その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」をご紹介します。今日は稲盛和夫さんの『 アメーバ経営 新装版 ひとりひとりの社員が主役(日経ビジネス人文庫) 』です。「アメーバ経営――文庫版の発刊にあたって」をお届けします。
【アメーバ経営――文庫版の発刊にあたって】
百年に一度と言われる金融危機以来、日本経済は回復傾向にはあるものの、激動する世界経済のなか、依然、予断を許さない状況にある。さらに、中国、インドなどに代表される新興国の台頭により、グローバルな市場競争は厳しさを増す一方である。
日本経済がその輝きを取り戻すためには、大企業はもとより中小企業に至るまで、全社一丸となって戦える強い組織体制をつくりあげ、企業体質を一段と強化することが求められている。
そのような折に、二○○六年に出版した『アメーバ経営』を文庫本として発刊をしたいという依頼を日本経済新聞出版社からいただいたことは、大変時宜を得たことであると思い、よろこんでお引き受けすることにした。
会社経営に携わるようになってから、私は、従来からのオーソドックスな経営管理のあり方に疑問を感じていた。大企業のように複雑化した組織をトータルで管理しようとすれば、組織の末端にある現場にまで目が行き届かず、「大企業病」と呼ばれるさまざまな弊害を引き起こすため、企業の収益性は低下せざるを得ない。
一方、私が経営の実体験のなかで創り出した「アメーバ経営」は、大きな組織を独立採算で運営する小集団に分けて、その小さな組織にリーダーを任命して、共同経営のようなかたちで会社を経営する。
このような経営手法を用いれば、会社の隅々にまで目が行き届き、きめ細かな組織運営がおこなえるようになるので、それまで収益性が低迷していた会社でも、想像もつかないほどの高収益企業に変身することができる。
アメーバ経営では、会社の経営方針のもと、アメーバリーダーにその経営が任されている。リーダーは小さな組織の経営者として、上司の承認を得ながら自ら経営計画を立て、実行の任にあたる。そのため、アメーバ経営では、経験は短くても経営者意識にあふれるリーダーを育成することができる。
そのリーダーが中心となり、アメーバの構成メンバーは、自らの目標を立てて、それぞれの立場で目標達成に向けて最大限に努力する。その結果、全員が目標達成に向けて力を結集する「全員参加経営」が実践できるのである。
つまり、アメーバ経営とは、組織を小集団に分け、市場に直結した独立採算制により運営し、経営者意識を持ったリーダーを社内に育成すると同時に、全従業員が経営に参画する「全員参加経営」を実現する経営手法なのである。
このように「経営を成功に導くための管理会計」として、私はアメーバ経営を進化させてきた。京セラが多角化をおこない、グローバル化を進めるなかで高収益経営を続けることができたのは、アメーバ経営を実践してきたおかげである。
また、私が徒手空拳で創業した第二電電(現KDDI)でも、アメーバ経営に基づく「部門別管理会計システム」を構築してきた。そのことが、環境変化の激しい通信業界においてKDDIの経営判断を的確なものとし、同社発展の原動力となっている。
さらに、京セラ関連会社によるアメーバ経営コンサルティングを受けた会社は、いまでは約四百社に及び、大いに業績を伸ばしている。これらの実例が示すように、アメーバ経営を真摯に学び、実践していけば、企業の経営体質は飛躍的に向上するものと確信している。
なお、本書は一九九八年に上梓した『稲盛和夫の実学 経営と会計』(日本経済新聞出版社刊)の第二弾として、私の経営学の根幹をなす経営手法を明らかにしたものである。
長年にわたり私が創意工夫を重ねてきた「アメーバ経営」の真髄である本書を、さまざまな組織で活躍するリーダーや経営管理、会計に携わる方々にお読みいただき、自らの組織の活性化に役立てていただければ、望外の喜びである。
日本の会社や組織が、アメーバ経営の手法を用いることでさらに発展し、そこで働く人々が生きがいのある幸福な人生を送ることを心より祈念している。
二○一○年一〇月
稲盛 和夫
【目次】




