信頼され評価が上がる話し方をテーマに「話すこと」のプロ二人が熱く語ります。『「よい説明」には型がある。』著者で元・駿台予備学校の人気講師・犬塚壮志さんと、『最初の15秒でスッと打ち解ける 大人の話し方』著者でNHKキャスターとして17年活躍したスピーチコンサルタントの矢野香さんのオンライン対談。聞き手は日刊書評メールマガジン「ビジネスブックマラソン」編集長の土井英司さん。第1回はプロが見た「損をする話し方」。意外なワースト3は?

話し方は「型」を意識すればうまくいく

土井英司さん(エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役。以下、土井) 今回は「話し方のプロ」であるお2人が本を出版されたとのことで、お話を聞きたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。

犬塚壮志さん(教育コンテンツプロデューサー。以下、犬塚) 教育コンテンツプロデューサーで、士教育代表取締役の犬塚壮志です。もともとは駿台予備校で10年ほど講師を務めていました。現在は企業研修の講師をしたり、企業研修のプログラムを開発したりしています。趣味でコンピュータのシステム開発もしています。

矢野香さん(スピーチコンサルタント。以下、矢野) スピーチコンサルタントの矢野香です。以前はNHKで17年間、報道番組のキャスターを務めていました。現在は大学の教員として話し方を心理学の見地から研究し、その成果を政治家や経営者など、「ここぞという場面で失敗できない人々」に伝え、スピーチスキル上達のお手伝いをしています。

土井 今回、お互いの本を読まれた感想は?

犬塚 僕が今回、矢野さんの本『最初の15秒でスッと打ち解ける 大人の話し方』を読んで、一番心に刺さったのは「はずさない」というキーワードでした。今はどんな人でもパブリックな場で話す機会が増えてきていますが、そこではリスクマネジメントを考えつつ、話すという高度なテクニックが求められますよね。不特定多数の人に向け、誰に対しても取りこぼしなく話す。まさに「はずさない」話し方について書かれている第3章「『事実のみ』を話すことが『信頼』される第一歩」は特にお薦めです。

矢野 しっかり読み込んでくださって、ありがとうございます。私が犬塚さんの『「よい説明」には型がある。』を読んで感激したのは、タイトルにもある「型」です。型というのは再現性です。「犬塚さんだからできる」「あの人は話上手だからできる」のではなく、型に当てはめれば誰もが再現できるというのは、最強のスキルですよね。しかも、今回はその型が11も紹介されています。

土井 特にどの型が使えそうですか。

矢野 お勧めは8つ目の「伏線回収」です。ビジネスシーンで固すぎる話し方をすると聞き手は退屈してしまいます。とはいえ、冗談は難易度が高く、すべってしまうとイタい。そんなとき、本書で紹介されている「この部分、モヤモヤして当たり前のところです。ただ、後で必ずスッキリします」といった伏線回収の型を使えば、相手が前のめりになって話を聞いてくれるでしょう。早速、使わせていただきます。

土井 『「よい説明」には型がある。』には巻末資料として、「よい説明『11の型』即効フレーズ集」も掲載されていますから、これをパッと見るだけでも使えそうですね。

 ところで、お二人はどのように「話し方」のスキルを磨いてきましたか。

犬塚 僕の場合、話せないと生き残れない予備校講師という仕事を選んでしまったからです。でも、もともと話すことは大の苦手で。小さい頃はあまり友人がおらず、昆虫採集ばかりしていて、昆虫学者になりたいと思っていました。だから、中学生の頃は人前で話す場面があると声は上ずり、耳まで真っ赤になって、手に汗びっしょり……という状態でした。

 でも、生物や化学が好きだったので、その知識で人の役に立てるかもと思い、受験業界に飛び込んだんです。話すスキルがないと、1年間で契約が切られてしまう予備校講師として、生き残るために話す技術を身に付けました。

「もともと話すことは大の苦手。予備校講師として、生き残るために話す技術を身に付けました」(犬塚さん)
「もともと話すことは大の苦手。予備校講師として、生き残るために話す技術を身に付けました」(犬塚さん)
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矢野 私も話すことは「攻めと守りの武器」でした。新卒でいきなりNHKキャスターとなりました。本来あってはならないことですが、最初は、ニュースの内容が十分に理解できていないまま原稿を読んでいたときも。でも、私がいくら未熟だとしても、視聴者から見たらNHKキャスターです。「新人だからと言い訳するな」と指導されました。まずは外側の話し方を整え、信頼していただくことで自分の身を守る。同時並行して勉強不足を補う努力をしました。そこから武器として話し方を磨いてきました。

「NHKキャスターとしてまずは外側の話し方を整え信頼を得る。そこから武器として話し方を磨いてきました」(矢野さん)
「NHKキャスターとしてまずは外側の話し方を整え信頼を得る。そこから武器として話し方を磨いてきました」(矢野さん)
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プロが見た「やらかしている話し方」は?

土井 お二人にもそんな時代があったんですね。話し方のプロになってみて、「こんな話し方では損をする」という「やらかしている典型例」はありますか。

犬塚 僕の場合、第3位は「結論ファースト一辺倒」です。確かにビジネスの場合、結論ファーストは大事なのですが、大前提としてお互いの知識が共有できていないのに「結論ファースト」に走りすぎると「何の話?」となってしまいます。それに先ほど矢野さんが言われたように、会話には「伏線回収」のような、知的好奇心を刺激することも場合によっては必要です。ハーバード大学のロースクールでも「交渉では結論から先に言うな」と教えているといいますし、何でもかんでも結論ファーストにこだわってしまうのはもったいないですね。

土井 なるほど。そうすると第2位は?

犬塚 第2位は「相手の質問に回答していない」です。予備校でも生徒が「この問題はどう解けばいいですか? どう勉強すればいいですか?」と聞いているのに、講師が「そもそも勉強とは……」という精神論を語り始めて、話がかみ合わないことがありました。講師も授業ならある程度の準備ができるのですが、その場の質疑応答となると力量の差が出てしまいますね。

 第1位は「意図せず差別発言をしてしまう」です。今は多様性の時代ですが、いまだに「この人はこういう人だから」とあるカテゴリーでひとくくりにして、バイアスのある発言をしてしまう人もいます。そうすると視野が狭いと思われ、非難されやすくなります。

土井 「地方出身だから」「○○大卒だから」といったグルーピングもそうですね。矢野さんは?

矢野 第3位は「情報源がない」です。「○○らしい」とあいまいな情報ばかりで出典が不明確な話し方です。自分の体験や1次情報として話せない人はビジネスパーソンとして残念ですね。

 第2位は「親しみやすさと軽さを混同している」。今回の本のタイトルは『最初の15秒でスッと打ち解ける 大人の話し方』ですが、仲良くしようとするあまり、「軽すぎる話し方」になってしまっては信頼を失いかねません。

 そして、第1位は「話すことが目的になっている」。「プレゼンしてください」「ちょっと一言」と言われた場面で、自分が話すこと自体が目的になっていないか。その先にある交渉をまとめる、また会ってもらうといった目的を明確にせず話している例です。

土井 なるほど。どのパターンも考えさせられますね。「相手の質問に回答していない」はそもそも話し方として0点だし、「意図しない差別発言」で炎上する案件も後を絶ちません。今は誰もが情報発信する時代ですが、そこで情報源があるのと情報源がないのとでは信頼度が違ってくる。いくら親しくなっても信頼が獲得できなければビジネスとしてアウトです。

 では、次回は実際にどうすればいいのかを教えてもらいましょう。

「いくら『親しく』なっても信頼が獲得できなければビジネスとしてアウトですよね」(土井さん)
「いくら『親しく』なっても信頼が獲得できなければビジネスとしてアウトですよね」(土井さん)
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取材・文/三浦香代子 構成/酒井圭子

日経ビジネス人文庫『 「よい説明」には型がある。
「即効フレーズ」を豊富に掲載。実践の場で今すぐ使える!

元・駿台予備学校人気日本一のカリスマ予備校講師が、1000人以上の説明を分析して見いだした「よい説明の型」。実践で即使える11個の型に絞って一挙公開。聞き手を観察し、最適な「型」に当てはめるだけで説明上手になれる。

犬塚壮志著/日本経済新聞出版/935円(税込み)
初対面の人にも、苦手な人にも、もっと仲良くなりたい人にも!

元NHKキャスターで「話し方指導」のプロが教える、信頼され・評価される「はずさないコミュニケーション」。相手に心を開いてもらうには“最初の15秒”が肝心。心理学の知見を踏まえ、好印象を与えるスキルを徹底解説。

矢野香著/日本経済新聞出版/880円(税込み)