その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は飛田臨太郎さんの『 バンスのアメリカ トランプ後の世界を動かす思想地図 』です。
【はじめに】
J・D・バンス(以下、バンス)というと、トランプに忠誠を誓った若い副大統領という印象を持つ人が多い。筆者自身も当初はそういう印象で捉えていた。
しかし、バンスの周辺にいる思想家や政策立案者と話すと、見えてきたのは趣の異なる姿だった。彼らはトランプをある種、「乗り物」として使い、トランプのその先に自分たちの理想のアメリカを実現しようとしている。これは、革新的・確信的にアメリカを変えようとしている保守層や右派の新しい姿だ。アメリカではこの潮流を「ニューライト」などと呼ぶ。
そのニューライトの中心にいるのがバンスだ。彼はラストベルトの白人貧困層に生まれ、薬物依存や家族崩壊の影のなかで育ち、海兵隊や名門イエール大学、シリコンバレーでの勤務を経て、40歳の若さでアメリカ副大統領の職に就いた。
彼らニューライトが掲げるのは、共同体の再生だ。アメリカが伝統的に大事にしてきた家族、地域、教会、労働の尊厳の復活を標榜する。彼らが敵と見なしているのは、単に民主党やリベラル派ではない。リベラリズムや世俗主義、市場原理を万能と捉える新自由主義、グローバリズム、アメリカ軍の外国への積極介入……。これら冷戦後のアメリカを支えてきた常識そのものを根底から塗り替えようと試みているのだ。トランプが大衆の怒りを掘り起こした政治家だとすれば、バンスとニューライトは、その怒りに思想と制度を与えようとする人々である。
バンスらニューライトが政権をとれば、同盟国の日本にはアメリカに守られているという意識を完全に捨て去るよう求めるだろう。つまり日本は、自らの文明、国家意思、自らが戦う主体としての軍事力を問われる関係に変わる可能性がある。
トランプはディール(取引)を重視した損得論を好む。しかし、ニューライトには損得論を超えた、確信に似た思想的世界がある。日本には融通の利かない厳しい要求が飛んでくるかもしれない。
2026年夏時点では、その後バンスが28年大統領選の大統領候補になるか、未来は分からない。ただ、言えるのはバンスの有力な対抗馬と目される共和党のマルコ・ルビオ(現・アメリカ国務長官)もまたニューライトを率いる重要な人物の一人だということだ。
ニューライトという新しい政治潮流の理解は、今後のアメリカを数十年単位のスパンで読み解くために欠かせないと感じている。ニューライトは、戦後のアメリカ政治に流れてきた「保守」「リベラル」の軸では分析しきれない。
本書で描こうとするのは、バンスという一人の政治家の立身物語ではない。トランプが掘り起こした怒りのポピュリズム運動を、誰が、どのような思想と制度に変えていくのか。バンスはその入り口であり、彼の周囲に集まるニューライトは、アメリカ政治の次の10年を左右する思想運動である。
本書は、バンスの歩みに加えて、彼を支える思想家や政策立案者、保守活動家などへのインタビュー、ワシントンやラストベルトなどアメリカでの取材を通じ、トランプ後のアメリカを動かそうとするニューライトの実像と未来図を描こうとする試みである。
関心に応じて、章ごとに読み進めていただければ幸いだ。第1章では、ニューライトを政治家の立場からけん引するバンスとは何者か、生い立ちから現在までをたどる。
第2章は、MAGA(Make America Great Again〈アメリカを再び偉大に〉)という大衆運動が、なぜバンスというニューライトの政治家と結びつくのかを考える。
第3章は、ニューライトを動かす3つの柱、共同体論とポスト新自由主義、そして、最先端の技術革新を追い求めることで、自由を最大化しようとするテクノリバタリアンを整理する。
第4章は、バンスのブレーンとも言われるニューライトの思想家らへのインタビューを通じて、彼らの生の声を届ける。
第5章では、ニューライトが政権をとった場合の政策がどうなるのか。また世界各国や日本への影響について考える。
なお、人名は敬称を略し、2回目からは姓のみを記すのを基本的なスタイルとした。
【目次】


