(写真提供=CCC)
(写真提供=CCC)

※日経ビジネス電子版の連載企画「書店再興」を基にした新刊『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』が2026年3月27日に発刊しました。このコラムには同書のベースとなった記事をセレクトして転載しています。その30回。

 書店の生き残りをかけて、IT、AIを駆使した新規ビジネスが登場する一方で、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ、横浜市)が運営する蔦屋書店では、価値の源泉を「本」と「人」に置いている。その象徴的な存在が、コンシェルジュ。コンシェルジュが成功させた、本を売る仕掛けを、「梅田 蔦屋書店」の店長にして文学コンシェルジュでもある北田博充さんに聞いていく。

2015年にオープンした梅田 蔦屋書店は、大阪駅直結のファッションビル「LUCUA 1100(ルクア イーレ)」内にあり、面積が約1000坪という大型店です。ここは、全国の蔦屋書店の中でビジネス書をいちばん売り上げている店舗とか。

梅田 蔦屋書店(以下すべて写真提供=CCC)
梅田 蔦屋書店(以下すべて写真提供=CCC)

北田博充・梅田 蔦屋書店店長(以下、北田):はい、大阪駅直結という立地特性上、オープン当初からビジネスパーソンのご利用が多い店舗でした。開業時はまさに「ワークスタイル」というジャンルに注力して、マーチャンダイジングを行っていましたが、その半面、突出した特徴や強みが存在せず、新型コロナウイルス禍を機に在宅勤務へのシフトが進んだことで、ビジネス書の売り上げも低下傾向にありました。

 前回、CCCの鎌浦からお話をさせていただいた通り蔦屋書店は、銀座と京都はアート、二子玉川は家電など、それぞれに強みがあります。

 梅田でもワークスタイルだけに頼らない特徴付けが必要で、20年から主力ジャンルの「ワークスタイル」に「エンタメ」を加えて、その2本柱で働き方の提案と、その表裏となる私生活での“推し活提案”を積極的に始めました。

北田博充(きただ・ひろみつ)
北田博充(きただ・ひろみつ)
梅田 蔦屋書店店長、文学コンシェルジュ。1984年、兵庫県神戸市生まれ。大学卒業後、出版取次会社に入社して、本+カフェ+雑貨の複合業態「マルノウチリーディングスタイル」を2013年に立ち上げ、その後にリーディングスタイル各店で店長を務める。16年にひとり出版社「書肆汽水域」を設立。同年、CCCに入社。二子玉川 蔦屋家電で文学コンシェルジュを務め、20年に「二子玉川 本屋博」を企画・開催。現在は梅田 蔦屋書店の店長、文学コンシェルジュ。著書に『これからの本屋』(書肆汽水域)、編著書に『本屋のミライとカタチ 新たな読者を創るために』(PHP研究所)

推し活と梅田店の相性はバツグン

推し活提案とは、どういうものなのでしょうか。

北田:端的にいうと、タレントさんに会えるようなイベントで、週末に集中して数多く催しています。

 先に成果からお伝えしますと、推し活提案を行う前と2025年度で比較すると売り上げが10倍になるなど、ものすごい増加になりました。

え、いきなりすごい伸びです。それはエンタメジャンルに限った本の売り上げということですね、念のため。

北田:その通りです。

成功の前提として、なぜエンタメを強化しようと考えられたのでしょうか。

北田:そこには3つの背景と理由があります。1つ目は「顧客層マッチング」の視点です。
 表1は「ライフスタイル推計値」という、顧客層の志向性を表すグラフですが、梅田蔦屋では、そのライフスタイル推計値のグラフが「SHIBUYA TSUTAYA」(東京・渋谷、24年にリニューアルオープン)と「TSUTAYA EBISUBASHI」(大阪・戎橋、03年オープン)と、ほぼ同じ折れ線グラフだったんです。

(出所:CCC社内資料)
(出所:CCC社内資料)

渋谷と戎橋は、いずれもCCC直営の「TSUTAYA」ブランドで、アニメ、音楽、本と、エンタメに関する総合的な旗艦店。立地はまさに若者文化のど真ん中ですね。

北田:ライフスタイル推計値の折れ線グラフがシンクロするということは、渋谷や戎橋で取り組んでいるタレントイベント、推し活提案が、梅田でも商機を生み出すのではないか。そう考えたのです。

なるほど。では2つ目とは?

北田:2つ目は、梅田 蔦屋書店が都心型の駅直結商業施設に出店しているという、その立地特性です。タレントさんが来られるイベントには、遠方からもお客さまがいらっしゃるので、アクセスしやすい立地は、大きな利点になります。

 そして3つ目が、梅田エリアにこのような大型のエンタメイベントをできる書店が少なかった、つまり競合が少なかったということになります。

イベントの中身はどのようなものなんでしょうか。

北田:タレントさんの写真集や本のお渡し会が中心になります。23年にパイロット的な意味で、初めてお渡し会を行いました。当時の1イベントあたりの売り上げと比較すると25年は約6倍となり、ついに1つのイベントで数千万円という、大きな売り上げをつくるまでになっています。

すごい。エンタメが、本の救世主になるという流れがここに立証されたわけですね。

北田:その勢いは私たちにしても驚くもので、先日催したお渡し会では2000人以上のお客さまが列に並んでくださり、数千冊もの写真集が売れました。

梅田店では毎週末お渡し会を開催し、都度500~2000人の参加者が“お並び列”をつくる。
梅田店では毎週末お渡し会を開催し、都度500~2000人の参加者が“お並び列”をつくる。

写真から熱気が伝わってきます。好きなタレントさんに、実際に会えるなら、ファンはどんな遠方からでも駆け付けたいと思うでしょうね。

北田:イベントは毎週末に開催しており、店舗の外側にも長い行列ができます。この列からスタッフが店舗内にお客さまを誘導して、タレントさん本人が本をお渡しする流れになっています。会場にフォトスポットとなるパネルを設置することもありますが、そこにもお客さまたちが集まって、にぎわっています。にぎわい、活気は、店舗にはなくてはならないものですので、これらのイベントでは、利益だけでなく、今までになかった顧客価値を生み出すことができたと、私たちは考えています。

エンタメイベントだけが本屋さんの強みではない

書店がAKB劇場のようになっている様子は、保守的な本屋さんファンからしたら、「?」かもしれませんが、書店がにぎわって、売り上げが伸びることは、たいへん結構なことだと思います。

北田:蔦屋書店はライフスタイル提案をする場所ですが、エンタメや推し活も日々の暮らしを豊かにするライフスタイルの一つだと私は考えています。実際にイベントを催すと、お客さまがすごく楽しみに来てくださり、好きなタレントさんに会えて、涙を流して感動する方が、たくさんいらっしゃるんです。

 普段は仕事や勉強にコツコツ取り組んで、休みの日に推しの人に会うことで、その先の私生活や仕事、学校でもイキイキできる。そのきっかけを書店が提供できていることは、プラスのことと、とらえています。

 ただ、この事例から私がお伝えしたいことは、エンタメイベントを企画して、売り上げを増やしましょう、ということではありません。

何を伝えたいと思われますか。

北田:蔦屋書店に限らず、どの書店でも自店が持つ利点にフォーカスできれば、独自の強みをつくることができる。そのことをお伝えしたかったんですね。

静かな雰囲気こそが、独自の強みになる書店もありますから、何もかもマネる必要はない。冷静に自分の強みを考えよう、ということですね。

北田:ここからは2つ、「二子玉川 本屋博(本屋博)」と「Book Fair Championship(ブックフェアチャンピオンシップ、BFC)」というイベントについて、お話ししたいと思います。この2つは、自店の取り組みというよりは、書店業界全体を盛り上げていくために、私が企画したものです。

 なぜ業界全体なのかいうと、今の時代は自店だけがよければそれでいい、とはならない状況で、書店業界全体が盛り上がらないと自店も生き残れない厳しさがあるからです。

全国の書店数が20年前に比べて半分になり、書店ゼロの自治体が全国の3分の1に上る。書店業界のニュースが、多くの場合、ネガティブトーンで伝えられています。

北田:それは事実かもしれませんが、ネガティブなニュースばかりが報じられると、その業界には若い人材って入ってこないですよね。若い人材が入ってこない業界は、さらに廃れていく。でも、本と書店を好きな人たちは、広く、深くいます。私は、業界をとりまく負の連鎖イメージを打破したいので、逆にポジティブなニュースを発信しようと考えました。

そうですね。働き盛りの人口が大きかった昭和時代に比べたら、書店業界に限らず、多くの小売業界が数字上では「衰退する」のは必然です。しかし肝心なことは、半世紀前の書店モデルを温存することではなく、激しい変化の中で、いかにゲームチェンジをしていくか。実際、「書店再興」の連載で話を聞いた方々は、真剣に、楽しみながら、新しい価値をつくり出しています。

ニコタマに「本の楽園」を!

北田:そうでしょう! そこで私は、まずは本が飛ぶように売れていく「本の楽園」をつくろうと思いました。

え、そんな楽園がつくれるんですか。って、真っ先にネガティブな反応をしてしまいました。

北田:夢みたいな話ですが、そのように考えて20年に催したイベントが「二子玉川 本屋博」です。二子玉川 蔦屋家電が入居する複合商業施設「二子玉川ライズ」の中庭敷地をマルシェ会場にして、40の書店に出店していただきました。「Cat's Meow Books 」「双子のライオン堂」「いか文庫」など、いずれも店主の個性あふれる書店です。文字通りのブックフェスとして、会場では1時間おきにトークイベントや、音楽ライブも催しました。その結果、1月31日と2月1日の2日間で、3万3000人の来場がありました。

本屋博に出店した書店(出所:CCC社内資料)
本屋博に出店した書店(出所:CCC社内資料)

コロナ禍が取り沙汰されるギリギリ直前。滑り込みのタイミングでしたね。

北田:そうだったのですが、来場者は事前に想定した2万人を大きく上回って、2日間で3万3000人が来場し、1万冊以上の本が売れました。

それを聞くと、書店消滅というあおりはウソじゃないかと思いますね。

本屋博でのにぎわい
本屋博でのにぎわい

北田:これだけたくさんのお客さまが、書店主さんとコミュニケーションを取って、その場では本がまさに飛ぶように売れていく。本屋博が終わった後、「X」では出店者さんから「分厚かろうが高かろうが(本が)ポンポン売れた」「本がめちゃくちゃ売れた。ZINE(小冊子)200冊もあっという間に完売した」「売れないね~とヘラヘラしていたのが、情けなくなった」といったポストが相次ぎました。

 中には、「なんだか本の神様が創った楽園のような……」という、まさに私が意図した通りのポストもあり、とてもうれしかったです。

本屋博では、お坊さんのいる書店「書坊」も出店
本屋博では、お坊さんのいる書店「書坊」も出店

コロナが明けた後、日本の各地でまちおこしも兼ねたブックフェスが盛んに催されています。このように環境設定をして、本を売ろうと思えば、売れるんですね。

北田:そう、やろうと思えばできるじゃん! なんです。このイベントをきっかけに、会場にいらした方々が、出店元の本屋さんのファンになり、後で実際のお店にも行くようになるという好循環も生むことができました。

本屋博には、無店舗ながら日々どこかで開店している”エア本屋”「いか文庫」も出店
本屋博には、無店舗ながら日々どこかで開店している”エア本屋”「いか文庫」も出店

「書店員のM-1グランプリ」で現場の店員さんを元気づける

北田:2つ目が、「ブック・フェア・チャンピオンシップ(BFC)」です。

 これは全国の書店員が、自分たちのフェアの腕を競い合う王座決定戦。チャンピオンにはチャンピオンベルトと賞金10万円が出て、毎年防衛戦が開催されていく仕掛けになっています。

各書店で開かれている販促フェアを競うということですか?

北田:はい。全国の書店では、お客さまを惹きつけるフェアが、様々に催されています。当たり前の光景かもしれませんが、これらはテーマ設定から選書、陳列まで、書店員の総合的なスキルが試される仕事で、創意がつまったものなのです。ただ、これまでは当該書店だけと、限られた範囲の中でフェア情報が回っていて、他の書店のフェア企画やノウハウは共有されていなかった。それがもったいないと、ずっと思っていたのです。

 そこで、まずはBFCの実行委員会を立ち上げて、エントリーされたフェアを公式ホームページで公開することで、一般のお客さまにも、面白いフェアがあること、そして、それらを企画する書店員がいることを知っていただこうと考えました。

書店員のM-1グランプリのようなものですね。

北田:M-1グランプリしかりであり、私の好きなプロレスしかりです。ともかくエンタメ的にショーアップして、王座決定戦を行うことで、書店の垣根を越えたナレッジの共有がされるのではないかと考えました。

話題づくりとともに、書店員さんのモチベーション向上を狙っているのでしょうか。

北田:実はそこがいちばんの目的です。

 たとえば漫才界ではM-1グランプリが創設されたことで、漫才全体のクオリティーが上がり、お笑いのファンが増え、さらに自分も芸人になりたいという人も増えたはずです。こういう好循環を書店の現場でもつくっていきたいんですね。

 作家には芥川賞、直木賞といった文学賞があり、出版社にも各種の出版賞や造本装丁のコンクールなど公に評価される機会があります。一方で、書店員については、そのような評価機会がありません。そのことに私はモヤモヤしていたので、だったら書店員、コンシェルジュである自分がつくってしまおう、と。私には、書店員をあこがれの職業にするという夢があって、BFCはその第一歩です。

BFCの運営は蔦屋書店が担うのでしょうか。

北田:私が実行委員長を務めていますが、丸善ジュンク堂書店さん(東京・中央)や、出版社のライツ社さん(兵庫県明石市)、クロスメディア・パブリッシングさん(東京・渋谷)ら10社18名の実行委員に協力していただいております。また、運営資金は紙の専門商社、出版社、取次など16社の協賛で賄っています。

 選考委員は芥川賞作家の滝口悠生さん、第2回からは直木賞作家で2019年から直木賞の選考委員も務める角田光代さん、「フラヌール書店」店主の久禮亮太さんの3人に最終選考をしていただいています。

 初回には全国から154件のエントリーがあり、今年(25年)2月に、初代チャンピオンの決定戦がありました。

初代チャンピオンのMARUZEN&ジュンク堂書店・新静岡店の久保田理恵さんに、新日本プロレスの棚橋弘至さん(写真右)がチャンピオンベルトの贈呈を行った。来年2月には2代目チャンピオンが発表で、久保田さんにとっては初めての防衛戦
初代チャンピオンのMARUZEN&ジュンク堂書店・新静岡店の久保田理恵さんに、新日本プロレスの棚橋弘至さん(写真右)がチャンピオンベルトの贈呈を行った。来年2月には2代目チャンピオンが発表で、久保田さんにとっては初めての防衛戦

本屋さんにハレの日を

北田:本屋博とBFCに共通するものは、「本屋におけるハレの機会」の創出です。書店員の仕事は業務過多、人員不足と過酷な割に、どんなにがんばっていても褒められることがない、つまりハレの機会がないのです。そうなると、書店員を目指す方はやはり少なくなると思います。そこも何とかしたいのです。

ひねた見方になりますが、本屋博やBFCのようなイベントで注目を集めても、本が日常的に売れるようにならなければ、一過性で終わるのでは? またまたネガティブな意見をいってしまいました、すみません。

北田:そのようなご意見はよくいただきますが、私はそんなことは全然ないと思っています。ハレの日があるからこそ、ケの日をがんばれる。年に1回でも、不定期開催でも、BFCや本屋博のようなお祭りがあるから、それを目指して、新しい企画を生み出そうという気持ちになるのです。それこそが、書店の持続可能性だと思っています。

北田さんのように、周囲を巻き込み、前を向いて走りながら、本を売る。書店員さんのモチベーションについても、応用可能な仕掛けやアイデアを次々とうかがいました。それらのアイデアが実証を経ながら、数字につながって、かつ業界活性に一役買っていることは確か。新内閣のように、スピード感と実行力が、人々にアピールするということですね。

(第3回・後編に続きます)

日経ビジネス電子版 2025年11月27日付の記事を転載]

「本屋さんがなくなる」悲観論ばかりが叫ばれる書店業界で、直木賞作家・今村翔吾氏を初め、個人が、企業が立ち上がる。経済産業省や地方自治体も黙っちゃいない。昭和の発想を切り替えて、書店を「頑張れば稼げる」ビジネスに変えていく具体的な試みはいくつもある。これらの発想は異業種にも応用可能だ。

清野由美(著)/日経BP/2530円(税込み)