広告は、様々なキャッチコピーで知られる。

 無印良品は、常に商品の裏にあるストーリーを発信し、なぜこの商品が生まれたのかを伝えることで、顧客の共感を集めてきた。

 どのキャッチコピーもMUJIらしさを内包しているが、ここでは次の言葉を紹介したい。

 「しぜんとこうなりました」

「自然とこうなる」ものが心地いい

 このコピーが使われた広告の写真には、無印良品のベッドと椅子が並んでいる。

 ここで無印良品が伝えたいのは、背もたれの角度だ。いずれも垂直ではなく、わずかに傾き、その角度はベッドと椅子で全く同じ。

 しかし、それが意図していたわけではなく、人がもたれやすい角度を突きつめた結果、偶然に一致したということを伝えている。

 このエピソードは、無印良品のデザイン思想を端的に表している。

 無印良品はデザインを、驚きを求めるものとは考えない。モノに求められる役割を見つめ直し、最適な形を探究するプロセスがデザインだと捉えている。

 26年3月に発売した食材の保存容器「蓋をしたままレンジで使える 耐熱ガラス容器」が一例だ。

「蓋をしたままレンジで使える 耐熱ガラス容器」(無印良品サイトから)
「蓋をしたままレンジで使える 耐熱ガラス容器」(無印良品サイトから)

耐熱ガラス容器のフタをドーム型にした理由

 ガラス製の器に透明なプラスチック製のフタを載せている。ポイントはフタがドーム型であること。

 通常の保存容器に惣菜などを入れるときのことを思い出してほしい。山盛りに詰めた後、平らなフタをすると、野菜などの盛り上がった部分をフタが押しつぶす。だからテーブルに並べるときは容器から料理を出して、別の皿に盛り付け、見栄えを整える。

 しかし、フタがドーム型なら食材は押しつぶされない。だから、フタを外したガラス容器を、そのまま食卓に並べても見栄えがいい。保存容器がそのまま皿になる。

 その結果、盛り付けだけでなく、食器洗いの手間も減る。そして、食器を洗う回数が減れば環境への負荷も減る。

 同商品の開発担当者は「食材を保存するとはどういうことか。保存した先にどのような暮らしが待っているのか、広い視野で考えた」と語る。

「使っていないとき」のことを考える

 料理を保存するという行為の前後には、料理をつくったり食べたりする時間がある。

 ならば保存容器としてだけでなく、料理をつくる際の調理器具や食卓に並べる食器としても使える道具があれば、暮らしが楽になるかもしれない。

 アイデアのヒントとなったのは、デパ地下の総菜コーナーでの発見だ。量り売りの総菜が並ぶショーケースの中に、フタがドーム型に盛り上がった保存容器があったという。これを見た開発担当者は「きれいに盛った状態を保ち、そのまま食べることにニーズがあるのではないか」という仮説を持った。

 耐熱ガラス容器の事例が示すのは、モノに求められる役割を俯瞰して見直すことの重要性だ。その視点を持つには、使う人の体験を想像する必要がある。生活を長い時間軸で捉え、そのモノがどのように使われるのかを考える。そのことで、最適なデザインに自然と近づける。

 開発担当者は「無印良品は『商品を使っていないときのことも考える』ことを大切にしている」と語る。無印良品が体験として商品を捉えていることの証左だ。

オブザベーションは「無意識」に焦点を当てる

 無印良品には、開発担当者が社員の身内や知人などの家庭を訪問し、家の中を観察する「オブザベーション」という手法が取り入れられている。生活者の動きやモノの使われ方から、隠れた課題を探り当てる。

 自宅で、朝から晩まで自分が触れたモノやその使い方を書きとめ、自らの暮らしを省みる「セルフオブザベーション」をすることもある。

 これはIDEOが提唱した「デザイン思考」のアプローチに近い。

 デザイン思考は、主に製品・サービス開発における問題解決の手法だ。①利用者の行動を理解する、②問題点を定義する、③解決のアイデアを出す、④簡単な試作品を作る、⑤テスト・検証する──というプロセスを繰り返す。

 すでに方法論が確立されているので、オブザベーションやそれに似た手法は他社も実践している。イケアは家庭での行動観察調査を「ホームビジット(家庭訪問調査)」と呼んで取り入れている。

 しかし、手法自体は簡単に取り入れられても、成果に結びつけるのは難しい。

「思わずやってしまう」が、デザイン思考の秘訣

 良品計画のアドバイザリーボードのメンバーでもある、プロダクトデザイナーの深澤(直人)は、次のように語る。

 「例えば、傘立てがないところで傘を立てようとする時、床の溝に傘の先端を合わせることがあります。だとしたら無印は傘立てを考えるのではなく、ただ溝を一本引けばいいかもしれないというところから、生活を考えようとします。MUJIは、思わずやってしまうことからものを考えはじめ、常に日常の生活の中で何が適正かを考えています」

 「思わずやってしまう」ような、人間の無意識に焦点を当てることこそ、デザイン思考を成果に結びつける秘訣と言える。

 例えば深澤がデザインした「壁掛式CDプレーヤー」(2000年発売、現在は終売)は、CDプレーヤーから垂れ下がったひもを引くと、音楽が流れる。

2000年発売の「壁掛式CDプレーヤー」。再生専用で、電源コードを下に引いてオン・オフを操作(無印良品サイトから)
2000年発売の「壁掛式CDプレーヤー」。再生専用で、電源コードを下に引いてオン・オフを操作(無印良品サイトから)

 天井から伸びる照明のひもを、子どもが思わず引っ張りたくなるように、音楽を流したくなる。人間の無意識に焦点を当てながら、遊び心も感じるロングセラーだ。ニューヨーク近代美術館(Moma)の永久収蔵品に選ばれている。

[日経ビジネス電子版 2026年10月1日付の記事を転載]

売れるものにしようと頑張るほど、顧客が求めるものから離れてしまう──。無印良品は「何が売れるか?」から考えない。それでも売れる「これでいい」のつくり方。ヒットを生み続ける秘訣は「問いの立て方」。

梅國 典(著)/日経BP/2200円(税込み)