その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は田中利和さんの『 手の痛み、こわばり、変形を防ぐ! 新しい「手」のトリセツ 』です。
【はじめに】
私たちの一生を支える「手」 長く使い続けるために ときにはいたわろう

「手が痛いと、できないことが増えて、自信がすっかりなくなってしまいました」
──そうおっしゃる患者さんがいます。
私は手を専門的に診る手外科専門医で、日々診察室で多くの方々の手をじっくりと見せてもらっています。
手はその人の歴史そのものです。スポーツ、勉強、家事、育児、仕事、介護……その人それぞれの頑張りを支えてきた存在といえるでしょう。ボールを投げ続け真っ黒に日焼けした手、漢字や英語の書き取りをした手、丁寧に料理の下ごしらえをする手、子どもを抱っこし家族を支える手、キーボードやスマホの画面をたたき続ける手。
私たちの生活を当たり前のように下支えしてくれていますが、ひとたび手の病気でうまく使えなくなると、できないことが増え、それが大きなストレスとなり気持ちまで落ち込む方もいます。スマートフォンのおかげで生活は便利になりましたが、その操作もまた「手」が担っているため、手が痛むとその操作すらつらくなってしまうのです。
手は体の中では比較的小さなパーツですが、片手だけで27個の骨があり、多くの関節や筋肉、腱、神経、血管が凝集されています。それらが連動することで、小さな物をつまむ、握る、自在に操るといった細やかな動きを実現しています。逆に言えば、どれか一つでもトラブルを起こせば、手指全体の動きが悪くなり、目的を果たせなくなる──機械式時計やカメラといった精密機器に近い構造を持つのが手なのです。
私は時折患者さんに、「人は裏切ることもあるけれど、手は決して裏切らず、黙々とけなげにあなたを支えてきたのですよ」と話すことがあります。医師の言葉としては意外に思われることもありますが、それは、私たちが手を「当然のように思うままに動くもの」として、つい酷使してしまっているからです。
若いころならよいでしょう。しかし、加齢とともに、ほかの体の部位と同様、手にも不具合が生じやすくなります。特に40代以降の女性は女性ホルモンの減少によって「メノポハンド」と呼ばれる、手の痛みやこわばりを起こしやすい状態になります。
手の痛みや変形を起こす要因は、加齢、酷使、女性ホルモン減少の3つです。ただし、一部分の酷使や間違った使い方を続けなければ、ある程度は痛みや変形を抑えることができます。そのためにまず必要なのは、自分の「手の使い方」を振り返ることです。
そう話すと、「そんなに手を使っているつもりはありません」とおっしゃる方も少なくありません。演奏家や物づくりをする方には酷使のイメージがあっても、一般の方は、自分には当てはまらないと思うようです。しかし実際には、多くの方が知らないうちに手を酷使しています。
たとえば、指の第1関節が腫れて変形していく「へバーデン結節」という病気があります。ある患者さんは右利きにもかかわらず左手の人差し指の変形が進んでおり、「どうして左手が変形するのでしょう?」と不思議がっていました。治療で装具を着けてもらうと、その指を自然と意識するようになり、「普段、左手をこんなに使っているとは知りませんでした」と気づかれるようになったのです。こうして自分の手の使い方を振り返ることが、痛みや変形を防ぐ第一歩になります。
身近な例として、スマホの持ち方にも違いがあります。インテージが2023年に発表したデータによると、世界的には右手で持ち左手の親指で操作する人が多い一方、日本では左手で持ち右手で操作する人が多く、特に40~50代では左手持ちが70%を超えるといいます。
同じように手を使っていると思っても、実際は人によって大きく異なります。スマホは持ち方一つでも手を痛める要因になりますし、近年人気の大画面スマホは本体も大きく、手の小さな女性が片手だけで操作して親指を痛めるケースも目立ちます。それでも「画面が大きくて便利だから」と使い続け、手を酷使し続けてしまうのです。
家事などの日常動作も、力を入れ過ぎることで手を痛める要因になります。鍋の汚れをスポンジでゴシゴシこする、ぞうきんを絞って床を拭くといった動作では、手指に想像以上の力が入っています。その負荷が続くと関節が炎症を起こし、やがて軟骨が傷んで変形につながることもあります。食洗機やマイクロファイバー素材のぞうきんなど、家電やグッズを活用して手の負担を減らし、無理なく続けられる「手が疲れない」動作にしていくことが理想的です。
加齢に伴い、手は乾燥しやすくなり、指のすべりが悪くなることで、レジ袋が開けにくいといった不便も生じます。こうした場合、動作のたびに余計な力が入りやすくなるため、このような作業が多い方には薄手のニトリル手袋の着用をお勧めしています。
そして、使い方を振り返るだけでなく、ときには手を休ませてください。手芸や楽器演奏など、思う存分手を使いたい場面のために、普段の使用頻度を抑えておくことも大切です。
さらに、手になんらかの不具合を感じている方は、ぜひご自身の手を見てください。痛くなってからあらためて手を見ると、「こんなにも手も年齢を重ねていた」と実感するという言葉も耳にします。服や靴に覆われていない手。でも、目の前にあっても、じっくり見ていないことが多いのです。
そして、それぞれの手の痛みの原因となっている背景を本書で確認し、早めの対処をぜひしていただきたいと思います。そうすることで、痛みや変形、こわばりを防ぐことができます。本書は、そんな手のための「トリセツ」です。
セルフチェックの方法から、症状別の対処法や代表的な治療法、日常生活で手を守る工夫まで、この一冊で手のケアの基本がわかるようにまとめました。その内容には、私が信頼するハンドセラピストの指導や、日々セルフケアについて感想をくれる患者さんの声も参考にしています。
セルフケアで対処できない場合など、手で困ったときには、日本手外科学会のホームページに掲載されている、全国の手外科専門医に相談することをお勧めします。みなさん、手の中にある精巧なパーツを丁寧に識別し、診療に当たっています。手外科専門医の技術がどういったものかお知りになりたい場合は、漫画「テノゲカ」(全10巻完結)をぜひご覧ください。
触れたものの手ざわりや温度などを感じ取る触覚も、手は優れています。脳の中には体の各部位の感覚を担う領域がありますが、手の感覚が占める範囲は特に大きいことがわかっています。そのため、手は体から突出した脳の一部だともいわれます。誰かと握手をするとその人となりが伝わってくるように感じるのも、脳と手が密接に結びついているからかもしれません。握る強さや握り方──手から手へと伝わる情報も、決して侮れないものなのです。
正しく手のしくみを知り、少し手をかけるだけで、手の働きは守ることができます。今、ページをめくっている、あなたの大切な手そのものをいたわる方法を、ぜひ本書で見つけてください。
手外科専門医 田中利和
【目次】




