内容紹介
■恒久的なマネタリーファイナンス、いわゆるヘリコプタマネー論議の火付け役となった元英金融サービス機構(FSA)長官が書き下ろした衝撃の書。解説は早川英男氏(富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェロー、元日本銀行理事)。以下は、アデア・ターナーが寄せた日本語版への序文「なぜ私は『劇薬』を主張するのか?」から冒頭部分を抜粋した。
「本書の英語版を書き終えた2015年時点で、世界経済が過剰債務に起因する低インフレと低成長の罠にはまっていて、かつタブーとされた大胆な政策を実施しなければ脱却できないことは既にはっきりしていた。この1年でそうした現実はさらに明白になったが、どこよりも明白なのが日本である。(中略)
本書の中心テーマは2008年の金融危機とそれ以降の長期的な景気低迷だが、この背景には金融システム内の過剰なリスクテイクにくわえ、2008年まで半世紀にわたって続いてきた民間債務の大幅な拡大がある。先進国における家計と企業を合わせた民間債務残高のGDP比は、1950年の約50%から2007年には170%強に達しており、この間、ほぼ毎年上昇してきた。
だが当時、正統派の経済学はこうした債務比率(レバレッジ)の上昇の危険性をほぼ無視していた。それどころか信用供給を緩和し、レバレッジが上昇することは経済成長にはプラスであり、中央銀行が低インフレを安定的に達成すれば、マクロ経済の安定は確保されると自信をもって主張していた。日本の経験を見ていれば、こうした想定が危険な間違いであることはわかるはずだった。(中略)
金利がきわめて低い水準に達すると、さらに引き下げても個人消費や設備投資を刺激する効果は低い。そして、この一年の日本やユーロ圏のようにマイナス金利が導入されると、名目需要に対する効果はマイナスになるかもしれない。だが、超低金利がもたらした結果として何より明白なのは、既存の資産保有者の資産が増加したことである。英国では、2008年以降、1人あたりの所得は2%しか増えていないが、既存資産の残高は30%増加している。
景気の回復力は弱く、その果実は平等に分配されていない。政治的な反発から英国はEU(欧州連合)離脱を決め、米大統領戦で共和党のドナルド・トランプ候補が躍進しているが、それは驚くべきことではない。」