話題の不正会計問題や会計のつまずきがちなポイントなどを分かりやすく解説する、「公認会計士YouTuberくろい」こと、白井敬祐さん。「会計が分からない人」に寄り添った解説の裏には、自身も会計の勉強で苦労した経験がある。そんなくろいさんにすべての社会人に向けて、会計の基本を一から学ぶための本をセレクトしてもらった。
女騎士が「簿記」で世界を救う、ファンタジー漫画
前回、会計を学ぶにはピラミッド状のイメージ図があって、その土台部分から順に本を読んでいくといいと話しました。「決算書とは何か」については、会計の歴史の本やリアルな実例からクイズ形式で学べる本を紹介しました。今回は、ピラミッド中段より上の本を取り上げたいと思います。
まず紹介するのは「簿記」が異世界ファンタジーで学べる漫画 『女騎士、経理になる。』 (Rootport原作、三ツ矢彰作画、バーズコミックス)。ライトノベルを漫画化した作品で、読みやすいのに、本格的な簿記の知識を学べます。簿記の勉強をしようと考えている人は、まずこの漫画を読んでからテキストを見るととても分かりやすいと思います。
物語は女騎士が魔族に捕らえられるシーンから始まります。魔族は「法人化」を計画しているものの、人手不足でどうにもならない。そこで女騎士が経理を手伝うことになり、簿記を取得して…というストーリー。経営が傾きかけている飲食店を簿記の知識で救っていくといった流れで、ややこしい仕訳の貸方・借方の考え方についても理解できます。手形や小切手、国債など実生活でのお金の仕組みも扱っています。
漫画は全8巻で、読みながら女騎士と一緒に徐々にレベルアップしていけるでしょう。作画は、私の著書 『会計が面白いほどわかるミステリ 決算書に隠された7つの罪』 (KADOKAWA)の漫画も担当してくれた三ツ矢彰さん。というか、この漫画を読んで面白かったのでお願いしたんです。
高級フレンチはもうかる?
続いては、ベストセラーになった 『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』 (林總著、PHP文庫)。「もうけるためにはどうすればいいか」を考えるために経営者などが使う「管理会計」について初心者でも分かりやすく学べます。今まで紹介した本と合わせて読むとより深く理解できますし、管理会計のエッセンスを知っていることはビジネスの場で強みになると思います。
父の遺言で倒産寸前のアパレル企業を継いだ主人公・由紀が、必要に迫られて会計の知識を学んでいくというストーリー仕立てで、会計を解説した本です。ビジネスモデルの戦略から粉飾決算まで、経営者だけでなくあらゆる社会人が知っていて損はないテーマが盛り込まれています。
「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」とタイトルにある疑問についても解説されています。どちらが良い・悪いではなくビジネスモデルの違いなのですが、餃子屋は原価が安く、店舗の家賃などの固定費が安い。対する高級フレンチは原価が高く、固定費が高い。一見、メニューの値段が高い高級フレンチのほうがもうけやすいと思いきや、実はハイリスク・ハイリターンの商売なのだと分かります。
年齢を重ねるほど、読書の重要性に気付かされる
これまで会計に関連する本を紹介してきましたが、実は 第1回 でお話ししたように、私は活字が苦手でした。昔はそれほど読書習慣がなかったのですが、40歳になり読書の重要性を痛感しているところです。
読書家の人はやはり語彙が豊富ですよね。「いい表現を使うなあ」と感服してしまいます。私もいい大人ですし、YouTuberや講師など言葉を扱う仕事をしているので、語彙力がないと教養のなさを露呈するようで恥ずかしい。今までは仕事の勉強になる本ばかりを中心に読んできましたが、今年に入ってからは、意識的に小説を読むようになりました。最近読んだ、凪良ゆうさんの 『汝、星のごとく』 (講談社文庫)は文章が美しかったですね。瀬戸内の島を舞台に2人の高校生が恋に落ち、環境や夢のすれ違いから離ればなれになっていく15年間を描いた作品です。
ファンダム経済をテーマにした朝井リョウさんの 『イン・ザ・メガチャーチ』 (日本経済新聞出版)は、これまで仕事一辺倒だった自分の生き方を考えさせられました。仕事を引退したとき、自分には何が残るのかと。「話し相手が会社の部下のみ」というビジネスパーソンの方がいたら、本書を読んで「退職したときに自分には何が残るのか」ときっと考えてしまうと思います。
かつて私が公認会計士の受験勉強をしていたときは3年間、毎日12時間ぐらい勉強していて、「勉強以外の時間はムダ」と考えていました。よく野球やサッカーなど他人を熱狂的に応援している人を見ると、「自分の人生を応援したらいいのに」「勉強でもしたら?」と思っていたんです。でも、『イン・ザ・メガチャーチ』を読んで「推し活はただ他人の人生を応援しているんじゃない。応援することで、自分自身が元気をもらっているんだ」とようやく分かりました。
小説を読むと、当たり前だと思っていた自分の価値観が揺さぶられるのがいいですね。最近は夜に寝る前はなるべくスマホを見ないで、本を読もうと心掛けています。
取材・文/三浦香代子 構成/大松佳代(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか



