2026年9月、作家の柚木麻子さん、朝井リョウさん、タレントのでか美ちゃんさんによる書籍『
柚木麻子・朝井リョウ・でか美ちゃんの宇宙のどこにも見当たらないようなハロプロの話を50万字しよう
』(シーディージャーナル)が発売されます。同書は、音楽雑誌『CDジャーナル』で2015年から10年以上続く連載を書籍化したものです。
3人は「柚木麻子with Journal2」というユニット名で、ライブ活動もされています。でか美ちゃんさん主催フェスでのパフォーマンスに向けた練習に力が入る都内某所のダンススタジオで、詳しいお話を聞きました。対談連載開始当時の暴走ぶりや、でか美ちゃんさん加入で変わっていった連載の空気を、3人で振り返っていただきました。パフォーマンスさながらに息のそろったお三方の思いがあふれる内容を4回に分けてお届けします(今回は1回目)。
「暴走の記録」を泣きながら直す作業
朝井リョウ(以下、朝井):『CDジャーナル』で計10年以上続いた連載「ハロプロの行間を徘徊する」&「流れる雲に飛び乗ってハロプロを見てみたい」が、ついに本になります。でも、「ついに本に!」という喜びというより、「これが書籍という形で世に放たれるのか……」という不安のほうが大きい。この連載は最初、柚木さんと私の2人で始まったのですが、ハロー!プロジェクトについて我々が耕せる畑は全部耕したと思えるくらい話したんですよね。
柚木麻子(以下、柚木):ほんと、もう話せることは何もないっていうくらいまで、よく10年以上も喋ってきたよね。
朝井:いい意味で秘密基地みたいな、こっそり存在する遊び場みたいな認識だったので、正直、本にするのが今でも怖いです。
柚木:私のほうが8歳上だけど、朝井さんとは作家デビューした年が一緒なんだよね。私は『終点のあの子』(文藝春秋)で2010年にデビューしたんだけど、当時はいわゆる“連作短編大航海時代”だった。その年は、朝井さんの『桐島、部活やめるってよ』(集英社)や、窪美澄さんの『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)など、いろいろな話題のデビュー作が次々に出て本当に大変な年だった。
それがきっかけで朝井さんと仲良くなって、2人ともハロー!プロジェクトが大好きだったから、「じゃあ対談でもやってみようか」っていう、出来心みたいな感じで始めたんだよね。
その一方で、私は最初、短編のつもりで書いた作品が賞をいただいて、「これ、長編にできるよね」って言われちゃったんです。もともとモブくらいの扱いだったキャラクターを、慌てて膨らませる羽目になったりして。今思えば、それも“連作短編大航海時代”ならではの洗礼だったんだなって思います。当時の私たちは、そういう戸惑いや不満をいろいろ抱えながらやっていたんだよね。
朝井:不満と、あと自由があったんだよね。
柚木:そう。だから、過去の連載を読み返すと、ものすごくとげとげしいんですよ。
朝井:暴走機関車が2台。
柚木:連載開始当初の写真もやばいよね。朝井さんなんてまだ大学生くらい?
朝井:最初は私がまだ会社員で、25歳とかだったかな。
柚木:私は当時30代前半だったから、大人のつもりだったけど、今見ると、“ガキンチョ”2人が「これでお金もらえるの?」って顔をしてて、もう見ていられない(笑)。
朝井:自分たちの発言の影響とか全く考えてなかったよね。だからこそ今より自由で、乱暴で、当時の対話には異常な賑やかさというか熱があった。
柚木:ハロプロにもいろんな時代があるけど、ちょうど私たちが連載を始めた2015年頃は、実力派としてライブで魅せていく時期から、だんだんメディアにも出てくるようになっていく時期だった。その変化を明らかに自分たちに重ね合わせて、いいように解釈しては、2人で大はしゃぎしてたんだよね。その後、ハロプロの創始者であるつんく♂さんと対談したことで、内側が見えてきたりして、だんだん私たちも大人になっていく。
朝井:中には、メンバーの方でこの連載を知ってくれているという人も出てきて、自然とブレーキがかかっていって。まあ、そのブレーキは最初からかけるべきだったんだけど。
柚木:そんなときに、でか美さんっていう、演者として内側にも入れるし、客観視もできる素晴らしい人材が加わって、私たちは非常にまともになっていきます(笑)。我々2人、でか美さんにお世話してもらってる。
でか美ちゃん(以下、でか美):いやいや…。
朝井:連載を時系列で見返すと、前半は、私たち2人の暴走が本当にひどかった。今回、本にするために泣きながら書き直したけど、私は悪夢まで見ました。
柚木:読み返したら私もメンタルがやられた(笑)。当時、ちゃんと世に出したものだったのに、こんなに粗かったんだなと思って。でも、この作業を通して発見もあった。自分たちの10年を振り返ると、朝井さんのいろんな作品の“種”みたいなものが、昔の対談の中に既にあって、それがすごく面白かった。
朝井:それでいうと、柚木さんは本当に昔から主張していることに一本筋が通っていて、その変わらなさに感動したよ。時代が変わっても柚木さんは変わらない。そのブレなさ、一貫性がすごかった。
でか美:直す前も読んでるけど、たしかに柚木さんは変わらないです。
柚木:私は過去の自分に「頼むからもう喋るな!」って思いながら直してた。
朝井:私も。こんなの初めての体験だったよね。
でか美ちゃん加入で「まとも」になれた
柚木:でか美さんが参加してからは、私たちが「ゴーゴー!」って暴走しているところを、「ちょっと話、戻しましょうか」みたいな感じで軌道修正してくれて。でか美さんが来てから連載もすごく読みやすくなった。
でか美:私、ずっと不安だったんです。私が対談メンバーに入ったことで、「守りに入った連載になっちゃったな」って2人に思われるのが嫌で。でもそれは時代が発言を慎重にさせたというより、もともとの私の性格からなんです。ハロプロのメンバーが読んでいてもそうじゃなくても、「ここまではいいけど、これは言っちゃダメだろう」という線引きが人より強いんですよね。ただ、書籍化するにあたって読み返したら、「あ、あのとき直しておいてよかったな」と思えました(笑)。
朝井:ありがとう。
柚木:本当にありがとう。
朝井:私と柚木さんは、この連載を2000年代の深夜ラジオくらいに思ってましたからね。多くの人の目に触れない、“バレない”場所みたいな。
柚木:でか美さんって演者側にもなれるし、語る側の視点も持てる人なんだよね。でか美さんが入ってくれたことで強制されたわけじゃないけど、人を傷つけるようなことを絶対言わなくなった。それは、でか美さんのおかげだと思ってる。
でか美:「絶対」ではないですね。
柚木:ごめん、「絶対」ではない。さっき朝井さんも言ったけど、「紙媒体だからそんなに拡散されないよね」っていう、どこか甘えみたいなものもあったんだよね。実際、読者ハガキとかの感想も全然届かなくて(笑)。
朝井:プロに写真も撮ってもらって話したことが記録にもなってうれしいね〜! っていう意識レベルでした。低すぎ。
小田さくらさんとの鼎談で出た「答え」
朝井:さっき柚木さんも言っていたけど、私と柚木さんって、根拠のない妄想を勝手に喋ったり、それを現実の人間にぶつけちゃうことも多いんです。でか美さんが加わって3人になってからは、そのバランスが少しは取れるようになったんじゃないかなと思います。
でか美:とはいえ私も、現実の人に妄想をぶつけてしまう楽しさは持ち合わせていて。書籍化にあたって、朝井さんが一番好きなメンバーだという小田さくらさん(モーニング娘。’26)と鼎談(ていだん)させてもらったんですよね。そこで、「他者にいろんな思いを勝手に抱いていいのか?」という、この連載でずっと考えてきた問いに一つの答えが出たんです。そこはぜひ、本で読んでほしいなと思います。
朝井:小田さんとの鼎談は、本当に、凄まじい時間でした。
でか美:ハロプロのオタクって、「人間を推してる」自覚を持っている人が多い気がするんです。しかも今、何かを推している人ってジャンル問わずたくさんいますよね。今回の私たちの本は基本的に、ハロプロが好きな人が手に取ってくださる本だと思うんですけど、小田さんとの鼎談やつんく♂さんとの対談だけでも、他の界隈のオタクの皆さんにも読んでもらえたらうれしいです。
今は“推し活ブーム”なんて言われますけど、「推す」こととの向き合い方については、割と共感してもらえるんじゃないかなと思います。
(第2回に続く)
取材・文/金澤英恵 写真/鈴木愛子 撮影協力/BUZZ新宿4丁目スタジオ





