その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はヴァンサン・アルブイ(著)、門脇仁(訳)の『 嘘つく生きもの 動物と植物が魅せる、擬態とカモフラージュ 』です。「プロローグ」をお届けします。
【プロローグ 自然のなかの秘められた顔】
ハイキングの初心者が森を歩くとき、そこに息づく豊かな動物相がすっかり見えているわけではない。さえずり鳴きかわす鳥。小道や空き地を舞う数匹の蝶。花に群がって蜜を吸う虫。そんなところだ。
経験豊かなナチュラリストでも、さほど変わりはない。シカやリスの見方がわかったり、葉のあいだ、樹皮の下、積もった枯れ葉のなかから、昆虫そのほかの無脊椎動物を掘り出せたりするぐらいのものだろう。
ところが、生命はどこにでも存在している。人目を避けたり、姿をくらましたりしているだけなのだ。
森の動物相を調査するには、補助的な技法が要る。いってみればナチュラリストの能力を拡げる奥の手である。葉を叩いたり刈ったりするという昔ながらの手段があるが、これだってじつに効果がある。そのほか、わりあい新しいものとしては、夜のあいだに飛ぶほとんどの昆虫、とくに蝶や蛾にとってはとても魅力的な、紫外線を発するライトトラップ――光の罠がある。キツネ、アナグマ、イノシシといった夜行性哺乳類たちを撮影するために仕掛けるカメラトラップも、奥の手のひとつだ。
森の動物相は氷山に似ている。ありとあらゆる方法で他者を欺(あざむ)く生物種と比べたら、目につきやすい種はごくわずかだ。目を欺くことは、生存と繁殖のために生物界でもっとも広く使われている戦略のひとつである。森にかぎらず、どんな環境、どんな緯度にもこの戦略は当てはまる。科学の用語では、「擬態」と呼ばれている。
【目次】




