内容紹介

刊行にあたって
 三種の神器と言えば、皇位継承の象徴として天皇家に受け継がれている三種類の宝物、八咫鏡(やたのか
がみ)、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)であるが、これらはいずれも
磨き物、すなわち磨かれて初めてその品物としての価値を高める品物である。この三種の神器に象徴される
ように、研磨はものづくり日本にとって非常に重要な技術であり、品物の付加価値を高める技術として重宝
されてきたのである。また研磨という作業は磨製石器に見られるように、人間が営みを始めて以来行ってき
た技術であり、非常に伝統のある技術である。磨製石器は打製石器よりも場合によってはその切れ味が劣る
ものの、再現性の高い石器を供給することのできる最先端技術として確立していた。研磨技術は鏡面を得る
ことのできる加工技術として長く位置づけられてきたが、最近になってその特異的な加工メカニズムや化学
的作用が注目され、加工ダメージの均質な面や加工ダメージの残らない面を製作できる加工技術として半導
体基板の製造技術等に採用されるようになってきている。

 このようにその重要性にもかかわらず、同じ機械加工の切削加工や研削加工に比較すると、その加工特性
の制御因子の数が多く、しかも機械的除去作用のみならず、化学的除去作用も付加されることから、体系化
が難しく、研磨加工を総合的に学べる書籍も非常に少ないのが実情である。こうした中で平成7年より小生が
カリキュラム編成者となって財団法人神奈川科学技術アカデミーにおいて研磨技術に関する学習コースを毎
年開催してきている。その学習コースは研磨技術の基礎から応用までにコンパクトにまとめ上げたものと
なっており、毎回多数の受講者を得ている。本書はそのコースを基本に構成したものであり、従来の同等の
分野を扱った類書と大きく異なる点は、研磨技術を研磨機械、研磨工具、加工技術の3つの観点から説明を加
えている点と、洗浄と加工面の評価技術を加えている点である。洗浄は研磨後の表面から汚れを除去するた
めに必須の技術であり、加工面の評価技術は研磨面が目的を満足する面となっているかを評価し加工の達成
度を明確にするうえで非常に重要な技術である。本書が従来の研磨技術に関する書籍の不足を補完できるも
のとなれば幸いである。

(本書「巻頭言」より)

著者一覧
谷泰弘   立命館大学 理工学部 機械工学科 教授
河西敏雄   埼玉大学ベンチャー (株)河西研磨技術特別研究室 代表取締役;埼玉大学名誉教授
杉下寛   浜井産業(株) 技術部 部長
横山英樹   (株)フジミインコーポレーテッド 機能材事業本部 副本部長
伊藤潤   (株)フジミインコーポレーテッド 機能材事業本部 
古澤真治   日立造船(株) 精密機械本部 マテリアルビジネスユニット 営業部 部長
広川良一   九重電気(株) 伊勢原事業所 化成品部 取締役化成品部長
繁田好胤   ニッタハース(株) 技術部門 本部長
村田順二   立命館大学 理工学部 機械工学科 助教
清宮紘一   (株)トップテクノ 取締役
安永暢男   元 東海大学 教授
進村武男   宇都宮大学 学長
鄒艶華   宇都宮大学 大学院工学研究科 准教授
桐野宙治   (株)クリスタル光学 技術開発部 取締役;技術開発部長
森田昇   千葉大学 大学院工学研究科 教授