その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は野元義久さんの『 はじめて部下を3人持ったら読む本 』です。

【はじめに】

「何のためにやるのか」「自分にできるのか」と迷っているあなたへ

「私に管理職なんてできるのだろうか」

 初めて部下を持つことになった人から、そんな不安を聞くことがあります。

 これまで仕事はきちんとやってきた。周囲からも評価され、今度は管理職を任されることになった。けれど、いざ自分の番になると、うれしさと同時に戸惑いが出てくる。

「そもそも、自分は何のために管理職になるのだろう」
「本当に、自分に務まるのだろうか」

 そんなふうに立ち止まる人は、決して珍しくありません。

 自分から望んで管理職になったわけではない人もいるでしょう。ある日突然、上司から声をかけられ、人が足りないからとチームを任されることもあります。これまで1人、2人の後輩の面倒を見た経験はあっても、マネジメントをきちんと学んだことはない。十分な研修も準備期間もないまま、部下を持つ立場になる人もいます。

 管理職をやってみること自体には前向きでも、今の生活のことを考えると迷う人もいるでしょう。趣味や育児、介護など、仕事以外にも大切にしたいことがあれば、「これ以上忙しくなって本当にやっていけるのか」「自分の時間や家族と過ごす時間はどうなるのか」と不安になるのも自然なことです。会社の制度や環境が整っていたとしても、心の準備まですぐに整うわけではありません。

 これは、そんな戸惑いと不安を抱えた、あなたのために書いた本です。

 私はこれまで、企業の組織開発や人材育成に長く関わってきました。新卒で入社したリクルートでは、27歳で課長になりました。当時の事業部内では最年少で、一時は50人ほどのメンバーを率いる立場でした。その後は、ベンチャーの立ち上げや、上場企業での新規事業、組織人事の仕事などを経験しました。2005年に独立してからは、さまざまな企業の組織づくりや人材育成を支援しています。研修講師としては2万人以上の受講者と関わり、自分自身も多くの学びを積み重ねてきました。そして、そのご縁の中で出会った若手リーダーたちの悩みに一つひとつ向き合ってきました。

 管理職として苦しんでいる人の中には、能力が足りないどころか、真面目で責任感があり、これまで仕事をきちんとしてきた方が少なくありません。

 仕事の進め方が分かっていて、自分で考えて動くことができる。困ったことがあれば、自分で何とかしてきた。そんな経験があるからこそ、部下を持ったときにも、自分の力で何とかしようとしすぎるのです。部下の仕事が遅れていれば自分が引き取り、うまく伝わらなければ自分で直す。誰かに頼むより、自分で片づけたほうが早いと思うこともあるでしょう。実際、そのほうが早い場面もあります。

 しかし、管理職の仕事は、それまでの仕事とは違います。自分が手を動かして成果を出すだけでなく、周囲の人に動いてもらいながら成果を出すことが求められるのです。とはいえ、これまで自分で動いて成果を出してきた人にとって、この役割の変化に対応することは簡単ではありません。プレーヤーとして成果を出してきた人ほど、「動いてもらう」ことは、十分に練習してきていません。それでも着任したその日から、管理職としての成果を求められます。すると、これまでにはなかった難しさに直面します。

 自分なら一度言われれば分かることが、なかなか伝わらない。丁寧に説明したつもりが「指示が細かすぎる」と受け取られ、反対に、考えてほしくて任せると「丸投げされた」と思われることもあります。また、相手を傷つけるのではないか、ハラスメントだと思われないかとためらってしまうこともあります。それでも、何も指摘しなければ仕事は前に進みません。

 こうした管理職の困りごとは、最近になって突然生まれたものではありません。ただ、その難しさは以前よりも複雑になり、多くの職場で無視できないものになっています。働く人の価値観は多様になり、転職も珍しくなくなりました。オンライン会議やチャットの利用が日常になり、相手の表情やちょっとした変化が見えにくい中で、マネジメントしなければならない場面が増えました。

 部下との関係に悩むことは、今や一部の管理職だけの問題ではありません。

 多くの管理職やリーダーの成長を支援してきて感じるのは、「自分にできるだろうか」と悩んでいる人ほど、真面目で責任感が強く、部下やチームに誠実に向き合おうとしているということです。まずは、そのように向き合おうとしている自分を認めてあげてほしいと思います。

部下が3人になったら、「チーム」で考える

 部下との関係がうまくいかないとき、私たちはつい、「自分の接し方が悪かったのか」「相手に問題があるのか」と、その原因を2人の間だけで探そうとします。しかし、職場で起きるトラブルは、上司と部下の2人だけの問題とは限りません。

 1人、2人の後輩であれば、その人に合わせて教えたり、相談に乗ることができました。ところが、部下が3人以上になると、そこには小さなチームが生まれます。一人ひとりの考え方や仕事の進め方が違うだけでなく、メンバー同士の関係もチームの動きに影響します。人数が1人増えるだけではなく、管理職が気にかけるべき観点が、一気に増えるのです。部下が3人になると、「それぞれにうまく対応する」だけでは回らなくなってきます。長く組織づくりや人材育成に関わってきた中で、この「3人」という人数が、一人ひとりを見るマネジメントから、チーム全体を見るマネジメントへの転換点になると感じています。

 ここでおすすめしたいのが、「職場をチームとして見る視点」です。ここでいうチームとは、全員がリーダーと全く同じ考えを持つ集団ではありません。人は大切にしていることも、得意なことも、仕事への向き合い方も違います。その違いをなくすのではなく、それぞれが自分の役割を果たしながら、組織として相乗効果を発揮していく状態をチームと呼びます。

 本書では、部下とのすれ違いを減らし、一人で抱え込まずにチームを動かしていくための方法を紹介します。この本によって見方や考え方が変わり、同じ問題に直面したとき、打てる手が増えていくことを期待しています。目の前の部下だけでなく、周囲との関係や職場の仕組みにも目を向けることで、チームとして解決できることもあるからです。

 ただし、「こんな部下には、こう言えばいい」というQ&Aにするつもりはありません。人も職場も違う以上、一つの方法がいつも通用するとは限りません。そのため本書では、具体的な方法とあわせて、その土台にあるマネジメントの原理原則を解説します。何を見てどう考えるのか理解できれば、想定外のことが起きたときにも、自分の職場に合わせて対処できるようになるはずです。

 現時点では、あなたはまだ、リーダーになる心の準備ができていないかもしれません。あるいは、すでに部下を持ちながら葛藤を抱えているかもしれません。それでも最初からすべてうまくやろうとする必要はないのです。むしろ、役割を引き受けてから学び、少しずつできることを増やしていくという新しい道のりなのです。

 管理職の役割を担うことは簡単ではないかもしれません。しかし、自分一人で成果を出していた頃には得られなかった経験を積むことができます。チームを動かすこと、周囲と協力しながら成果を出すこと、人を育てること、そうした経験は、たとえ今の会社を離れたとしてもあなたの資産となります。もちろん、一人で背負う必要もありません。管理職として成果を発揮できるよう支援することは、あなたをリーダーに任命した上司の役割でもあります。困ったときには周囲に相談し、助けを求めながら進めればいいのです。

 この本が、あなたなりのマネジメントを考えていくための手がかりになればと思います。そして、あなたが健やかに活躍していくことを応援しています。

【目次】

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