内容紹介
本書の英語版が最初に発行された1981年以来、日米経済のパフォーマンスには驚くほどの違いがあり、両国の金融システムの相対的優位性に関する論争を引き起こしてきた。1980年代および1990年代初めには、日本の金融システムは、企業が短期的な利益を求める投資家に応えるより、長期的な競争上の優位を築くことに集中できるモデルとして取り上げられてきた。
1990年代になると両者の状況は逆転し、米国の力強い生産性の増加は、よりダイナミックな金融市場や株主価値の重視によるものとされた。そうした楽観的な見方は、2001年のドットコム・バブルの崩壊と
エンロンとワールドコムの破綻により弱くなった。もっと最近の問題には、2007-2009年の金融危機およびユーロ圏の危機がある。金融が重要であることを疑う者がいても、これらの危機を見ればその気持ちも変わるだろう。
こうした波乱に満ちた金融の歴史から、どのようなコーポレート・ファイナンスに関する教訓を得るべきだろうか? 第一に、我々の知らないことが多く存在するということである。
第二に、基本原則を厳格かつ注意深く適用することの重要性である。価値評価や資本コストおよび合理的な資本投資の決定に関する基本原則は、依然としてしっかりとした根拠を有している。
分散投資やポートフォリオ理論の基本原則についても同様である。資本調達の選択肢が激増したことで、財務上の判断によりなぜ企業価値が増えるのかを理解すること、そして、どのような場合にそうした効果がなくなるのかを
認識することがますます重要になってきた。オプション、先物契約およびスワップの市場の急激な拡大により、デリバティブとそのリスク管理における役割を理解することもなお一層、重要性を増している。
本書の新しい版では、これらやその他の基本的なトピックをカバーできるよう改善に努めた。同時に、国際的なトピックや財務担当者が働くこととなる様々な金融システムの違いについても広くカバーしている。
(ブリーリー、マイヤーズ、アレン「新しい日本語版の発刊に寄せて」から抜粋)
リチャード・A・ブリーリー(Richard A. Brealey)
ロンドン・ビジネススクールのファイナンス担当教授。ヨーロッパ・ファイナンス学会会長、アメリカ・ファイナンス学会理事を務めた。英国学士院フェローであり、イングランド銀行総裁の特別顧問や多くの金融機関の取締役を歴任。主な著書にIntroduction to Risk and Return from Common Stocksなど。
スチュワート・C・マイヤーズ(Stewart C.Myers)
MITスローン・スクール・オブ・マネジメントのファイナンス担当、ロバート・C・マートン(1970)講座・教授。アメリカ・ファイナンス学会会長を務め、全米経済研究所(NBER)リサーチ・アソシエイト。主要な研究分野は、財務上の意思決定、価値評価手法、資本コストおよび政府の産業規制の金融的な側面など。マイヤーズ博士は、エンタジー・コーポレイーションとブラットル・グループの取締役であり、財務コンサルタントとしても活躍している。
フランクリン・アレン(Franklin Allen)
ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのファイナンス担当、日本生命講座・教授。アメリカ・ファイナンス学会、ウエスタン・ファイナンス学会、ソサエティ・フォー・フィナンシャル・スタデォーズの会長を歴任。主要な研究分野は、金融革新、資産価格バブル、金融システム比較および金融危機など。スウェーデン中央銀行(Sveriges Riksbank)の学術顧問でもある。