「ブルーカラービリオネア」という言葉も生まれ、注目を集める高収入ブルーカラー層。その実像を新刊『 ブルーカラー年収1000万円時代(日経プレミアシリーズ) 』から紹介するシリーズ。今回、取り上げるのは、タクシー運転手。稼ぎにくくなったトラック運転手(前回「年収1000万円の運送ドリーム、夢破れたトラック運転手はタクシーへ」参照)とは対照的に、インバウンドなどの追い風を受けて賃金の伸びが著しい。

(写真=福本 裕貴)
(写真=福本 裕貴)

 「現場職」とも呼ばれるブルーカラーの賃金は、全体に上昇傾向にあるが、その中でもタクシー運転手の賃金の伸びは突出する。厚労省によると、24年の所定内給与は20年比40%増えた。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ反動を含むが、自動車整備・修理従事者の14%増などを大きく上回る。

 25年の平均年収は450万8200円と、大型トラックの運転手に比べるとまだ見劣りするものの、前年比8.7%増えた。運賃改定で客単価が上がり、訪日客を含む移動需要で客足も回復した。タクシー運転手の給与は売り上げに応じた歩合給が中心なので、客数や客単価の上昇が収入に反映されやすい。

 配車アプリの普及も追い風だ。配車アプリから予約が入れば、空車のまま街を流して客を探す時間を減らせる。

 日本でもタクシーの自動運転の実験が始まり、タクシー運転手の賃金上昇傾向がどこまで続くかは分からない。しかし、現時点では稼げる職種であり、トラック運転手からの転身も目立つ。

 年収1000万円を超えるタクシー運転手もいる。

 三和交通(横浜市)グループで、タクシー運転手が記録した年収の最高額は1264万円。採用サイトで大きくアピールしている。この記録をたたき出したのは東京営業所で働く入社6年目の49歳の社員。

 23年度に年収1264万円を記録し、25年度まで3年連続で年収1200万円を超えた。

 そんなトップドライバーばかりでなく、三和交通のタクシー運転手の年収は全般に高めだ。全ドライバーの平均年収は533万円に上る。

 運転手の高収入を支えるのが、会社の配車網だ。顧客からの電話を受けた無線配車が多く、これにアプリ経由を加えると乗車全体の約70%を占める。要するに無駄な「流し」の時間が短い。予約件数は年間280万件超、タクシー1台当たり1日12件に上る。安定して乗客を確保する会社の仕組みが、運転手の売り上げを下支えする。

 三和交通には転職者も多く、ほぼ全員が異業種出身で、20〜30 代の応募も多いという。エアコン修理工事の作業員から転職した40代男性は、月収が多い月で70万円と、前職の1.5倍になった。

新卒採用を強化する日本交通、孤立を防ぐ「若手だけの営業所」

 タクシー業界には、かつて中高年の転職者が多かったが、新卒の若者も増え始めている。

 タクシー最大手の日本交通は、12年に運転手の新卒採用を始めた。労働力確保に加え、接客品質の向上や将来の事業を担う人材を育てる狙いがある。

 しかし、タクシーの運転は、基本的に1人でする仕事だ。乗車勤務を終えて営業所に戻っても、同僚にはシニアが多く、若手が孤立しがちだった。

 そこで同社は20年、東京都江戸川区に新卒の若手だけを配属する営業所を設けた。さらにこの営業所を23年にリニューアルし、カフェを併設した。

日本交通の若手限定営業所に設けたカフェ。接客や調理はタクシー運転手として働く若手が担う(写真=福本 裕貴)
日本交通の若手限定営業所に設けたカフェ。接客や調理はタクシー運転手として働く若手が担う(写真=福本 裕貴)

 新設されたカフェは外光が差し込み、明るい雰囲気だ。若手同士が和気あいあいと談笑したり、仕事の打ち合わせをしたりしている。ボードゲームも置かれている。自然に人が集まり、先輩などに相談しやすい環境を整えた。

 カフェではスムージーや焼きたてパンが安価に提供される。タクシー運転手として働く若手がカフェの接客や調理も担う。

 25年に新卒入社した若手運転手は「年齢の近い先輩が多く、コミュニケーションしやすい」と話す。先輩から教わったのは営業エリアの詳細に加えて、泥酔客の対応のコツなど。新卒の女性比率は3割近く、以前より高まった。若手の女性運転手同士で営業エリア内の使いやすいトイレの情報を共有したり、乗車勤務の合間に一緒にランチをする同僚を探したりする動きもある。

 営業所のある女性運転手に話を聞いた。

20代で年収800万円の運転手も

 日本交通への就職に際し、両親から反対はされなかったが、不安を口にされたという。年配の男性が多いイメージがあるということだった。

 しかし「新卒だけが配属される若い人が多い営業所で勤務する」と説明したら、納得してもらえたそうだ。日本交通では新卒社員の親向けに、タクシー業界の働き方などについて説明する場も設けているという。

 新卒ばかりのこの営業所で、若い運転手たちにタクシー業界を志した理由を尋ねた。運転が好き、接客が好き、デスクワークは向いていないなど、様々な理由が挙がった。大学時代の専攻も経済学や法学、経営学など多岐にわたる。

大学で経済学を専攻した若手運転手は、2025年に新卒で日本交通のタクシー運転手になった(写真=福本 裕貴)
大学で経済学を専攻した若手運転手は、2025年に新卒で日本交通のタクシー運転手になった(写真=福本 裕貴)

 用意されたキャリアパスも多様だ。まず、タクシー運転手としてキャリアアップする道がある。日本交通のタクシー運転手には、無事故や無違反の運転を続けると、車のルーフに載せる「あんどん」が金色になるといった「ランク」がある。ランクが上がると配車で優先的に指名されるなど、収入増につながる特典が得られる。

 タクシー運転手から内勤業務へ移ることもできるし、個人タクシーとしての独立も有力な選択肢となる。ただし、日本交通では、独立後も会社のブランドを活用できる契約も用意し、優秀な人の囲い込みを図っている。

 追い風が吹くタクシー業界では、若い運転手も稼ぎやすくなってきている。インバウンドによる需要増加に加えて、配車アプリといったデジタル技術の導入で、今は効率的に稼げる。日本交通では歩合制のタクシー運転手で、20代が年収800万円を稼ぐ例も出ている。

 日本交通では25年は新卒47人が配属され、26年1月時点の離職者は1人にとどまった。

[日経ビジネス電子版 2026年10月2日付の記事を転載]

人工知能(AI)で激変する労働市場。じわり増える高収入ブルーカラー層の実像から、ホワイトカラーが揺らぐ時代の針路を探る。大工に電気工事士、すし職人、アパレル販売員、マグロ漁船の船員、米農家……そして米国事情まで。19人の実例を綿密に取材。学歴やスキル以前に需給で決まる報酬の現実を捉える。

佐藤斗夢、大西孝弘(著)/日経BP/1210円(税込み)