暗号資産イーサリアムを弱冠19歳にして2013年に創案し「若き天才」と称されるヴィタリック・ブテリン。彼はプログラマーであると同時に、ブロックチェーンおよび暗号資産のあり方を2011年から取材・執筆してきた著述家でもある。イーサリアム誕生前夜から現在までの彼の著述をまとめた書籍『 イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来 』から、イーサリアムを開発した狙いについて一部抜粋・再構成して紹介する。

 ヴィタリック・ブテリンは2013年11月ごろ、ブロックチェーン技術が社会に大きな影響を及ぼす基盤になり得ると認識し、イーサリアムの原案といえる「イーサリアムホワイトペーパー」を書き上げた。その抜粋ともいえる「イーサリアム―次世代の暗号資産と分散型アプリケーションのプラットフォーム」の章から、イーサリアムの特徴を示す記述をお届けする。これは2014年1月に「ビットコインマガジン」で公開されたものであり、当時からマイニングを必要としない合意形成方法(プルーフ・オブ・ステーク)への移行を検討するなど、現在への展開が正常進化であることが見てとれる。

イーサリアムを創案したヴィタリック・ブテリン氏。プログラマーであると同時に「ビットコインマガジン」を創刊した著述家でもある(写真:Shutterstock)
イーサリアムを創案したヴィタリック・ブテリン氏。プログラマーであると同時に「ビットコインマガジン」を創刊した著述家でもある(写真:Shutterstock)
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ビットコインに足りないもの

 ビットコインに触発されながらも、その基礎となる技術を通貨にとどまらない目的で使おうとする新たな暗号技術ネットワークともいえる「暗号資産2.0」プロトコルの多くには、共通する設計上の哲学がひとつある。インターネットと同じように、暗号資産の設計はプロトコルを複数の層(レイヤー)に分割するとうまく機能するという考え方だ。この発想に従えば、ビットコインは暗号資産エコシステムにおけるTCP/IPのようなものと考えることができる。そして、メールならSMTP、ウェブページならHTTP、チャットならXMPPというように、ビットコインの上層に次世代のプロトコルを構築することができる。そのすべてが、TCPを共通基盤のデータ層として、その上に成り立つのである。

 ビットコインにおいても、プロトコル(カラードコイン、マスターコイン、カウンターパーティー)は存在し、そのプロトコルを支えているアイデア自体が悪いということではない。アイデアは素晴らしいし、コミュニティの反応を見ただけでも、必要性の高い試みであることは間違いない。問題はむしろ、上位プロトコルの基盤にしようとしている下位プロトコル、つまりビットコインそのものが単にこの目的に向いていないという点にある。

 ビットコインが悪いのではないし、ビットコインの革新性を否定するわけでもない。価値を保存し移動するプロトコルとして、ビットコインは優れている。だが、効果的な下位プロトコルかどうかと考えると、ビットコインではもの足りない。HTTPの基盤にできるTCPではなく、どちらかというとビットコインはSMTPのような存在なのだ。つまり、意図した役割(SMTPの場合はメール、ビットコインの場合は通貨)は十分にはたすが、それ以外の基盤としては、それほど優秀ではないのである。

 ビットコインの具体的な難点は、とりわけ、ある一点に集中している。拡張性(スケーラビリティ)だ。ビットコイン自体は、暗号資産として最大限のスケーラビリティを備えている。たとえブロックチェーンがテラバイト級に膨らんだとしても、「簡易支払い検証」(simplified payment verification:SPV)というプロトコルがある。これはビットコインのホワイトペーパーに記されており、数メガバイト程度の帯域幅とストレージしかもたない「ライトクライアント」だけで、トランザクションの完了を安全に確認できるしくみだ。

 しかし、ビットコイン上に作成されるカラードコインとマスターコインではその余地がなくなってしまう。理由はこうだ。カラードコインの色を判断するには、ビットコインのSPVを使ってその存在を確かめるだけでは済まない。えんえんとブロックチェーンの最初のジェネシスブロックまで遡り、その各ステップでSPVチェックを実行しなければならないのだ。この遡及スキャンは指数関数的に膨らむこともあり、メタコインのプロトコルでは、トランザクションをひとつずつ検証する以外、方法がない。

 この点を、イーサリアムは解決しようとする。といっても、スイスアーミーナイフのように何百もの機能をそろえてあらゆるニーズに応えようとするわけではない。ビットコインに代わる優れた基盤プロトコルとなり、その上に他の分散型アプリケーションを構築できるようにすること、そして多くのツールを提供して、イーサリアムのスケーラビリティと効率性を十二分に生かすことをめざしている。

差異化のためだけではないコントラクト

 イーサリアムの開発中には、暗号資産の上で金融契約を実現することに、かなりの関心が集まった。契約(コントラクト)の基本的な形態は、差金決済取引(contract for difference:CFD)で、2人の当事者が一定の資金を預け入れることに合意し、原資産の額に応じた比率で資金を受け取る。たとえば、アリスとボブがそれぞれ1000ドルを預け入れ、30日後にブロックチェーンによって自動的に決済が処理される。元の1000ドルと、この期間に上昇したライトコイン/米ドル相場の1ドルごとに100ドルずつを合算した金額がアリスに戻され、残りがボブに送金されるのである。こうしたコントラクトに基づいて、人は高いレバレッジで資産に対する投機を行うことができるし、あるいは中央集権的な交換を経ずに、リスクにさらされている資産(エクスポージャー)を相殺することによって、暗号資産の揮発性に備えることもできる。

 だが、実はもっと広い一般的な概念があり、差金決済取引はその特殊なケースのひとつにすぎないことが、この時点で明らかになる。それが、「数式によるコントラクト」ともいうべきものだ。アリスからxドル、ボブからyドルをそれぞれ預かって、アリスにはxドルと、相場上昇分に相当するzドルを合算して払い戻すというCFD方式ではなく、ある数式に基づいて一定の資金を戻す、そんなコントラクトが可能になる。つまり、任意の複雑さのコントラクトが実現するのだ。このとき、数式でランダムなデータの入力を許可すれば、CFDを一般化したこの形は、ピアツーピアによる一種のギャンブルにも利用できることになる。

 イーサリアムは、このアイデアをさらに一歩、前に進めている。イーサリアムにおけるコントラクトは、二者間の合意という形で始まりと終わりがあるコントラクトではなく、ブロックチェーンによってシミュレートされる一種の自律エージェントになっているのである。イーサリアムのコントラクトはそれぞれの内部にスクリプティングコード(注:スクリプト言語で書かれたプログラム)をもち、トランザクションが送信されるたびにそのコードが実行される。

 スクリプト言語は、トランザクションの値、送信者、オプションのデータフィールドにアクセスできるほか、一部のブロックデータとその内部メモリーを入力に利用してトランザクションを送信できる。CFDを作成するとき、アリスはコントラクトを一つ作成してそこに1000ドル相当の暗号資産を割り当てる。次に、同じく1000ドルを含むトランザクションを送信して、ボブがこのコントラクトを受け入れるのを待つ。コントラクトは、タイマーで開始するようにプログラミングできるので、30日後にはアリスまたはボブがこのコントラクトに少額のトランザクションを送信して再開すれば、資金を解放できるようになる。

 このスクリプト言語によって、さまざまなトランザクション(取引)が実現する。例えば、預金口座の管理、先に述べたビアツーピアのギャンブル、独自通貨の作成などだ。

将来的な展望

 イーサリアムには、プログラミング言語としての機能を満たす「チューリング完全」なスクリプト言語が用意されているので、ビットコインのようなブロックチェーンベースの暗号資産で可能なことは、基本的にすべて実行できる。それでも、現状のプロトコルには未解決のままの問題が残っている。たとえば、ブロックチェーンベースのあらゆる暗号資産と同じく、スケーラビリティの根本問題は解決されていない。つまり、すべてのノードがバランスシート全体を格納したうえで、各トランザクションを検証しなければならないのだ。

 またイーサリアムは、電力を大量消費するなど欠点の多い従来型の合意形成方法である「プルーフ・オブ・ワーク」によるマイニングから脱していない(注:本稿執筆当時。2022年9月にプルーフ・オブ・ステークに移行した)。プルーフ・オブ・エクセレンスや、リップル式のコンセンサスも研究はなかばだ。プルーフ・オブ・ステークや、それ以外のプルーフ・オブ・ワークのアルゴリズムが優秀であると証明された場合、今後の暗号資産にはMC2やスラッシャーといったプルーフ・オブ・ステークのアルゴリズムが使われる可能性もある。イーサリアム2.0が登場するとすれば、改良の鍵はこのあたりにあるのだろう。

 最後に言っておきたいのは、イーサリアムが終わりのないプロジェクトだということだ。十分な資金が集まれば、私たち自身がイーサリアム2.0をリリースすることになり、元の残高を改良後のネットワークに持ち越せるかもしれない。イーサリアムの標語にもあるとおり、限界があるとすれば、それは私たちの想像力だけなのだ。

イーサリアムを弱冠19歳にして創案し「若き天才」と称されるヴィタリック・ブテリン。プログラマーかつ著述家としてブロックチェーンのあり方を追い続けてきた彼が、イーサリアムをはじめとする暗号資産の目的、役割、機能、有用性、可能性について記した著述をまとめた1冊です。イーサリアムを基盤とするDAO(分散型自律組織)やNFT(非代替性トークン)、DeFi(分散型金融)といった「Web3の真価」を理解する上で、大いに示唆に富む考察が満載です。

ヴィタリック・ブテリン(著)、ネイサン・シュナイダー(編)、高橋聡(訳)、日経BP、2420円(税込み)