介護未満の父に起きたこと 』(新潮社)の著者のジェーン・スーさんと、『 家族みんなが楽になる!親にスマホをもっと使ってもらう本 』(日経BP)の著者の増田由紀さんによる対談第2回。今回のテーマは、親子だからこそ難しい「介護の距離感」についてです。親子だとつい手出しをし過ぎたり突き放したりして、適切な距離感を保ちにくいもの。ともに80代後半の親を持つお二人は、どのようにバランスを取っているのでしょうか。うまくいくコツを教えてもらいます。

本音のコミュニケーションはあきらめる

前回は、国が定める「要支援」や「要介護」の前に、「要観察」という段階が必要なことについてお話しいただきました。今回は、高齢の親との向き合い方や、頼り・頼られる関係の保ち方についてお聞きしたいと思います。

増田由紀さん(以下、増田) 私は、シニア向けのスマホ・パソコン教室を開いていることから、よく「どうしたらイラッとせずに親に教えられますか?」「ケンカしない方法はありますか?」と聞かれるんですね。その都度、「あまり親だと思わないことです」と答えています。

 私自身、自分の親にスマホの操作を教えるときは「お客様」だと思うようにしています。親子だと、どうしても遠慮がなくなってしまうからです。

 母はしつけがとても厳しく、礼儀にうるさい人でした。それなのに、私に対してはこちらの都合もお構いなしで、思い立った瞬間に聞いてくる。ああ、こういうところで親子でケンカになるんだろうな、と分かるんです。だから、「目の前にいるのはお客様だ」と思うようにしています。

左:増田由紀さん、右:ジェーン・スーさん
左:増田由紀さん、右:ジェーン・スーさん
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増田 由紀
2000年から千葉県浦安市でシニアのためのスマホ・パソコン教室を運営、2020年より完全オンライン教室に移行。「“知る”を楽しむ」をコンセプトに、これまで1万5000人を超えるシニア世代に、スマホの魅力と使い方を指導。シニア世代でもわかりやすいスマホの解説には定評があり、自治体や企業主催のセミナーで講師を務めるほか、新聞や雑誌でも活躍中。著書に『世界一簡単!70歳からのスマホの使いこなし術』(アスコム)、『いちばんやさしい 70代からのiPhone』(日経BP)などがある。

ジェーン・スー
1973年東京生まれの日本人。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』(毎週月~木曜 午前11時~)のメインパーソナリティを担当。ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』(毎週金曜配信)、『となりの雑談』(毎週火曜配信)のパーソナリティも担当している。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で、第31回・講談社エッセイ賞を受賞。近著に『介護未満の父に起きたこと』(新潮社)、『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)、『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)。

ジェーン・スーさん(以下、スー) 他人ではなくて親子の歴史があるから、複雑な気持ちにさせられるんですよね。

増田 自分の養育者だった親に教える、という立場が逆転する難しさも感じます。

スー 私も、父とはビジネスライクに接することに努めていて、試行錯誤の結果、あるときから父のケアを「終わらないフジロックフェスティバル」だと思うことにしました。それまでの経験則から、「つらいときほど面白くしたほうがしのぎやすい」と分かっていたので。父は往年の海外一流アーティストで、例えるならばローリング・ストーンズのミック・ジャガー。私は招待した側のイベンターで、「公演を成功させればそれでよし」という立場です。

増田 『 介護未満の父に起きたこと 』でも書かれていましたが、その距離感は、究極のビジネスライクに徹することができそうですね(笑)。

スー 父は痩せていて、本人も体重の減少を気にしているんですね。私も、毎日食事内容を写真で送ってもらって栄養バランスをチェックしていましたが、なかなか太れずで。そこで「ちゃんと食べてるの?」とか「だから食べろって言ったじゃん!」と言ったらケンカになるわけです。よそさまの親だったら絶対に言わないことですよね。ましてや相手がミック・ジャガーならなおのことです。「それはおつらいですね」とねぎらいの言葉をかけるに違いありません。だから父に対しても、父の気分を良くすることを優先するようにしたんです。

 ある意味、本音を言う本当のコミュニケーションをあきらめたわけです。互いの気持ちをぶつけ合って処理できるのは、きっと子どもが成人するまででしょう。父も、私に怒られると思ったら、何も話さなくなりますからね。それを回避するためにも、父には「小分けにして食べるといいかもね」「痩せたことを気にし過ぎないほうがいいよ」と言っています。

親を一度「他人化」する

スー 父の気分を良くすることを優先しようとしても、あまりに態度が悪かったときがあって、一度だけギブアップしました。コロナ禍で、ワクチンを接種してほしいのに「打たない」と言い張られて、「私、もう疲れちゃったから好きにして」と。父は驚いて目を丸くしていました。

増田 そのとき本音を言ったのは、スーさんご自身の心を守る上で必要なことだったんでしょうね。

「根底にあるのは、やっぱり不安なんです」
「根底にあるのは、やっぱり不安なんです」
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スー それで2カ月ぐらい連絡を取らないでいました。なぜ、父にあんな言い方をしてしまったのか。根底にあるのは、やっぱり不安なんですよね。自分が頼りにしていた親が頼りにならなくなってしまって、どうしよう。私が責任を持たなければいけないのに、ちゃんとできる自信はない。そんな不安を怒りにして親にぶつけるというのは、あまりに子どもっぽいことで。まあ、親と子には違いないんですけれど、ここはいったん「親を他人化する」必要がある、という考えに至りました。

増田 親子のように関係が近いと、ビジネスライクに接しようと思っていても、できないときがあるものですよね。私は「他人化する」というほど冷たい感じではありませんが、一定の距離を保ってぶつからないように努めています。

スー 私は冷たい感じです(笑)。ただ、面白いことに、あえて冷たく接するようにしてからのほうが、父から「優しい娘だ」と言われることが増えたんです。きっと、怒られないで済むからでしょうね。私が父のためを思って、ああしたほうがいい、こうしたほうがいいと言うことは、父にとっては口うるさいことで、プレッシャーだったのかもしれません。

 まめに連絡を入れて、「調子はどう?」「足りないものはない?」と聞くことも、父は監視されているように感じていたのかもしれません。私としては、「父にも野垂れ死ぬ権利がある」という、ある種の諦観を持っただけなんですが、父にとってはそれがいいあんばいのようで、しめしめと思っています。

「よかれ」と思ってやってあげ過ぎない

増田 私も、代わりにやってあげ過ぎるのは良くないと思っています。「ここを押して、次はこれ」と先回りして教えるのが、いちばん親切なようでいて、実は残らないんですね。その場ではできても、1人になったときにまた分からなくなってしまう。

 ですから私は、答えを言わずに聞くようにしています。「画面をよく見て。何て書いてある?」「じゃあ次、どうすればいいと思う?」と。自分で画面を見て、自分で決めてもらう。時間はかかりますが、そうやって覚えたことは残ります。

 スマホを使いこなせないからといって、子ども扱いするのは違いますからね。何から何までお膳立てすると、本人の能力が落ちるとも思うので。だから、過度に手を貸さないようにして、「自分でやってみて」と本人がやるように促しています。

スー 転ばぬ先の杖と思ってやってあげると過剰介入になって、もめる原因になりがちですよね。仕事と違って、よかれと思って先回りしたことが裏目に出やすいのが介護です。

増田 正直、私がやったらすぐ済むことも多いんです。だから、手が出そうになります。そのほうが楽ですし……。でも、それでは母が自分で使えるようになりません。「頼むからお願い、頑張って。あなたならできる!」と、心の中で祈りながら隣に座っています(笑)。親がスマホを使えるようになることは、親自身の自立した生活の支えになります。さらに、趣味や興味を広げるきっかけにもなり得て、日々の楽しさにもつながります。

 だから、その芽を摘まないように見守っていよう、と。親を甘やかさないようにする、という言い方は適切ではないかもしれませんが、親自身ができたほうが絶対いいですし、子どもの私にとっても絶対いい。親がスマホを使えるようになるのは、未来の私に対する投資でもあると思っています。

『家族みんなが楽になる!親にスマホをもっと使ってもらう本』でも「親のスマホは未来の自分への投資」と語られる
『家族みんなが楽になる!親にスマホをもっと使ってもらう本』でも「親のスマホは未来の自分への投資」と語られる

スー ひたすら我慢する気持ち、私も先回り癖があるのでよく分かります。過去に、何度先回りして失敗したことか……。

増田 母ぐらいの年代の方は、「具体的に説明する」のが苦手なことも多いんですね。スマホの用語はカタカナや略語ばかりですから、説明したくても名前が出てこない。それで「あれよ、あれ。ほら……えーっと」となる。本人は説明しているつもりですから、私も相当想像力を働かせて聞いています。

 80代後半ですから、言いたいことを言葉にするのに時間がかかるのは自然なことです。ですから、何を言おうとしているのか、じっと聞きます。聞きながら、「これが自分の未来の姿かな」なんて思うこともあります。

 それでも、数年先に同じことを教えるとなったら、今よりもっと難しくなるかもしれません。だから、聞かれた「今」がチャンス。できるようになってくれたらラッキー、くらいの気持ちで付き合っています。

(第3回に続く)

取材・文/茅島奈緒深 構成/西 倫英(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか

スマホの教え方にも、コツがある

帰省のお供に! スマホに苦手意識があるシニア世代を、家族の立場から支えるプロのサポート術を紹介。実際に教室であった「あるある」なエピソードをもとに、スマホを使うのが楽になるポイントを解説します。

増田由紀著/日経BP/1870円(税込み)