内容紹介

「あす死ぬと思って生きなさい。ずっと生きると思って学びなさい」

 16歳のときに創刊した『スチューデント』という雑誌に始まり、最近では宇宙旅行のヴァージン・ギャラクティック社まで、私はいろいろなベンチャー事業を手がけてきたが、そのなかで常に座右に置いてきた哲学がある。すなわち、「新しいビジネスやプロジェクトに心が躍らず、起業家スピリットや革新マインドが刺激されないとき、クリエイティブな喜びを味わいつつ、それで世界を変えられると感じられないときには、さっさと見切り
をつけ、もっと心躍る別のプロジェクトに目を向ける」。
本を書くときも同じことを考える。書くのが楽しくなければ、読んだ人もハッピーになれないはずだ、と。要は単純な話である。自分がいまやっていることを楽しめないのなら、何をやっても楽しめるわけがない。ある賢人がかつて次のように言った。「人生は予行演習ではない」だから、来世でもっとがんばるつもり(二度目のチャンスがあるほど幸運だったとして)というのでなければ、夢中になれないことをやってどうして限られた時間を無駄にするのか?

 マハトマ・ガンジーは私の永遠のヒーローだが、確か学校の歴史の授業で習った彼の言葉がいまだに耳を離れない。
「あす死ぬと思って生きなさい。ずっと生きると思って学びなさい」
このよきアドバイスは、「きょうが最後の日だと思って毎日を生きなさい」のように簡略化されることも多い。すばらしい言葉である。

 学校では先生と波長が合わなかった私だが、学校をやめて独立すると、「聴く力」を磨かざるをえなくなった。『スチューデント』誌では「新米記者」の仕事もこなさなければならないから、誰かにインタビューするとき、ほとんど判読不能な文字でメモをとりながら熱心に耳を傾けるしかない。相手がジョン・レノンであれジョン・ル・カレであれ、同時に聴き、書き、次の質問を考える技術を早急にマスターする必要があった。なんだか「皿回し」みたいだ。すべての皿を回しつづけていないと一巻の終わりである。でも腰を据えて耳を傾ける力は、私の人生の救いになった。「聴く」というのは、いまや世の中から消えゆく技能にも思えるが、教師、親、リーダー、起業家にとって最も大切なスキルの一つだと私は思う。いや、血の通う人間ならすべからくそのスキルを必要とするにちがいない。

 われわれのグループ各社をめぐって「ヴァージン・ウェイ」という言い方がされるけれども、これは創業1日目からずっと進化してきたものである。ほかの会社からわがグループに転職してきたばかりの人が、(だいたいは非常にインフォーマルな)戦略ないし製品会議に初めて参加し、「なんだかやり方が全然違いますね」と漏らしたとき、ほほ笑みと訳知り顔のウィンクとともに、たいてい次のような答えが返ってくる。
「ええ、そいつがヴァージン・ウェイですよ」

 本書を読めばきっとおわかりいただけると思うが、われわれの「ウェイ」すなわち仕事のしかたで大事なのは、黙って聴くこと、それが一つである。何か意見がある人すべての話に熱心に耳を傾ける。「自称専門家」は当てにしない。それから、互いに学び、市場から学び、失敗(まったく新しいことをするためにはつきもの)から学ぶこと。そして、たぶん一番重要なのは、文字どおり楽しむこと。「ヴァージン・ウェイ」を指揮していると、予期せぬ結果を招き、もっと「分別のある」組織なら尻込みするような場所へ行き着くことが少なくない。そして、これだけ目立つブランドでそれをやるのは、先頭に立って旗をふること、多くのリーダーが「良識的」とは考えないような危険を冒すことを意味する。

 人になんと言われようがわが道を行く、それも大いに楽しみながら--そんな信念を持つあなたは、すでに正しい方向へ進んでいる。たぶん誰にもその進路は変えられないだろう。もっともっと聴くことだ。話すよりも聴くことだ。情熱を前面に出すことを恐れる必要はない。そして、迷ったときは自身の直感を信じよう。