内容紹介

 原題を直訳すると、「子孫はふたたび繁栄する」。つまり、豊かな社会階級に生まれた人間はそうでない人間よりも豊かになる。それは「機会の平等」を建国の理念にしたアメリカでも同様だ。
アメリカとは対極にあるスウェーデン、中世イングランド、近現代のイギリス、インド、中国、日本・韓国も同様ーー。

 前著『10万年の世界経済史』では、産業革命がイギリスで最初に起きた謎に挑んだクラーク。本書では、姓名を軸に世界各国の歴史データを分析し、どの国でも支配階級と下層階級の名前はあまり変化がない、
つまり「格差」は維持されてきたとの結論を導き出した。
 明治維新で社会層が入れ替わったといわれる日本、共産主義革命で上層階級が放逐されたと言われる中国でも、医者・弁護士などの名簿に記載された名前にほとんど変化はなく、「社会階層はほぼ固定化している」との結論が出た。

 人種の坩堝アメリカは「チャンスの国」と言われ、アメリカ人自身もそう信じてきた。ところが、医者・弁護士などの名簿にアフリカ系黒人の名前は依然として少なく、ユダヤ系や日系などが人口比で多い傾向は変わっていない。

ピケティのr(資本収益率)>g(経済成長率)が格差の不等式だが、クラークの社会的流動性の公式は
     Xt+1=bXt + et
  
 つまり、ある家族の第t+1世代は、親世代である第t世代の基盤的な社会的能力に継続率bを掛けたものとランダム成分et の和である。

 名前という馴染みのあるものを手がかりに、社会の流動性の乏しさを導き出す手法は、推理小説的興奮を誘う。前著『10万年の世界経済史』の原題は、FAREWELL TO ALMSだった。
これはヘミングウェイ『武器よさらば』(FAREWELL TO ARMS)のもじり。本書も『陽はまた昇る』(THE SUN ALSO RISES)のもじり。