内容紹介
刊行にあたって透明導電膜は、応用面において1970年代後半から薄膜太陽電池用透明電極、1980年代からフラットパネルディスプレイ用及びタッチパネル用透明電極として集中的に研究開発され、現在、これらの用途で広く実用されている。透明導電膜用材料としては、NESA膜を始めとして透明導電性金属酸化物(TCO)半導体薄膜が使用され、1950年代からSnO2系、1970年代からIn2O3系、1980年代からZnO系、そして1990年代から多元系TCOが、成膜技術の発展と相まって研究開発されている。また、このような市場の求める材料技術や成膜技術の研究開発に立脚する透明導電膜の進化を解説する書籍として、1999年に最新実用技術にフォーカスした「透明導電膜の新展開」(澤田豊監修、シーエムシー出版)が出版されている。2002年には続編として「透明導電膜の新展開II」(澤田豊監修、シーエムシー出版)、2008年にはITOとその代替材料開発にフォーカスした「透明導電膜の新展開III」(南内嗣監修、シーエムシー出版)が出版された。
一方、2000年代後半からのナノテクノロジーの台頭に加えて脱レアアース及びフレキシブル化等の要請もあり、本来透明でない材料を利用する新規な透明電極の研究開発が始まっている。すなわち、実用化されている透明電極はITO薄膜を始めとする薄膜形状が主流であるが、特定用途に適合する特性(性能)を実現する各種材料を利用した多様な形状の材料技術が開発されている。その結果、応用面の多様化のみならず学際的な透明導電膜の新しい展開を予期させる、多くの新しい材料技術及び成膜技術が研究開発されている。例えば、金属粒子、特に銀ナノ粒子の開発及びこの粒子を利用する透明導電パターン形成技術の進展が注目され、塗布技術や印刷技術を使用した透明電極形成技術が実用段階にある。更に、炭素系のグラフェンの透明導電膜への応用が注目され、積層膜の塗布技術及び単層膜の成膜技術と転写形成技術も実用段階にある。CNTの透明導電膜への応用も着実に進展している。また、フレキシブル化の可能なタッチパネル、有機を含む薄膜太陽電池及び有機EL(OLED)では、上述のフレキシブル透明導電膜材料に加えて透明導電性有機薄膜を利用するフレキシブル透明電極に対するニーズも高まっている。今後、高価な真空系を使用しない、塗布法のような安価で多様な形成技術が利用可能になるだろう。応用面では、iPadやスマートフォンの出現によるディスプレイと一体化するタッチパネルにおいて機能や耐久性の劇的な進化が実現されている。また、昨年の3月11日の東日本大震災がもたらした電力供給問題に端を発した太陽電池発電に対する大きな期待、並びに省エネルギー技術の取り組みの一環としての冷暖房効率を高める調光窓(スマートウィンドー)の利用が再認識されている。これらの用途における透明導電膜の需要の劇的な増大が期待されている。以上のように透明導電膜分野では、現在、材料技術及び成膜技術の双方において画期的で多様な展開が進行しつつあり、併せて有機ELや薄膜太陽電池用透明電極への応用に対して最適なTCO透明導電膜の開発が急務である。
そこで、前版「透明導電膜の新展開III」から3年以上が経過して、最近の透明導電膜分野における新しい展開に鑑みて「透明導電膜の新展開IV」の出版が企画された。監修に当たっては本シリーズの趣旨に沿って透明導電膜に関係する最先端技術、並びに実際に直面している重要な問題点にフォーカスした内容を取り上げるよう努力をした積りである。しかし、当初の企画が先行及び同時進行するシーエムシー出版の他の企画と重なる部分があり、それらの部分に関しては調整、割愛させて頂いた。
最後になりましたが、ご多忙にもかかわらず本書の執筆を快く引き受けて下さった著者の皆様に深く感謝申し上げます。
2012年10月
金沢工業大学 南 内嗣
著者一覧
南内嗣 金沢工業大学 工学部 光電相互変換デバイスシステム研究開発センター 教授,所長
小川倉一 小川創造技術研究所 代表
村松淳司 東北大学 多元物質科学研究所 教授
山本泰生 ハクスイテック(株) 技術部 執行役員 技術部長
黒岩信幸 ハクスイテック(株) 技術部 課長
宮田俊弘 金沢工業大学 工学部 光電相互変換デバイスシステム研究開発センター 教授
石川真章 住友大阪セメント(株) 新材料事業部
中台加津男 富士フイルム(株) 産業機材事業部 技術担当部長
松本和正 東レフィルム加工(株) 技術企画部 技術顧問
能木雅也 大阪大学 産業科学研究所 セルロースナノファイバー材料分野 准教授
辛川誠 大阪大学 産業科学研究所 ソフトナノマテリアル分野 助教
菅沼克昭 大阪大学 産業科学研究所 先端実装材料分野 教授
武藤浩行 豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系 准教授
羽切教雄 豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系 研究員
Ivica Kolaric Head of Department Functional Materials Fraunhofer Institute for Manufacturing Engineering and Automation IPA
Thomas Ackermann Functional Materials Fraunhofer Institute for Manufacturing Engineering and Automation IPA
Serhat Sahakalkan Functional Materials Fraunhofer Institute for Manufacturing Engineering and Automation IPA
Martin Matis Functional Materials Fraunhofer Institute for Manufacturing Engineering and Automation IPA
Thomas Bauernhansl Institute Director Fraunhofer Institute for Manufacturing Engineering and Automation IPA
Engelbert Westkämper Former Institute Director Fraunhofer Institute for Manufacturing Engineering and Automation IPA
上野啓司 埼玉大学 大学院理工学研究科 物質科学部門 准教授
在間弘朗 (株)KRI アドバンスド材料研究部 主席研究員
若林完爾 (株)KRI アドバンスド材料研究部 研究員
村松一生 (株)インキュベーション・アライアンス 代表取締役
鯉田崇 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 主任研究員
柴田肇 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率化チーム チーム長
前島圭剛 太陽光発電技術研究組合 つくば研究所 研究員
小牧弘典 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率化チーム 研究員
松原浩司 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 革新デバイスチーム チーム長
反保衆志 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 革新デバイスチーム 研究員
山田昭政 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率化チーム 契約職員
石塚尚吾 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率化チーム 主任研究員
牧田紀久夫 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 革新デバイスチーム 主任研究員
古江重紀 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率化チーム 研究員
上川由紀子 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率化チーム 契約職員
樋口博文 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率化チーム 契約職員
飯岡正行 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率化チーム 契約職員
仁木栄 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 副研究センター長
吉野賢二 宮崎大学 工学部 電子物理工学科 准教授
山崎和彦 三菱マテリアル(株) 中央研究所 電子材料研究部 副主任研究員
井上雅裕 尾池工業(株) AFグループ タッチパネル材料事業部 技術サポート リーダー
山本哲也 高知工科大学 総合研究所 マテリアルデザインセンター センター長,教授
永元公市 リンテック(株) 技術統括本部 研究所 主幹研究員
宋華平 高知工科大学 総合研究所 マテリアルデザインセンター 助教
牧野久雄 高知工科大学 総合研究所 マテリアルデザインセンター 准教授
板倉義雄 (株)タッチパネル研究所 副社長
内田孝幸 東京工芸大学 工学部 メディア画像学科 教授
星陽一 東京工芸大学 工学部 電子機械学科 教授
田嶌一樹 (独)産業技術総合研究所 サステナブルマテリアル研究部門 環境応答機能薄膜研究グループ 主任研究員
鈴木すすむ 旭硝子(株) 中央研究所 ドライコーティング技術ファンクション 主幹研究員
門倉貞夫 (株)エフ・テイ・エスコーポレーション 本社 代表取締役社長
小林範久 千葉大学 大学院融合科学研究科 教授
陳凱 (株)アルバック 規格品事業部 第2計測技術部 部長
山本雄一 旭硝子(株) 中央研究所 主席