その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は道垣内弘人さんの『 リーガルベイシス民法入門 第6版 』です。「はしがき」をお届けします。
【第6版のはしがき】
入門書である本書の主目的は,読者に民法の考え方を伝えることであるが,定められているルールの内容を最新の立法に対応させることも重要である(なお,本書の目的については,ぜひ『ゼミナール民法入門』初版はしがきに目を通してほしい)。そして,近年も民事関係の立法は続いている。具体的には,第5版出版後,離婚時の子の養育等についての民法改正(2024年),動産・債権の担保制度についての新法の制定(2025年),建物区分所有法の改正(2025年),さらに,2026年に,成年後見制度,および,遺言書形式要件に関連する改正が行われた。そこで,これらの法改正・新法制定に対応した改訂を行った。また,特定受託事業者に係る取引の適正化に関する法律(フリーランス法),中小受託取引適正化法(取適法),二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)のような近年の社会状況の変化に適応するための立法にも言及した。文章や構成を練り直したことはもちろんである。
第5版までと同様,多くの読者に迎えていただければ幸いである。
日経BPの渡辺一さんには,第6版の出版にあたっても様々なお世話になった。ていねいに全体を検討してくださり,様々なご指摘をいただいたが,今回は,ちょうど校了になる時期に,私が在外研究のためスコットランドに滞在しており,いつもよりもいろいろなお手間をとらせてしまった。2002年に本書の前身である『ゼミナール民法入門』を出版して以来,本書を一緒に育ててくれた相棒である渡辺さんには,心から感謝したい。
2026年7月
道垣内 弘人
【『ゼミナール民法入門』初版はしがき】
基礎的なことをていねいに
本書は,法律を初めて学ぶ人にも理解できるように,基礎的なことをていねいに説明した民法の入門書である。「基礎的」とか「入門書」とかというと,レベルが低いと思われるかもしれないが,そうではない。
これまで,民法の入門書というと,「民法にはこんな条文があります。民法を適用するとこういう解決になります」という知識ばかりを羅列したものが多かった。これでは無味乾燥で,最後まで読み通すことは難しい。そこで,本書では,身近な例をたくさん引くとともに,「なぜそうなっているのか」を日常の言葉でていねいに説明することに力を注いだ。何冊にもわたる大部の本でも,これまで,こういった説明は不十分なものが多く,そのため,本書では,通常の教科書類には書かれていない叙述がかなり増えることになった。しかし,そうでなければ「入門書」ではありえない。法律のシステムに慣れている人に細かい知識を伝えることを目的とするのではなく,慣れていない人を民法の世界に誘うことが必要なのだから。
そして,実は,「なぜそうなっているのか」を理解しておくことは,あまり民法になじみのなかった人が知識を定着させるためにも,また,法律問題の第一線に立ってバリバリと活躍している人が新しい問題を考えていくためにも,重要なのである。
「詐欺による意思表示の取消は,取消前の善意の第三者に対抗できない」──これをこのまま覚えようとするならば,高校時代に世界史の年号を覚えたのと同じ苦労を背負い込むことになる。「なぜそうなっているのか」を理解するほうがよほどたやすいし,理由さえ理解しておけば,その場で考えても,結論を出すことができる。
また,法律問題の第一線で活躍する人たちに与えられる問題は,決して教科書に直接に解答が載っているようなものではない。「ある従業員のある具体的な行為について,会社が責任を負うことになるのか」を判断するためには,民法の制度が「なぜそうなっているのか」を理解し,それに照らして,その制度の射程がその事案に及ぶものなのかどうかを「考える」ことが必要なのである。
右に述べた以外の本書の特徴を,いくつか具体的に挙げておこう。
- 法律を初めて学ぶ人にも,無理なく読み進められるように,第一章「民法を学ぶ前に」として,法学入門を置いた。基礎の基礎のところではあるが,法学部の卒業生でも意外にきちんとわかっていない人が多い。
- 身近な例を豊富に挙げ,実際の判決例からも,わかりやすく現代的なものをピックアップして説明した。専門用語でごまかすことはしないで,平易な言葉で説明するように努めた。少しでも難しいかもしれない漢字にはふりがなを振った。コラム欄では,肩の凝らないエピソードも紹介した。
- 学問的議論の最前線にある問題や,消費者保護,電子マネー,債権流動化など現代的な問題にも積極的に触れた。その意味でも,レベルは落としていない。
- 民法以外の法律も,必要とあらば,かなりていねいに説明した。現実の法律問題は,民法の適用だけで解決がつくわけではなく,商法,民事訴訟法,行政法など,様々な法律が入り組んだかたちで発生する。
- もっとも,民法のうち,親族編・相続編は扱わなかった。全体の頁数等を配慮したのだが,読者の要望があれば,改訂の折りにでも補足したいと考えている。
筆者は,これまで様々なかたちで民法や法学入門の講義を行ってきた。極端な場合は,五時間で民法全体を講義してくれと頼まれたこともある。短い時間で民法全体を講義するのは,正直言って,気が進まなかった。しかし,その時間内で,いかに民法全体を理解してもらうかについて工夫を重ねたことが,本書のバックボーンとなった。その意味で本書は私の一つの総決算である。しかし,こうやって民法全体について執筆してみて,わかった点,とくにわかっていないということがわかった点も多い。今後,それらについては研究を進めていかなければならない。その意味で本書は私のこれからの出発点でもある。
日本経済新聞社出版局編集部の西林啓二さん,渡辺一さんには,本書の出版にあたって様々な配慮をいただいた。畏友,大村敦志教授には,いつもながら,草稿を通読していただき,いろいろなご教示をたまわった。深く感謝したい。そして,これまで私に講義のチャンスを与えてくださった諸機関,ならびに,聴講してくださった方々にも,お礼を申し上げたい。
2002年5月
道垣内 弘人
【目次】






