その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はボストン コンサルティング グループ(編)の『 BCGが読む経営の論点2027 』です。「序章の一部」をお届けします。

【序章】

2027年に押さえるべき経営トレンドと組織能力

 本書は、2027年時点で、経営者やビジネスリーダーが考えるべき8つの重要論点を提示している。いずれもBCGとクライアントが協働する現場で培われた知見にもとづいており、単なる理論・コンセプトではない。前半の4章で日本企業にとって次の成長機会となり得るフロンティアを取り上げ、後半の4章で変化の時代を乗り切るために必要なケイパビリティ(組織能力)について考察する、というのが本書の大きな構成である。

 第1章では新技術として話題となっているフィジカルAIを取り上げる。これまでITやソフトウェアをめぐる競争で米国や中国に先行を許してきた日本にとって、AIが実世界で判断・行動するフィジカルAIは、ものづくりの強みを生かせる新たな領域になり得る。労働力不足や高齢化など、日本が一足先に直面する課題を解決する実験場となり、その施策を世界に展開することで市場そのものをつくり出す道も開かれている。官民連携でエコシステムを構築できれば、日本再逆転の一手になる。

 第2章ではAIエージェントの登場による消費者の購買行動の変化に着目する。消費者に代わってAIが情報収集、比較、選択を行う新たな購買のあり方「エージェンティック・コマース」が普及すると、人間は緩やかなニーズを伝え、あとは購買の最終承認だけを行うことになる。AIエージェントが顧客との主要な接点になる世界は消費財メーカー、小売業、卸売業すべてに大きな戦略転換を迫る。顧客接点を自らつくるのか、あるいはAIに継続的に選ばれる存在になるのか、経営トップの構想力が問われている。

 第3章ではエネルギー・資源安全保障強化の潮流に企業はどう向き合うべきかを考察する。2026年、ホルムズ海峡封鎖とレアアースの供給途絶という2つの地政学リスクが同時に顕在化した。企業はこれらを一過性の有事ととらえるのではなく、中長期的な変曲点だと見るべきであろう。自社が持続的に成長するための戦略ポジションを見いだし、同時に他社に依存しすぎない供給構造を平時から構築することが不可欠となる。

 第4章では宇宙産業を取り上げる。米スペースXの上場に代表されるように、宇宙産業は民間主導の商業エコシステムに移行しており、世界で最も成長期待の高いフロンティアのひとつとなっている。しかし、日本企業の間ではまだ、宇宙は自社と縁遠いテーマと考えるケースが多い。宇宙産業の裾野の広さ(特に川下のサービス領域)と、長期的なインパクトの大きさに目を向け、急ピッチで拡大するこの産業との接点を多面的に探る姿勢が求められる。

 第5章ではミドルマネジメント(中間管理職)の役割の進化について考察する。元来、優秀なミドルマネジメントは日本企業の強みのひとつであったが、環境変化のスピードが速まり、複雑さが劇的に増すなかで、機能不全に陥っているとの声を多く聞く。中間管理職に求められる2つの役割、すなわち社内の情報伝達における「神経回路」と「翻訳」にAIを活用して、学習する組織への転換を図り、ミドルマネジメントの役割を再定義することが組織の生産性を高めるために重要である。

 第6章では、デジタル・ITの「手の内化」を実現することの重要性と可能性を説く。日本企業が外部ITベンダーに大きく依存する構造の問題を、BCGは長年指摘してきた。昨今のAIエージェントの登場により、日本企業がデジタル・ITの「手の内化」を実現する絶好の機会が到来している。経営者はこの機会を逃すことなく、デジタル・ITのコスト抑制、開発スピード向上、ベンダー依存脱却を自ら主導する必要がある。

 第7章では、国家が戦略的に重要な産業や技術の育成を主導する新しい潮流を俯瞰する。本書ではこの世界的な動きを「新・国家資本主義」と名づけた。地政学リスクの常態化、国家間の競争の高まり、AI・ロボット・宇宙分野など時代を変えるほどのイノベーションの勃興が、この起点になっている。企業は市場競争に専念する考え方から脱却し、国の政策を注視しながら、事業機会獲得と競争力強化を追求する姿勢が求められる。

 第8章ではチェンジマネジメントの重要性を説く。企業変革のスピードが速くなり、難易度が上がるなか、変革を定着させ、継続的に成果を生むためのマネジメントの必要性は格段に高まっている。人と組織を扱うため、経営者やリーダーは自らの経験と直感に依存するケースが多く、日本企業は特にその傾向が強い。ソフトな経営テーマであるからこそ、科学的な手法が重要である。その体系的な手法の確立と、継続的な学びを組織として蓄積する姿勢こそが、変化の時代を乗り切る競争優位の源泉となる。

AI時代に戦略を研ぎ澄ます

 BCGは2026年、日本進出60周年を迎えた。その歩みを振り返るなかで、高名な経営者から大変ありがたい言葉をいただいた。「BCGジャパンが果たす役割は2つある。1つは変動する世界の中で日本企業の現在地と目指すべき場所を指し示すこと、もう1つは日本企業独自の強みに着目し、世界での戦い方を企業とともに導き出すことである」。

 私たちは、今後もこのような役割を果たし続けたい。2026年、BCGは、AI時代に顧客に約束する価値を「Strategic Clarity Meets Applied AI」と定めた。クライアントが、①日々複雑化する経営環境の中で研ぎ澄まされた戦略を策定し、②戦略実行と目標達成に大きく貢献するAIの導入を通じて経営を不断に革新し、③両者を通じて、社会を含むステークホルダーに大きなインパクトを届ける──その壮大な企業変革を支援・伴走する存在でありたい、という想いを込めた。

 本書も、AI時代だからこそ、AI一辺倒ではなく、数十年、百年続いてきた日本企業が持続的発展を遂げるための「研ぎ澄まされた戦略」の策定と、それを支える組織能力の獲得につながるテーマを抽出した。読者の皆様が2027年の企業経営を巧みに舵取りし、自社の未来を創造するための洞察を提供できれば幸いである。

【目次】

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