怒っていたり、感情的になっていたり、攻撃的な言葉を使う人と接して、消耗してしまった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。相手からの理不尽な文句や悪意は、上手に受け流すことが大切、と指摘するのはシリーズ累計29万部の『 「聞く力のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。 』(日経BP)の著者で、自らもプロのライターとして豊富な取材経験を持つ藤吉豊さんと小川真理子さんです。なぜ受け流すほうがいいのか、そしてどうすれば不必要なダメージを受けずに対応することができるのかを、上記の新刊から抜粋して解説します。1回目は、感情的な人や怒りをぶつけてくる人の心理状態と巻き込まれないための対応法です。
聞く力ランキング4位は「話し手の『怒り』から距離を取る」こと
ときには、怒っていたり、感情的になっている相手から話を聞かなければならないときがあります。
怒っている相手と向き合う場面は、誰にとっても緊張するものです。理不尽な不満をぶつけられたり、強い怒りを向けられたりすると、多くの人は反射的に身構えます。
言い返したくなる。弁解したくなる。
そう感じるのは自然な反応です。
しかし、相手の怒りに怒りで返せば、会話はぶつかり合いになります。
相手の怒りを正面から受け入れると、必要以上に傷ついてしまいます。大切なのは、改善につながる「指摘」と、受け流してよい「文句(悪意)」を区別することです。
怒りをぶつける人に見られる心理状態
聞き方の名著100冊を読むと、怒りをぶつけたり、攻撃的な言い方をする人は、次のような心理状態にあることがわかりました。
●相手を批判することで、自分のストレスを発散したい
不満の原因が目の前の相手ではなくても、言いやすい相手に感情を向けてしまう状態です。
●傷つきそうな感情を隠すために、強い態度をとる
本当は傷ついているのに、弱さを見せたくなくて、先に相手を責めてしまう状態です。
●不安や恐れをごまかすために攻撃的になる
自信のなさや弱さを悟られないように、強い言葉で自分を守ろうとする状態です。
●自分にとって都合の悪い現実から目をそらしたい
自分の非を認めるのがつらいため、相手の問題にすり替えてしまう状態です。
●相手を肯定する理由より、否定する理由が先に浮かぶ
物事を減点方式で見てしまい、相手のよい面よりも欠点に意識が向きやすい状態です。
精神科医の片田珠美さんは、攻撃的な人の心理について、次のように述べています。
「攻撃的な彼ら彼女らの心理を分析してみると、その正体はもちろんモンスターではない。
あなたと同じ人間、それどころか、攻撃を受けている側よりも、ずっと弱い面を持った人たちなのである。
そう、攻撃する人ほど、恐れ、不安を抱いており、弱い面がある。だからこそ攻撃せずにはいられない――これは必ず知っておいていただきたいことだ」(『賢く「言い返す」技術』/三笠書房)
怒りの奥には、不安・恐れ・焦り・傷つきたくない気持ちが隠れている場合もあります。すぐ反応し、受け入れるのではなく、「相手は今、どんな状態なのか」を冷静に見ることが大切です。
僧侶の小池龍之介さんは『考えない練習』(小学館)で、相手が批判的な言葉を口にするときには、
「こちらを批判することやおとしめることによって解消したいストレスがある」
と述べています。
「相手が良からぬことを口にした時には、現実の情報を明晰に分析しますと、批判している当の本人が自らの煩悩ゆえに報いを受けていることが洞察できるでしょう。この人は無意識的には苦しんでいるのだなと思うことで、こちらにも余裕が生まれます」
怒っている相手の話は、相手の感情と話の内容を分けて聞く必要があります。
感情的にならないほうがいい理由
怒っている相手を前にしたとき、聞き手がまず意識したいのは、自分の感情が相手の怒りに引きずられないことです。
相手が強い言葉を使っているからといって、聞き手も強い言葉で返す必要はありません。相手の声が大きいからといって、こちらまで声を荒らげる必要もありません。
聞き手が感情的にならないほうがいい理由は、大きく2つあります。
(1)「話し合い」ではなく「感情のぶつけ合い」になるから
相手の怒りに怒りで反応すると、会話の目的が、解決ではなく対立に変わります。
お互いが「何を伝えるか」より、「どう言い負かすか」に意識が向いてしまい、確認すべき事実や問題点が見えなくなります。
(2)自分自身が冷静な判断力を失うから
感情的になると、人は「相手の言葉」よりも、「自分に向けられた怒り」に反応します。相手の言葉の中身よりも、「責められた」「攻撃された」という感覚のほうが強くなるからです。
その結果、耳を傾けるべき指摘まで拒絶したり、逆に必要以上に傷ついたりします。「相手は何を言っているのか」ではなく、「こんな言い方をされた」という反発心が前に出るのです。
自分まで感情的にならないための3つの工夫
では、どうすれば相手の怒りに巻き込まれずにすむのでしょうか。大切なのは、自分の反応を整える方法を持っておくことです。
(1)自分の「怒りのスイッチ」を知っておく
怒りのスイッチとは、自分が感情的になりやすい言葉や態度のことです。
聞き手によって、感情を刺激される言葉は違います。「上から言われると腹が立つ」「否定されるとムキになる」「急かされるとイライラする」など、自分の反応パターンを知っておきましょう。
自分のスイッチがわかっていれば、「今、自分は腹が立ち始めているな」と早めに気づけます。それだけでも、感情に流される前にブレーキをかけやすくなります。
(2)「否定される可能性」を想定しておく
自分の企画や意見を「絶対に認められるはずだ」と思い込んでいると、少し否定されただけでも感情が揺れます。精神科医の和田秀樹さんは、「絶対に大丈夫」といった思い込みを持たないことが、相手の怒りに必要以上に反応せず、巻き込まれないための思考法だと述べています。
「どんなに自信のあるプランでもそれがそのまま通る可能性は一〇〇パーセントではありません。(略)部分的な修正を加えれば通る可能性なら八〇パーセントぐらいまで上がってきます。
そういったことを、もし最初から想定していればどうなるでしょうか?
上司に欠点を指摘されたり、修正を命じられても想定内ですね。『まあ、これぐらいはいわれるだろうな』と余裕をもって応じることができます」(『感情的にならない本』/ PHP 研究所)
(3)声を小さく、ゆっくり話す
怒っている相手を前にすると、聞き手の声も大きくなりがちです。声が大きくなるほど、自分自身の感情も昂(たかぶ)ってしまいます。相手を抑えようとして声を張り上げれば、かえって相手の反発を強めてしまうことにもなりかねません。反対に、声のトーンやボリュームを抑えると、まず自分の感情が落ち着いてきます。
自分の声の調子は、相手の感情にも影響を与えます。大きな声には大きな声が返り、落ち着いた声には落ち着いた反応が返ってきます。声のトーンを下げることは、自分と相手、双方の怒りを鎮(しず)めるための聞き方の技術です。
心理カウンセラーのレス・ギブリンは、オハイオ州・ケニオン大学言語研究センターとアメリカ海軍の共同研究で明らかになった「聞き手は話し手の声の調子の影響から逃れることができない」という結果を根拠に、相手の怒りを鎮める方法を提案しています。
「一触即発の状況に置かれたら、意識的に声の調子を下げよう。そうすれば、相手の声の調子を下げることができる。相手は声の調子を下げているかぎり、感情的になりようがない。相手が怒ってからだと手遅れになるかもしれないが、相手が怒る前にこの方法を使えば、相手が怒りを爆発させるのを未然に防止することができる」(『人望が集まる人の考え方』/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
藤吉豊、小川真理子(著)/日経BP/1760円(税込み)

